【書籍2巻出版記念】ママ友会議3 〜ベラドンナ視点〜
(ベラドンナ視点)
「それに、もう隠す気もないんでしょう? そうじゃなきゃ、娘の旅の護衛なんて頼まないわよねぇ?」
アリッサとアメリアが王都にやって来てすぐの頃、この後クボーストに向かうアメリアの旅に、王家の密偵をこっそり護衛につけてくれないかとアリッサに頼まれた。
渡りに船の話に、二つ返事でOKしたわよ。
護衛の件はアメリアには秘密だが、サマンサには事前に話を通しておくって、つまり、親公認でアメリアの動向を監視できるってことよね。
もっとも、そこにアリッサが気が付かないわけがない。
つまり、少なくとも私には秘密にする気はないってこと。
むしろ、見せようとしている?
アメリアが魔法を使えるところを?
そこまで考えて、アリッサの意図を理解する。
つまり、アメリアがちゃんと魔法を使えるという事実を、私公認にしておきたいってことだ。
「まぁ、そうなるわね。どうせもうバレるのは時間の問題でしょうし……。だったら、事前にベラには知っておいてもらった方が、いざって時に対応しやすいかなぁって」
「……で、この真珠はともかく、最近聞こえてきてるセーバの不穏な噂って、どこまでが本当なの?」
「……噂って?」
「色々とあるのだけど……まとめれば2つね。
1つ、アメリアは少ない魔力で大きな効果をもたらす方法を知っている。
2つ、アメリアは神殿の石板に頼らずに魔法を習得する方法を知っている。
魔力がほとんど無いアメリアがまともな魔法を使えるってだけでも正直信じ難いことなんだけど、どうも非常識な魔法を使っているのはアメリアだけではないみたいだし……。
もし本当にそんな方法があって、アメリアがその方法を他者にも伝授可能というなら……。とんでもない問題になるのはわかるわよね? それこそ、我が国の社会基盤を壊しかねないわよ」
「う〜ん、そうなのよねぇ……。一応アメリアちゃんもわかってはいるみたいなのよ。お父さんにも釘を刺されたみたいだし。
でも、2人とも魔法オタクで非常識なところがあるから、それほど深刻にはとらえていないみたいでね。
アメリア曰く、皆の魔法の使い方には無駄があり過ぎるそうよ。もっと効率的に使えば少ない魔力で済む魔法を、何も考えずに使うから膨大な魔力が必要になるだけなんだって(もっとも、アメリアもお父さんもまだ何か隠しているようだったけどね)」
「魔力の効率運用……そう言えば、あなたも昔そんなことを言っていたわね」
「まぁ、ねぇ。でも、アメリアの言う効率化って、きっと私どころの話じゃないわよ。アメリアが自分の生徒に魔法を教えているところをこっそり覗いたけど、あれは鬼よ! ここまでやらせる? ってレベルの魔力操作を要求してたわ」
「あなたレベルの魔力操作だって誰も真似できなかったのに、それ以上って……いつの間にセーバ領には魔境が誕生していたのかしら。
まぁ、いいわ。いずれその技術は一般にも公開してもらいたいところだけど……それは先の話ね。今のアメリアの立場だと誰にも相手にされないか、いいように曲解されて伝わるのが関の山だわ。
今はアメリアも力をつける時でしょうし、それまでは私の方でも変なちょっかいが掛からないように目を光らせておきましょう」
「そうしてもらえると助かるわ。どうにもあの子、危なっかしいところがあるから……」
「優秀過ぎる子を持つのも大変ね……まぁ、羨ましくもあるけど」
「ん? そっちもなんかあった?」
「……ちょっと、サラがねぇ。あの子、王族としては魔力が少ない方だから、それがコンプレックスになっちゃってるのよ」
「少ないっていってもちょっとよねぇ? それほど悩むこと?」
心底不思議そうな顔をするアリッサ。
まぁ、そうよねぇ、アメリアと比べれば確かに贅沢な悩みだわ。
それでも、一般的な王侯貴族の常識で考えれば、十分に深刻な悩みにはなるのよねぇ。
私や陛下にはアリッサという存在がいたから、多少の魔力差に拘るのは無意味って思考が自然に身についたけど、それはこの国の一般的な考えとは異なる。
この国の貴族の大半は、多少の魔力量の違いに一喜一憂するのが普通だ。
特に、実戦の機会のほとんど無い王都の貴族にとって、強さとはイコール魔力量のこと。
その中でも特にその傾向が強いのが、王都に住むザパド領出身の貴族たち。
タチの悪いことに、そのうちの1人がサラの兄であるライアンの魔術教師をしている。
ザパド領出身の教師などできれば避けたかったが、魔術教師としては確かに優秀であり、また王家と三侯とのバランスを考えれば、やむを得ない選択だった。
ただ、良くも悪くもこの国の常識的な貴族である魔術教師の影響もあり、ライアンはすっかり魔力至上主義に染まっている。
そんなライアンは、兄であり魔力量も多いと、上から目線でサラを下に見る言動を繰り返している。
本人に悪気はなく、ライアンの中では魔力のない劣った妹を心配しているだけなのだろう。
それでも、ライアンより余程早熟で勉強もできるサラからすれば、その扱いは理不尽以外の何物でもないだろう。
父親似で少々素直な性格のライアンには、父親同様厳しい補佐役が必要だ。
そのような年齢の近い王妃候補は、現状三侯の身内にはいない。
年齢の近さでいえばザパド侯爵の娘が適任だが、現状では次期ザパド侯爵候補でもあるし、何よりあのザパド侯爵の娘をライアンの王妃にするわけにはいかない。
王家がザパド侯爵の傀儡になる未来しか見えてこない。
であれば、王妃には無難な者になってもらい、王の補佐は王妹という立場でサラにしてもらうのが一番なのだけど……。
どうにもライアンとサラの関係がよろしくない。
このままでは、将来ライアンを支えられる者が誰もいなくなってしまう。
……いえ、適任がいるにはいるのよねぇ……。
「ねぇ、アメリアを王妃にする気はない?」
「……勘弁してよねぇ〜。王家との婚姻はもう十分よ」
「まぁ、そうでしょうね……。アメリアがライアンと結婚してくれれば安心なんだけど、それはそれで嵐の予感しかしないわね」
「そうね、私の目から見ても、あの子は大人しく王妃の座に収まっているようなタイプではないと思うわよ。王室を壊したいとかなら止めないけどね」
「それも困るわね。そうなると、やはりサラをなんとかするしかないんだけど……。
ねぇ、アリッサ、今年の誕生祭なんだけど、ちょっとサラの教育にアメリアを使わせてもらえないかしら?」
学院時代、私や陛下の常識をアリッサが変えてくれたように、アメリアがサラに良い影響を与えてくれれば……。
親子二代でお世話になるのも癪だけれど、アメリアならきっとサラの常識を吹き飛ばしてくれる気がするのよね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
連休のお供に、書籍版の方も手に取っていただけるとうれしいです。
3巻が出たら、またSS書くつもりです。
書けたらいいなぁ……。