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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第1章 アメリア、領主となる

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女の子

 レオ君とのいつもの帰り道。

 今は閉まっているお店の前を通りかかった時に、それは起こった。

 お店の前で所在なく(たたず)んでいた女の子が、私の方を見ると何かに気がついたように私に近づいて来たのだ。


「ん? レジーナ?」


 近づいて来た女の子に気づいたレオ君が声をかけるが、その女の子はそんなレオ君を無視して私の服の背中の辺りに手を触れた。

 咄嗟に振り返る私に、逆に驚いた様子を見せる女の子。


「ごめんなさい、驚かせちゃって。

 私はレジーナと言います。

 お嬢様のお洋服にひどい汚れが見えたものだから……。

 私は服の汚れをきれいにする魔法が使えますから、よろしければすぐにきれいにできますよ」


 ああ、この子、土魔法が使えるのか。

 土魔法は土の中から自分が望む金属を取り出す魔法だ。

 一応基本魔法になるので、大抵どの神殿にも土魔法はある。

 ただ、火魔法や水魔法と違って、土魔法は鉱山以外ではあまり使われない魔法のため、覚える者は少ないのだ。

 ただ、土魔法にはあまり知られていないだけで、意外と便利な使い道がある。

 その一つが、洗濯の魔法。

 土魔法は魔力を通した物体の中から自分が望む物を取り出す魔法だから、服の繊維から汚れを取り出すこともできる。

 この子は、その魔法を使おうとしているのだろう。

 改めて私の服の汚れに触れようとする手を、私は軽く払い除けた。


「結構よ。私の服に触れないで」


 そう言うと、私は女の子を無視してさっさと歩き出す。

 後ろではレオ君が私と女の子に何か言っているけど、とりあえず無視した。

 ついでに、物陰からこちらを見ていた護衛の人には、軽く首を振って何もしないように頼んでおいた。


 それにしても、ああいうの、この世界にもあるんだね。

 いや、人が考えることなんてどこも同じか。

 前世の発展途上国ではよく見た手口だ。

 わざと手を汚しておいたり、靴墨なんかを隠し持っていたりして、近寄ってきた子供がこちらの服の見えない部分をわざと汚す。

 次に仲間か本人かがそ知らぬ顔でその汚れを注意してきて、きれいにしてあげるからと親切そうに言ってくるのだ。

 その後は下手な染み抜きをした上で法外な代金を請求されるか、悪質なものになるとそのままどこかに連れ込まれるか……。

 似たような手口で服やリュックを破る、靴を壊すなんてのもあったけど、手口はどれも同じ。

 要は自作自演だ。

 あの女の子はこの町の子供で、レオ君の知り合いっぽかった。

 ああいう商売は一見(いちげん)の何も知らない旅行者相手でないと成り立たないから、知り合いだらけで外から人が来ることがないこの町では、職業として成り立たないはずだ。

 とすると、私に個人的に用があったってことかなぁ……。

 とりあえず、お屋敷に戻ったらアルトさんに何か知らないか聞いてみるか。


 恐らく私がとった態度が気に入らないのだろう、不貞腐れた様子で後ろをついて来るレオ君を無視して、私はお屋敷への道を急いだ。



 夕食の後、レオ君には気づかれないように注意しつつ、私はアルトさんの執務室で、お母様とアルトさんに今日の帰り道で起きたことを報告した。


「そうですか……。

 レジーナが……」


 一応今日の護衛の人からも帰り道のことは報告されていたらしいけど、なにぶん遠くから見ていただけなので、細かなやり取りまでは分からなかったみたい。

 武器らしい物は持っておらず、知っている町の子供ということで、ただ同じくらいの歳の女の子に興味を持って、話しかけただけだと判断したそうだ。


 あっ、お茶を淹れてくれているサマンサの表情が変わった。

 そりゃあ、そうだよねぇ。

 まだ子供のレオ君ならともかく、大人の護衛があれではお話にならない。

 これは、サマンサかダニエルによる再教育決定だな。

 ご愁傷さま。


 その後、今日の女の子のことを、詳しく教えてもらった。

 名前はレジーナ。

 この町唯一の商店の娘だったが、半年前に父親が亡くなり、今はアルトさんや近所の人のサポートでなんとかやっていっているということ。

 魔力値は100程度で、この町の住人としては平均的だが、商人の娘としては決して高い方ではないこと。

 町に身寄りもなく、今後の扱いについては町でも決めかねていること。


「父親が死んでからは疎遠になってますが、昔はレオともよく遊んでいましてね。

 ここにもよく遊びに来ていましたよ。

 こんな悪戯をするような子ではないはずなんだが……」


 うん、私もそう思う。

 あれは悪戯なんかじゃない。

 もっと計画的で、真剣なものだった。

 あの行動も、あの時の台詞も、きっと何度も練習したものだ。

 あの目は、生活のかかっている子供の目だ。

 最初はお金目当てかと思ったんだけど。

 話を聞いた限りでは、今日明日の生活費に困っているという感じでもない。

 とすると、私に取り入るのが目的かな……。


「あの女の子を、お屋敷に呼んでもらえますか?」


「それは……。レジーナには私からよく言い聞かせておきますので……」


 私があの子を処罰でもしようと考えているのかと、慌てるアルトさん。

 実際、これはそれだけの問題だ。

 仮にも公爵家の人間に、平民が無礼を働いた。

 しかも、わざとである。

 たとえ子供であっても、十分処罰される案件だ。

 子供の悪戯で済む話ではない。

 それこそ、場合によっては、その子供を保護している男爵家すらも罪に問われかねないほどの案件なのだ。

 だからこそ、アルトさんも子供の私に対して真剣に対応している。

 でも、それは勘違いだ。

 私は別にあの子を処罰しようとは思っていない。

 というか、私に実害がなければという条件付きだけど、私はああいう子は基本的に嫌いではない。

 前世で旅をしている時にもああいう子は見かけたけど、みな子供とは思えないほど真剣にがんばっていた。

 まだ小学生くらいの子供が、何とかこちらのお金を引き出そうと、流暢な英語で話しかけてくる。

 母国語でもないし、学校にも行っていないのにね……。

 英語が話せればお金になるからという理由で、自分や家族の生活費を稼ぐために英語も勉強し、お金を出させる方法を考え、必死に食い下がってくる。

 日本で自分が勉強を教えていたお気楽そうな生徒の顔を思い出して、日本は本当に大丈夫かと何とも言えない気分になったりもしたものだ。

 生活のかかっている子供は強い。これが私の持論だ。

 今日会ったレジーナという女の子は、ただ自分に起きた不幸に泣きわめくでもなく、言われたままに流されるでもなく……。

 自分の置かれた立場を冷静に判断し、その中で自分にできる行動を取ったんだと思う。

 確かに、やり方は子供の浅知恵で非常に危ういものだったけど……。

 恐らく、あの作戦は自分で知恵を絞って考えたのだろう。

 もう少しどういう子なのかを知る必要はあるけど、とりあえずあの行動力は買いだ。


 私がレジーナを将来の側近候補として考えていると言うと、アルトさんはひどく驚いていたが、お母様は特に反対するでもなく笑っていた。



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