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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第4章 アメリア、ダルーガ伯爵の野望を打砕く

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セーバ領侵攻 〜ゲイズ視点〜

(ゲイズ視点)


「只今より、セーバの街に向けて進軍を開始する!」


 俺の指示に、当惑しつつも従う兵士達。

 当惑の原因…

 それは、数日前に届いたあの女王様(キルケ嬢)からの救援要請。

 ザパド侯爵の娘が率いるセーバとの連合軍が、クボーストに向かって来ているという知らせだ。

 我が軍とクボーストとを結ぶ魔鳥便によってもたらされた情報。

 それによると、どうやらザパド領内の他の都市は、既に敵の手に落ちているらしい…

 もしそれが本当なら、とんでもない進軍速度だ。

 だが、それがアメリア公爵の仕業なら、十分に考えられる。

 かつての列車襲撃で煮え湯を飲まされた時のことは、今でもはっきりと憶えている。

 あの街(セーバ)の魔法技術は異常だ。

 反撃に使われた魔法も訳が分からなかったが、その後の包囲網の展開速度には本気で肝を冷やした。

 その後の調査で、セーバの街には一瞬で遠く離れた土地との連絡を可能とする魔道具があると知って、あの時の状況に合点がいったが…

 同時に、セーバの街が持つ力に愕然としたものだ。

 半分はザパド侯爵を陥れるための計画だったとはいえ、知らずに立ち向かった相手の恐ろしさに、冷や汗が止まらなかったのを覚えている。

 まぁ、そんな技術だからこそ、それを是が非でも手に入れたいというダルーガ伯爵の気持ちも分からんでもない。

 個人的にはあんな化け物(アメリア公爵)に関わるのは御免だと言いたいが…

 ダルーガ伯爵とも長い付き合いだ。

 今更別の雇い主を探す気にもならんし、精々ダルーガ伯爵の野心に付き合うとしよう。


「現状、恐らくザパド領全域が敵の手に落ちている中で、南進してクボーストへ救援に向かうのは現実的ではない!

 クボースト攻略に向けてセーバ領が兵を割いているのなら、逆に今がチャンスだ。

 我が軍は当初の予定通り北進し、速やかにセーバの街を攻略。

 その後、海路にてバンダルガへと向かい、ダルーガ領の軍と合流して万全の態勢でクボーストへ向かう!」


 まぁ、それまでクボーストが持ち堪えられるか、キルケ嬢が無事でいられるかは微妙なところだが…



 こうして始まったセーバの街侵攻作戦は…

 セーバの街はおろか、領境を越えてセーバ領に入ったところで、早々に頓挫することになった。


「伝令! ここより先、およそ1000m付近に大規模な敵兵力を確認! セーバ領軍と思われます!」


「(セーバ領に領軍は存在しないはずだが…)敵兵力はどの程度だ?」


「そ、それが…」


 俺の問に対して、報告に来た兵が口籠る。

 何やら敵軍が陣を張っているところまでは確認できたらしい。

 だが、確認できたのはそこまで。

 近づいた斥候は全て返り討ちにあうし、肉眼で確認できる範囲にも限界がある。

 確認できたのは、大して高さもない小山のような不格好な防壁と、その奥に僅かに見える軍の野営テントらしきものだけ。

 防壁の範囲から考えて、それなりの規模の軍だと考えられるが、具体的な人数等は分からないという…

 まぁ、いい。

 敵軍が目の前にいる事さえ分かっていれば、それで十分だ。

 鼠を巣からあぶり出し、いや、巣ごと壊滅させてやろう!


「全軍、砲撃準備!

 この距離なら奴らの魔法は届かん! 安心して狙え!

 まずは目の前の防壁を破壊し、風通しが良くなったところで敵陣営に砲弾をぶち込んでやれ!」


 そして、俺は側に控える子飼いの部隊に指示をだす。


「敵が混乱したところで部隊を突入させ、敵陣内に毒煙を放り込め。

 力のある魔術師を分散させると厄介だ。

 巣に引き篭もっている間に無力化しろ。

 あと、敵の司令官はできるだけ確保しろ。

 わざわざ軍を待機させていたくらいだ。

 こちらの動きもある程度は把握していたのだろう。

 セーバの街に攻め込むにしても、奴らがどの程度の備えをしているのか知りたいからな」


 俺の指示に従い、横一列に展開された大砲が砲撃を始める。

 奴らの慌てふためく顔が目に浮かぶ。

 ダルーガ伯爵が作り出した“大砲”は、魔力を全く使うことなく、この位置からでも鉄の塊を敵陣に飛ばすことができる。

 魔法が届かない長距離からの一方的な蹂躙。

 しかも、全く魔力を必要としないこの兵器は、“圏”などの魔力感知で捉えることもできない。

 奴らは、何に攻撃されているのかも分からぬまま、為す術もなく死んでいくことになる。

 そして、運良く生き残った者も、一帯に蔓延する毒煙で一網打尽だ。

 今回用意している毒煙の魔道具は、以前の列車襲撃で使ったようなちゃちなものではない。

 街の制圧まで想定した、広範囲に広がるものだ。

 逃れる術はない。

 少々早いが、前回の雪辱、ここで晴らさせてもらおう!



 どぉおおおおおん!!

 どぉおおおおおん!!


 初めて聞く砲音に、ダルーガ伯爵領から連れて来た砲手以外の兵が怯えを見せる。

 事前に知らされていてもこれだ。

 奴らの狼狽え具合が目に浮かぶな。


 …


 どぉおおおおおん!

 どぉおおおおおん!

 どぉおおおおおん!


 …


(なぜだ!!!)


 辺りに鳴り響く砲音に、こちらの圧倒的勝利を信じて疑わなかった兵士たち…

 だが、それも初めだけで…

 兵の最初の怯えは、やがて歓喜に変わり、それはいつしか当惑に変わる。


「…敵陣の防壁が思いの外堅く、全く崩れる様子が見られません」


 当初、急ごしらえで不格好と思われていた敵陣の防壁…

 高さもなく、強度もなく、一見ただ土を盛り上げただけにも見える防壁に、所詮は平民しかいない辺境の軍かと馬鹿にしていたが…

 違う!

 あれは、こちらの“大砲”がどういう兵器かをしっかり理解した上で、それを受け止めるのに最適な形に整えられたものだ。

 通常の火魔法や水魔法なら、あの押し固められていない柔らかな壁は、簡単に崩されてしまうだろう。

 あの斜めに積み上げられただけのような壁では、火や水の勢いを止めることも敵わないだろう。

 だが、単純に鉄塊をぶつけるだけの“大砲”には有効だ…

 アメリア公爵は、“大砲”を知っていたのか…?

 魔法を使うことなく、“火薬”という火をつけると爆発する特別な薬を使って、鉄の筒から弾を撃ち出す兵器。

 “大砲”も、“火薬”も、ダルーガ伯爵領以外には存在しないもの。

 いや、それ以前に、その存在すら知られていないもののはずだ。

 実際、ザパド領の貴族や兵達は、あれが兵器であることにすら気付いていなかった。

 アメリア公爵は、知っていたのか?

 知っていて、対策を立てていた?

 こちらの兵力を承知の上で、待ち構えていた?


(不味い!!)


 列車襲撃時(あの時)の、失態が思い出される…


(不味い!!!)


 相手は、大砲による攻撃を分かった上で待ち構えていたのだ。

 この砲音に、飛んでくる鉄塊に、奴らが狼狽えることなどない!


「敵襲!!」


「ちッ!」


 その考えに思い至った瞬間、それを裏付けるように敵の襲撃を知らせる声が響き渡る。

 続いて、そこかしこから聞こえてくる戦闘音。

 魔法の届かない圧倒的遠方から、一方的に敵を蹂躙するはずの攻撃に、こちらの警戒は下がりまくっていた。

 あの大気を震わすような轟音に、みなが酔っていたとも言える。

 それもあって、敵の接近に全く気付かなかった…


(完全に、包囲されている)


 決して多いとも言えないが、それでもそれなりの数に囲まれている。

 前方の陣に目立った動きは見られない。

 これだけの人数が動けば、流石に気付くはずだ。

 前方の軍とは別に、これだけの兵を隠していたのか?

 いや、前方の陣自体が始めから囮か!?

 あれにこちらの大砲の攻撃を引き付けておいて、その隙に包囲されたのか!?

 むぅ、、だが、今集まってきているのが敵の主力だというのなら…

 まだ、やりようはある!


「毒煙の魔道具を用意しろ! 都市攻略用の大型のやつだ!」


「なッ、ゲイズ様、、あれは致死性の高い強力なもので…」


「構わん。

 本当に必要な者には事前に解毒薬を飲ませてある。

 毒で死ぬのは代わりのきく者だけだ」


 このセーバ侵攻作戦に参加している貴族や兵士達は、薬によって無理矢理働かせている者たちではない。

 ダルーガ伯爵やキルケ嬢に賛同した者たち、と言えば聞こえはいいが…

 たんにセーバの街占領後の利権に目の眩んだ連中に過ぎない。

 一度裏切った連中は、都合が悪くなればまた裏切る。

 キルケ嬢はともかく、ダルーガ伯爵に魔法王国(この地)をまともに統治する気などさらさらないのだ。

 ダルーガ伯爵が欲しいのは、アメリア公爵の持つ知識だけ。

 他は、極端に言えばどうでもいい。

 ここで自分に味方する貴族が何人死のうと、どうせ気にも留めないだろう。


「やれ!」


 俺は、セーバの街殲滅用に用意された、街全体を全て毒煙で満たす魔道具を自陣内で起動させた。


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