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アメリア様の日常 〜レオナルド男爵視点〜

(レオナルド男爵視点)


「お疲れ様です、アメリア様」


「うぅ〜ン… レオ君、おまたせ」


 禁書庫から大きく伸びをしながら出てきたアメリア様を出迎える。

 今日は、だいぶ長かったな…

 王都の大神殿にある禁書庫への入室は、アメリア様にしか許されていない。

 側近である俺も、レジーナも、直接禁書庫内でのアメリア様の研究を手伝うことはできない。

 と、いうか…

 アメリア様の研究にストップをかけることができない…


「今日はだいぶ粘られましたね…

 早く帰らないと、またディビッド様が大変ですよ」


 時間はもう深夜と言ってもいい時間帯。

 普通は日が沈めば仕事を切り上げる者が大半だっていうのに、アメリアお嬢様にも困ったものだ…

 年頃の娘がパーティー以外でこんな時間まで外を彷徨くことに、ディビッド様は不満げだけど…

 自分も国の宰相としてアメリア様に大量の仕事を押し付けている自覚があるせいか、あまり強くも言えないらしい…

 実際、アメリア様は忙しい。


 ………


『ザパド領貴族の不在と魔法使用時の安全面を考慮して、今年の闘技大会は中止にしましょう。

 その代わり、5人程のパーティー単位での学院内ランキング戦を行います。

 勿論、聴講生も参加させますよ。詳細は…』


 学院長として辣腕を振るい…


『そこ、肘が横を向いてます! 肩も上がってますよ! 肘は下を向けて…』


 特別講師として、王族や上級貴族相手に実技訓練を行い…


『他国の要人は厄介ですねぇ…

 目的や手段は悪質でも、やっている事だけを見れば貴族向けの高級娼館と変わりありませんから…

 ザパド領側はともかく、客の方を犯罪者扱いはできません…

 いや、でも、弱みにはなるか…

 うまくすれば、こちらの計画に協力してもらうことも……』


 セーバの街の領主としても、積極的に働いている。

 その上、こうして時間を見つけては禁書庫に通い、自分の研究も進めているのだから、周囲がアメリア様のオーバーワークっぷりを心配する気持ちも理解できる。

 だから、周囲もつい頑張ってしまうんだけど…


 ………


「……でね、この“人探しの魔法”を使えば、“(けん)”で感じ取った索敵範囲の魔力の中から、指定した特定の波長の魔力を見つけ出すことができるのよ!」


 深夜の神殿に、アメリア様の声が響き渡る。

 今日の研究成果を嬉しそうに語る様子は、賢者の塔で研究していたあの頃とあまり変わらない。

 何やら新しい発見があったみたいで、少し興奮気味にその成果を力説してるけど…

 何がすごいのか、俺にはよく分からない。

 これも、昔と同じか…

 いや、アメリア様の護衛騎士の立場の俺的には、その“人探しの魔法”は助かるけどね…

 要人警護の人間には、必須の魔法になるかもしれない。

 でも、話を聞く限りだと、その利用はかなり限定的だ。

 まず、前提条件として、術者が捜索対象の魔力の波長を正確に覚えていなければいけないことが問題だ。

 魔力の波長というのは、一人一人みな違う。

 でも、それは本当にちょっとした違いで…

 男か女か、子供か大人かくらいの大雑把な区別ならともかく、正確に個人を限定できるような魔力の特徴を、全て把握しておくのは相当に難しい。

 余程身近な人間ならともかく、ちょっと知っている程度の人間の魔力など、すぐに思い浮かぶものではない。

 そんなの、目の前にいない人間の似顔絵を描くようなものだ。

 余程の訓練を積まないと、一般人には使いこなせないだろう。

 まぁ、レジーナあたりなら何とかしそうか…?

 そんな事を思いつつ…


「それって、自分で描いた似顔絵渡して、それで人探しさせるようなものですよね?

 相当に魔力の特徴を掴む訓練しないと、実用性無くないですか?」


 まさか、それも新たな訓練メニューに加わる!?

 俺はレジーナほど頑張れないぞ!


「ちがう、ちがう。これはね、魔道具にして使うのよ。

 魔石に探したい相手の魔力を記憶させておけば、誰でも使えるでしょう?

 多分この魔法も、魔道具に組み込む事を前提に作られている魔法なのよ。

 この禁書庫に保存されている魔法は、どれもそれ単体では大して役に立たないものばかり…

 というか、何に使うのかすら分からないものが殆どよ。

 でも、魔術回路にして色々組み合わせると、すごい可能性が見えてくる!

 これは予想だけど、神殿に伝わる神々の時代の文明って、直接魔法を使うよりも、魔道具の形で魔法を使うことの方が普通だったんだと思うのよね…」


 神々の世を、まるでお隣の国の話でもするように語るアメリア様だけど、確かに俺もそう思う。

 それは、連邦でも感じたし、何よりアメリア様が開発した数々の魔道具…

 ほんの少し前までは、どうせ魔道具では大したことなどできない…

 この国では、そんな風に思われていたのに…

 そんなこの国の常識も、アメリア様のお陰ですっかり変わりつつある。

 

「……それでね、この魔法とこの前できた()()の魔道具を組み合わせれば、携帯、、持ち運びできる通話の魔道具ができると思うのよ」


 なんか、またアメリア様がとんでもないことを言い出したような…

 持ち運びできる通話の魔道具!?

 この前、運動を魔力に、魔力を同じ運動に変換する魔法を見つけたって大騒ぎして…

 その魔法で空気の振動を魔力に変えて、直接通話もできる通信の魔道具を完成させたのは、ついこの前の話なんだけど…

 あの時は、アメリア様がセーバリア学園の研究室に持ち込んだアイディアに皆が盛り上がって、一時は研究室への泊まり込み組が続出したらしい…

 通話の魔道具が完成して、今はだいぶ落ち着いたらしいけど…

 当時の研究室は、死屍累々の修羅場と化していたって聞いている。

 これは、また同じことが起こるな…


「…あっ、これ、魔力照合ができるってことだから、IDカードもこれで作れるかも…

 出入国の管理にも使えるし、銀行ができたらキャッシュカードにも使えるわね…

 これは、夢が広がるわ!」


 いや、その前に、研究室に死体の山ができるから!


「あの、アメリア様?

 流石にあれもこれもは、今の研究クラスの連中だけでは手が回らないのでは…?」


 研究に燃える研究室長(アン)と、それに振り回される開発部長(ユーノ)の顔を思い浮かべ、俺は遠回しに釘を刺しておく。

 いや、みんな、死んじゃうから…


「そうねぇ… 確かに研究室のみんなだけでは厳しいかも…

 よし! 今やってる研究の一部を、魔法魔道具研究会の方に回しましょう。

 新入部員も増えたし、アニーちゃん、ディアナちゃん、アルフ君の3人は、もう魔道具の開発くらいできるでしょう?」


 すまん!

 飛び火した!

 サラ様やレジーナのスパルタ魔法教育に、更に魔道具開発が加わるらしい…

 まぁ、いいのか?

 ディアナは元々魔道具開発やりたがっていたし…

 アニーも、アメリア様の考える魔道具には興味津々のようだし…

 アルフは…

 大変だと思うけど、がんばってもらおう!

 自分の後輩、生徒とも言える同じ魔法魔道具研究会のメンバー達の顔を思い浮かべながら、俺は大神殿の神々に彼らの無事を密かに祈願した。




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