道具作り
目下の私の課題は、今現在計画中の実験農場と、学校のための用地の選定だ。
私は、目の前に広げられた地図を睨みながら考える……。
「この地図って、信用できるのかなぁ」
そう、今考えているのは、用地の選定以前の問題。
地図の信用度だ。
町の具体的な発展計画を立てるために、先日アルトさんにこの町とその周辺の地図を借りた。
それが、目の前の地図。
前世の地図を見慣れた私には、どうにもこの地図が信用できない。
というか、子供が遊びに使う宝の地図だ。
RPGのマップの方がまだ信用できる。
今後の都市計画のこともあるし、まずは地図の作成からだな。
私は、この世界の農作物について調べてもらっているレジーナとレオ君に声をかけた。
ある程度正確な地図を作りたいということで、どのような手順で進めるかを話し合う。
そして、また新たな問題が浮上する。
「ねえ、ある程度の長さを計れる道具って、あるのかなぁ?
距離とか測れるようなもの」
「「???」」
「ふつう、長さを測る時ってどうするの?」
「歩いて歩数を数えます」
「手で測るな」
「つまり、ある程度の長さは手の幅とかで測って、長い距離は歩幅と歩数で計算するってこと?」
これは予想して然るべきだった。
この世界には、正確な長さの尺度はないらしい。
この世界の1メートルは、大体大人の肩幅の2倍、もしくは大人の1歩分、子供の2歩分の歩幅、ということらしい。
それだと、地球の1mよりは少し短いくらい?
まぁ、それはどうでもいい。
問題は、この世界の1メートルが、かなりアバウトだということだ。
今後の街作りのことを考えると、せめてこの領内だけでも長さの単位を統一しておきたい。
地図を作る前に定規の作成が必要とは……。
前途多難だ。
「アメリア様の歩幅の2倍で」などと言うレオ君の間抜けな意見は却下して、何か1m程度のもので基準になるものはないかと考える。
私の歩幅なんかにしたら、それこそ街が完成する前に長さが変わってしまう。
私は日々成長しているのだ。
色々と検討した結果、神殿の石板の横幅の2倍を1メートルとして採用することにした。
丁度大人の肩幅くらいの長さだったし、神殿の石板なら紛失してしまうこともないだろう。
神殿で長さを写し取ってきた紐を前に、私は目の前の銅塊に手を触れる。
紐と同じ長さの長細い棒をイメージして、金属を加工する金魔法を唱えれば、紐の長さと寸分変わらない1mの物差しが完成した。
次にやることは、物差しに目盛りを書き込む作業だ。
まず、紐を半分に折って、50cmの位置を決める。
それをさらに折れば、25cmの位置も確定。
問題はその後だ。
基本素人が測量に使うならこれくらいの目盛りで十分なんだけど、せっかくだし、せめて5cm刻みくらいにはしておきたい。
これからも、長さを測る道具は必要になるからね。
考えた結果、まず1mの紐を3つに折って33cmの長さを作り、そこから25cmの紐を半分にして作った12.5cmを引くことにした。
これで大体20cmだから、これを半分にすれば10cmだ。
更に半分で5cm。
とりあえず、これで5cm刻みの目盛りのついた1mの物差しが完成した。
「うん、こんなものかな」
改めて完成した物差しを持って……重い!
木だと反っちゃっても困るし、鉄だと錆びるかと思って銅で作ってみたけど、やっぱり子供には重い。
私の身長と変わらない銅の物差しは、もう物差しというよりはほとんど棍だ。
レオ君、それは武器じゃないから!
ちょっと使い勝手も悪いし、50cmの物差しもついでに作っておくか。
私はもう一つ銅の塊を手に取り、今度はさっきの物差しの半分の長さになるようイメージして、短い物差しも作った。
念のため長い方の物差しで長さも確認したけど、きっちり50cmだった。
よし、OK……と思ったところで、あることに気がつく。
あれ?
さっき、具体的な長さを“イメージ”したっけ?
最初に1mの物差しを作った時には、実際に1mの長さの紐を置いて、その紐と同じ長さの物差しをイメージした。
でも、2回目は?
特に1mの物差しを確認するでもなく、『さっきの物差しの半分の長さで』と“考えて”作っただけだ。
別に具体的に50cmの棒を想像して作ったわけではない……。
前に金魔法の実験と練習をした時には、“1m”というイメージで作った棒は、どれも微妙に長さが違っていた。
イメージした長さが曖昧だから、実際の長さもきっちり同じにはならないのだろうと考えていたけど……。
試しにもう1本同じ50cmの物差しを作ってみたけど、やっぱり寸分違わず50cmだった。
これって、以前は私の中での1mが曖昧だったから長さが揃わなかっただけで、1mの認識がしっかりしていれば、魔法の結果もしっかりしたものになるってこと?
要は、イメージ云々は関係なく、指示が正確なら、その指示通りに魔法は発動するということでは?
私は、先程作った50cmの棒を手に取って、“イメージ”ではなく“指示”を出す。
『この棒を等間隔に50に分ける目盛りを刻め』
はい、完成しました。
1cm刻みの完璧な物差しが。
さっきまでの苦労は何だったんだろう……。
この世界の魔法は、こういうところが妙に機械的というか……。
ある意味、いい加減な気がする。
私の“割り算”の魔法もそうだ。
闇の魔法の本来の使い方は魔力を縮小させるもののはずなのに、『計算上はそうなるよね』って感じで、極極少量の魔力で大きな結果を作り出してしまう。
ともあれ、これで測量器具の問題も解決だ。
同じ要領で分度器も作成して、本日の道具作りは終わった。
度量衡が統一されていない国なんて、そもそもおかしいだろう?
どうやって家を建てるんだ?
そんなご指摘を複数の読者様からいただきまして…。
はい、おっしゃる通りです。
私もそう思います。
ただ、逆にいうと、そういった部分が全て魔法で何とかなっちゃうとしたら、科学とか学問とかって発達しないかも…
ふだん当たり前に使っているけど(長さの単位とか…)、知識って大切なんだよっていうのが作品コンセプトの一つだったりします。
逆に、度量衡って大切だよねと、感じていただければ幸いです。