キョウ観光
今日の私達は、キョウ観光に出ている。
防具開発はお休み、というか、行き詰まった…
現実逃避、いや、気分転換ってやつだ。
決して飽きたから遊びに出かけることにした訳ではない。
やって来たのはタケミさんに教えてもらった帝国料理店。
前世のイメージだと西洋料理店って感じのお店かな。
大正浪漫っぽい雰囲気が、和風なキョウの街並みに妙に馴染んでいる。
キョウの都は商業連邦からも帝国からも比較的近い位置にあり、イィ様が積極的に他国の文化を受け入れていたこともあって、他国の料理を出す店も多いんだって。
そういえば、一見閉鎖的で和風なイメージの前世の京都も、実は美味しい洋食や創作料理を出すお店が意外と多いのだと、京都によく行く友人が教えてくれたっけ。
まぁ、そんな訳で、わざわざ倭国まで来て、敢えて帝国料理に挑戦する私達。
「わぁ、このハンバーグってお料理、おいしいですね!」
「肉汁がジワって感じがいいな!」
私もそうだけど、みな満足そう。
ハンバーグなんて、本当に久しぶりだしね。
あれ? 最後に食べたのっていつだっけ?
「これは、王宮の晩餐会で出される料理以上ですね。この食感も初めてで、なんか不思議な感じです」
「あれ? サラ様はハンバーグ初めて?」
「はい、帝国の伝統料理だってことは聞いてましたが、実際に食べるのは初めてです」
「そうなんだぁ… あれ? セーバの街にはハンバーグ出すお店ってなかったっけ?」
「俺も聞いたこと無いですね」
「セーバの街は港街ですから、魚料理を出す店が殆どです。
地元の人間は肉料理は食べ慣れていませんし、王都の方から来る方は珍しい魚料理を好まれますから」
なるほど…
そういえば、この世界に来てからハンバーグって一度も食べてないかも…
偶に思いついた前世の料理をお屋敷の料理人さんに作ってもらったりしたけど、積極的に前世の料理を広めたことはなかったからね。
異世界チートといえば料理ネタが定番だけど、私料理はあまり得意じゃないしなぁ…
お茶席の前に懐石料理を出す“お茶事”の時にも、料理の方は戦力外だったし…
お茶はきれいに点てるってよく褒められたけど、包丁は持たせてもらえなかった。
私の料理スキルは飲み物専門だ。
そうかぁ…
お酒やカフェラテはやったのに、定番ハンバーグはやってないかぁ…
これはそのうち、料理改革?に手を付けるのもありかもって、もう既にハンバーグとかあるんだよね?
すごく美味しいし、しかもこれ帝国の伝統料理みたいだし…
やっぱりダルーガ伯爵が言っていたカリオストロ伯爵あたりが伝えたのかも…
ただ、ネタ元はどうあれ、今では立派な帝国料理。
決して物珍しい異世界料理って訳ではない。
調理方法も魔法込みで微妙に前世とは違うみたいだし、これはもうこの世界の料理って言い切っていいと思う。
前世と比べても、このハンバーグはなかなかのものだと思うし、私の素人料理で敢えて料理改革をするほどでもないかな。
それよりも、今はこの異世界にある料理を純粋に楽しみたい。
帝国にも、一度行ってみたいよね。
帝国料理はレベルが高いっていうのはよく聞くし、まだまだ私の知らない料理や、もう二度と食べられないと思っている前世の料理も実はあるかもしれない。
未知の料理、食材を探すグルメ旅っていうのもおもしろいかも!
今の私は前世と違って旅の資金も潤沢だし、そういう豪勢な旅も有りだよね。
見知らぬ土地で地元産の高級食材に舌鼓を打つ、、最高の贅沢だ!
ちなみに、今私達が食べているハンバーグに使われているお肉も、この世界にしかない高級食材だったりする。
牛鬼。
倭国にのみ棲息するミノタウロスみたいな魔物らしい。
魔法王国でのミノタウロスのお肉も高級牛肉って位置づけだけど、この牛鬼のお肉はそれ以上!
まさに高級和牛って感じ。
前世の旅行中にもヘビとかワニとか変わったお肉には色々挑戦したけど、流石に魔物肉とかはなかったからね。
折角の機会だし、しっかり堪能させていただきましょう。
そんなことを考えつつ、目の前の料理に舌鼓を打つ私でした。
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タケミさんお薦めの帝国料理店を出た私達は、特に目的もなくキョウの通りを散策していく。
この街の作りはそのまま京都って感じで、通りが碁盤の目のように整えられていて、初めての街なのに何となく地理が想像できてしまうところがおもしろい。
この都も200年前の暗黒期の動乱の後、イィ様によって造られたらしいから、多分実際に京の都を参考に造ったんだろうね。
建物の作りも和風木造建築っぽいのが多いし、売られている物も和風の物が多い。
焼き物とか着物とか茶道具とかね。
京都の清水寺辺りのお土産物屋街を散策している気分になる。
倭国産の陶磁器はこの世界では美術品扱いだけど、このキョウの都では割と普通に使われているみたい。
さっきの帝国料理店でも、磁器のお皿が使われていたしね。
この世界の焼き物は、陶器にしろ磁器にしろ素焼きっぽいものが多い。
一度完成した器に釉薬を使うって発想がないのだ。
魔法で簡単に素材を加工できちゃうから、複数の素材を組み合わせるとか作業工程を分けるとか、そういったことに思い至らない。
その点、イィ様の作陶技術が伝わっている倭国は優秀で、単純な灰釉だけでなく、鉄を使った天目釉の赤、銅を使った織部釉の緑と、様々な陶磁器が店頭に並べられている。
(う〜ん、釉薬かぁ…)
例えば、殺生石を含んだ釉薬を鎧に塗って、それを焼き上げれば殺生石でコーティングした鎧ができるかも…
いや、ダメだね。
そんなのちょっと衝撃が加わるだけでガラスが割れて剥がれちゃうだろうし、そもそも全身鎧自体が重過ぎて私達には合わないって諦めたんだものね…