闇の神
私が発見した魔法の真実。
それは、“光の神”と“闇の神”の正体というか、“働き”について。
創世神話にも出てくる光の神の名である“умножение”と、闇の神の名である“разделение”。
これらが本当に神様の名前なのか、単に魔法のしくみを神話風にデフォルメして、魔法の効果を擬神化しただけなのかはよく分からない。
でも、光の神と闇の神が何を表しているのかは判明した。
“掛け算”と“割り算”だ!
「はぁ?」て感じだけど、これが真実。
どうもこの単語を呪文に挟むことで、効果を何倍にも増やしたり、何分の1にも減らしたりできるらしい。
例えば、ファイアボール。
今まで考えられていたのは、単純に魔力を炎に変える魔法ということ。
でも、実際は違う。
これは今ある熱量を、籠めた魔力で何倍にも増やす魔法だ。
どれだけの魔力で何倍になるのかは魔法によって異なるけど、分かり易くざくっと言ってしまうと、500MPの魔力を籠めれば今ある熱量が500倍に、1000MPなら1000倍に膨れ上がるという感じだ。
1000の魔力を1000の炎に変えるのではなく、1の炎を1000倍にするというのが、ファイアボールの呪文の正体だ。
で、この掛け算の働きをしているのが、光の神を表す“умножение”って訳。
では、次に闇の神。
こちらは光の神とは性質が真逆で、割り算を表す。
籠めた魔力で効果が割り算されてしまうのだ。
例えば、1000MPで作ったファイアボールも、100MPの魔力を籠めた闇の神の名前”разделение”を挟むことで、効果が10になってしまうって事。
これを利用しているのが、この実験場にも設置されている魔法無効化の魔道具だ。
確かに2MP程度の魔力では、威力を半分にしか落とせない。
でも、10個並べれば、2の10乗で1024分の1にすることができる。
上級貴族の魔法でも打ち消せるようになるだろうね。
とにかく、これでずっと謎だった光の神と闇の神の正体も分かった。
ついでに言うと、どうして光の神は全然光と関係ない呪文にも頻出するのか?
同じ最高神なのに、闇の神をほとんど見かけないのはなぜか?
これらの疑問にも納得いった。
魔法の効果を減らしちゃうんだから、それは登場する機会も少ないだろう。
闇の神、不憫な神様だ。
まるで貧乏神みたい……。
でも!
私にとっての闇の神は、正に福の神!
文字通り、救いの神だった。
最初はほんの思い付きの実験だった。
闇の神の呪文を検証するにあたって、まずファイアボールの呪文の中の光の神の部分を闇の神に変えてみた。
呪文の一部を闇の神に変えると、2MPの魔力のファイアボールは、同じ魔力を籠めた通常のファイアボールの大きさの4分の1になっていた。
ここまでは、光の神と闇の神の効果を確認するための普通の実験。
で、ふと閃いた。
1MPより小さい魔力で割ったら、どうなるのだろう?
体内の魔力の熱に意識を集中し、感覚を限界まで研ぎ澄ます。
そして、小さく小さく絞り混んだ魔力を、ファイアボール改の呪文に籠めて詠唱してみた。
超吃驚した!!
いきなり私の体なんて余裕で包んじゃう大きさの火の玉が、目の前に現れるから!
咄嗟に、「あっち行け!」って思って手を振ると、火の玉はまっすぐ飛んでいって……。
目の前の壁にぶつかると、魔法無効化の魔道具の効果であっさり消滅した。
よかったぁ……。
念のため、魔法無効化の魔道具作動させといて。
そうじゃなきゃ、今ごろ塔の壁に大穴空けてお母様に大目玉だった。
でも、今の結果は多分間違いない。
1より小さい数で割ると、元の数よりも大きくなる。
日本でなら小学校を卒業していれば誰でも知っている算数だけど、まさかこんなこじつけみたいな方法で魔力を増やすことができるとは……。
そうは言っても、現実に計算通り?の結果が出ているのだから、それがこの世界の真実なのだろう。
さすが、不思議魔法世界である。
その後も何度か同じ実験を繰り返したが、やはり結果は同じだった。
間違いない。
これで実質的に私が扱える魔力は、格段に跳ね上がる。
私の魔力量に関する問題も何とかなる。
ふぅと息を吐いてふと横を見ると、そこには唖然とした顔でこちらを見つめるお祖父様の姿が……。