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後のことも考えよう 〜女帝マリアーヌ視点〜

(女帝マリアーヌ視点)


『城壁に向かった工作部隊より伝令!

 城壁の魔力除去を完了。これより金魔法で城壁に穴を開けるとのことです』


『よし、これより我が軍はボストク侵攻を開始する!

 城壁を抜けるまでは極力敵兵に気取られぬよう注意せよ!』


 ………


 こうして始まったボストク攻略戦は、思いの外あっさりと決着がついた。

 軍事大国である魔法王国の中でも、国境を守るボストク軍は最強と言われてきた。

 そのボストク軍をこうもあっさりと退けられるとは…


 (作戦通りとはいえ、(いささ)か拍子抜けだな)


 城壁の補強を済ませ、その守りに絶対の自信を持っていたのが裏目に出た結果だ。

 リアル鉱石には触れた魔力を打ち消す性質がある。

 これを使うことで、城壁に籠められた魔力を除去。

 その上で、新たに金魔法を使って城壁を整形してしまえば、簡単に穴を開けることができる。

 帝国軍はまともな魔法を使えないなどと侮ることをせず、金魔法による整形や大規模な攻撃魔法に備えて城壁の補強を行ったことは称賛に値する。

 だが、その魔法を打ち消す方法があるとは、流石のベラドンナ王妃も想像していなかったようだ。

 結果、強固なはずの城壁はあっさりと突破され、我が軍の街への侵攻を許してしまった。

 それだけでもボストク軍にとっては十分に慌てふためく事態だろうが、それに更に追い打ちをかけたのが我が軍の装備だ。

 全ての魔法を打ち消してしまうリアル鉱石製の装備に、ボストク兵の攻撃魔法は一切通用しない。

 命中したはずの攻撃魔法が敵になんの被害も与えることなく忽然と消失する事実は、ボストク兵を動揺させるのに十分な効果があった。

 なかには、魔法が駄目なら直接剣でと突撃してくる者もいたが、密集陣形での我が軍の進軍に隙は無い。

 常識的に考えれば、大規模攻撃魔法による全滅の可能性が高い密集陣形など、用兵を知らぬ愚策と思われるだろう。

 書庫の知識でも、戦争の主役が剣と槍から鎧を貫通する銃に代わったことで、密集陣形という戦術は廃れていったとある。

 だが、それは逆に言えば、異世界の銃に当たるこの世界の攻撃魔法を無効化できるのなら、密集陣形は非常に有効な戦術ということだ。

 実際、個々の剣の技術では遥かに民兵あがりの帝国軍を上回るボストク兵が、手も足も出せずに弱兵の繰り出す槍の餌食となっていった。

 始めこそ噂に聞くボストク軍の強さに及び腰だった兵たちも、砦に到達する頃には喜々としてその槍を振るっていた。

 こうして、我が軍にはさしたる被害も無く、ボストクの街を占拠するに至ったわけだが…


「今一度言う! 軍規を引き締めろ!

 無用な王国民への暴行は控え、間違っても兵たちに略奪行為などはさせるな!

 女性への乱暴など(もっ)ての(ほか)だ!

 この事を末端の兵にまで徹底させろ!

 この(めい)(たが)えた者は、それがたとえ誰であろうと、厳罰に処すものとする!

 部下を管理するお前たちも同様だ!

 行け!!」


「「「はっ!!」」」


 私の指示を受け、慌てて駆け出す上級将校たち。

 内心では色々と文句を言いたいのだろうが、この点に関しては王国への侵攻を決定した当初からうるさく言い続けているから、今更反対など出ない。

 従えない者はとっくに排除している。

 厳しい態度を取りつつも、女性であり民思いでもある陛下には、たとえ敵国の民であっても乱暴狼藉は許せないのであろうと、そんな声が聞こえてくる。

 確かに気分が悪いのは間違いないが、それが必要だという部下たち(奴ら)の意見も分からないではない。

 生きるか死ぬかの極限状態を生き抜いた兵士が、なかば本能で女性を求めるのも何となくは理解できる。

 十分な報奨を得られない末端の兵士にとって、戦いに勝って勝利した土地での略奪は、酒場の給仕が貰うチップのようなもので、略奪自体が兵士の収入として暗黙の了解で認められていることも知っている。

 だから、それを禁じる私の命令は、兵士にとっては不当な搾取であり、一般の兵には戦場を知らない女性の綺麗事と受け取られている。

 恐らく、私の目が届かなければ、このような(めい)はまず守られる事はないだろう。

 だからこそ、仮にも皇帝である私が、今回の遠征に直接赴かねばならなかったのだ。

 戦争というものには当然得たい利益なり目的なりがあり、それを得るためには戦いに勝利する必要がある。

 だが、逆に言えば、たとえ戦いに勝利したとしても、それで目的が達成されないのであれば、それは大局的には敗北と言わざるを得ない。

 今回の目的は、帝国から魔法王国王都までの安全なルートを確保し、帝国の民が自由に魔法を得ることができる環境を整えることにある。

 結果、帝国がこの地を占領することになるか、こちらの条件を魔法王国に呑ませるかたちになるかは分からない。

 だが、どのような形になろうとも、戦争が終わればこの土地の民はここに戻ってくるだろうし、帝国の民がこの地を通る時にはこの土地の住民と接することになる。

 もし、帝国兵が王国の無抵抗な住民に対して、当たり前のように略奪行為を行っていたら…

 口には出さずとも帝国の民には怨嗟の目が向けられ、恨み辛みから襲われる者も出てくるだろう。

 土地の統治は難航し、街道の警備には莫大な費用がかかる。

 安全に魔法を学べないとなれば、魔法王国まで魔法を学びに行こうとする者も増えないだろう。

 これでは、なんのための戦争か分からなくなってしまう。

 貴族や兵士ならともかく、ただの平民にとってその土地の領主が誰かなど大した問題ではない。

 自分にとって都合の良い領主が、良い領主と呼ばれるのだ。

 帝国から多くの民が魔法を学ぶためにこの地を訪れ、たくさんの金を落としていけば、この地の民は誰も帝国に文句を言わないだろう。

 だが、それが自分の妻や子を手にかけた者の同族となれば話は違う。

 いくら良い統治をしようとも、彼らの恨みは決して消え去ることはない。

 だからこそ、どのようなかたちであれ、占領した土地での略奪行為は悪手なのだ。

 戦争で難しいのは、実は勝ち方ではなく終わらせ方だ。

 相手から無用な反感を買わず、こちらに有利な条件で決着がつくのであれば、極端な話勝ち負けなどどちらでもよいのだ。

 そのあたりの事が、目の前の勝利に酔いしれる帝国兵(馬鹿者ども)には理解できないらしい。

 仕方がない。

 きっちり目を光らせつつ、態度の良い者には報奨を与えるか…

 適度なガス抜きは必要であろうし…

 書庫の知識に、何か役に立ちそうなものがあったような…

 夜が明け、すっかり明るくなったボストクの街を眺めながら、私は小さく溜息を()くのだった。


 

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