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魔法の真実

 毎度お馴染みの賢者の塔。

 お祖父様に負けず劣らずの見事な引きこもり生活だ。

 子供は外で遊ぶもの?

 いえいえ、貴族の子女はそんなことはしないんですのよ。

 まあ、毎日暗い塔に引きこもって研究もしないけどね。

 健康に悪いって?

 心配ご無用。

 最近の私はちょっとアクティブだ。

 今日も2階の研究室ではなく、1階の実験場の方に詰めている。

 また太極拳の練習かって?

 違うんだなぁ、それが。

 なんと!

 魔法の実験と練習をしているのだ!


 私もついに5歳となり、先日やっと神殿で“解封の儀”を行うことができた。

 とは言ってもね……。

 この町の神殿って、所謂(いわゆる)無人駅状態で、神官が住んでいるわけでも何でもない。

 そもそも、この町って領都に指定される前は、ただの辺境の漁村だからね。

 元々大きな神殿があったわけでも何でもない。

 だから、“解封の儀”といっても、ただお母様と神殿に行って、お参りしてきただけ。

「5歳になりました。これから神様の呪文を使わせていただきます」って感じで、祭壇に向かってお祈りして終わり。

 でも、不思議なことに、5歳を過ぎて神殿でこのお祈りをした後でないと、何故か石板に触れても呪文の声が聞こえてこないんだって……。

 流石、魔法の石板だ。

 ともあれ、無事に“解封の儀”も終わり、これで晴れて呪文の声を聞けるようになった。

 ついでに言うと、声が聞こえるのは呪文の石板だけではないんだよね。

 なんと、神殿の壁に彫られた創世神話や神々の啓示みたいなのも、指を触れるとしっかり頭の中に声が再生されたのだ。

 ちなみに、初めて石板に触れて頭の中に神々の声が響くと、みんな驚いたり感動したり怖がったりと、色々と大変らしい。

 私?

 どう考えても音声読み上げ機能付きの電子ブックにしか感じられなくて、正直感動とかはあまりなかったかな。

 それでも、この音声読み上げ機能には非常に満足している。

 それというのも、この読み上げ機能、一文字ごとに再生が可能だったのだ。

 つまり、書かれた呪文に触れるとその呪文が聞こえるというのではなく、触れた文字ごとに音が再生される。

 普通は呪文の文字列を指でゆっくりなぞっていくらしいんだけどね。

 ただ、一文字ずつ止めながら再生させても、しっかり押さえた文字の音を再生してくれたのだ。

 で、私が何をしたかって?

 神殿中を回って、全ての文字に発音記号をつけていきました。

 神様語の文字の発音は、ほぼ英語の発音記号で置き換える事ができましたよ。


 この世界の言語は、全て“子音+母音”で音を作っている。

 まあ、日本語と同じだね。

 それに対して、神様語の方は英語と同じで、“子音のみ”でも発音するようにできていた。

 ついでに、母音の種類も倍以上あった。

 これでは、この世界の人たちが神様語の発音をうまく聞き取れないのも無理はない。

 日本人のお年寄りの英語が、カタカナ英語になってしまうのと同じだ。

 特にこの世界の人たちは、自分達が使う言葉以外の発音を、呪文以外で聞くことがないからね。

 うまく聞き取れないのが当たり前なんだろうね。


 でも、私は違う!

 英語の発音記号も発声の仕方も、前世でしっかりと勉強してきている。

 だから、神様語の発音もしっかり聞き分けることができた。

 その日のうちに全ての文字に発音記号を振った私は、翌日、塔の実験場で早速魔法大全にある呪文を実際に読んで試してみた。

 結果は上々。

 自分で振った発音記号通りに魔法大全に書かれた呪文の原文を読んでみたら、問題なく魔法は発動した。

 威力は超しょぼかったけどね……。

 私の魔力は本当に少ししかないようで、最初の日など、一度魔法を使っただけで魔力切れでへたりこんでしまった。

 これでは実験にならないので、今は特定の魔法で染められていない、純粋な魔力だけを籠めた魔石を使って実験を行っている。

 所詮は出力の弱い魔石の魔力なので、相変わらず呪文の威力はしょぼいんだけどね。

 どうせ、自分の魔力を使っても結果は同じだし、魔法の検証をするだけなら威力はあまり関係ないので無問題だ。

 様々な魔法を実際に自分で使ってみての印象や、籠めた魔力の量による効果の違い等を、お祖父様の研究資料等も踏まえながら検証していく。

 ちなみに、お祖父様の実験データよりも、私の実験データの方がずっと正確だ。

 これは、“実験”というものについての認識が、前世知識を持つ私の方がしっかりしているから。

 例えば、同じ条件下で一つだけ条件を変えて同じ実験を行うことで、変えた条件の性質を絞り込んでいく所謂(いわゆる)“対照実験”。

 日本では義務教育でも習う科学的なものの考え方の基本だけど、科学がほとんど発展していないこの世界にはそういった発想がない。

「たくさんの魔力を籠めたら、こんなすごい破壊力が出た」とか……。

「この魔法を使ったら、こんなことができた」とか……。

 ただ何となく思い付くままに試してみて、その結果をまとめていくだけ。

 お父様のお仕事を手伝った時にも感じたけど、どうもこの世界には実験に指向性を持たせるとか、仮説を立てて実験で実証するとか、そういった科学的な思考が決定的に欠けていると思う。

 これ、魔法の弊害なんだろうけど……。

 魔力を籠めて適切な呪文を唱えれば、ただイメージするだけで火だって(おこ)せちゃう。

 それどころか、設計も技術もすっ飛ばして、この塔みたいな巨大建築物だって建てられちゃうのだ。

 科学的思考なんて、育つはずもない……。

 前世の世界だって似たようなもので、みんな当たり前のようにインターネットで色々調べていたけど、インターネットの仕組みなど誰も気にしていなかった。

 結局、”科学ありきの世界”か、“魔法ありきの世界”かの違いだけなんだよね。

 大半の人にとっては便利だし、特に困らないのだから、それでいいだろうということだ。

 私だって、自分の魔力量の問題がなければ、ここまで魔法の研究にのめり込んだりはしなかったと思う。

 ともあれ、ただ闇雲に魔法の結果だけを集めたお祖父様の研究資料に対して、最初から実験に指向性を持たせた私の実験データの方が、遥かに効率よく魔法の真実へと近づいている。

 お祖父様には申し訳ないが、お祖父様が長い時間をかけて辿り着いた結論に、私は一足飛びに辿り着くことができている。

 そして、もう一つ。

 これは不幸中の幸いと言うべきか、私の最底辺の魔力量は魔法の実験には非常に向いていたのだ。

 かなり繊細な魔力操作ができるから。

 皆が体重計で重さを測っているところで、自分だけ電子はかりで重さを測るようなものだ。

 どんなものでもそうだけど、大きなものはどうしても認識が大雑把になるし、細かな違いは分かりづらくなる。

 大体500MPくらいの魔力で作った大きな炎と、大体1000MPくらいの魔力で作った大きな炎を比較するよりも、正確に1MPで作った小さな炎と、正確に2MPで作った小さな炎を比較する方が、遥かにその違いは計測しやすいのだ。


 私は前世知識とこの微弱な(泣)魔力を駆使して、黙々と実験を繰り返した。

 そして、ついに発見したのだ!

 私の魔力量の問題を一気に解決する、ある魔法の秘密を!

 

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