ノブレスオブリージュ? 〜エディオット伯爵視点〜
(エディオット視点)
モーシェブニ魔法王国。
かつて世界を救った勇者を祖に持つ偉大なる王国。
豊かな魔力に恵まれ、魔力量の多い子供が生まれやすい、神々の祝福を受けし国。
この国で生まれた者は、みな高い魔力に恵まれると言われている。
実際、この国の民の魔力量は、他国の者と比べて明らかに多い。
おまけに、世界で唯一魔石が産出される山、モーシェブニ山を持つ我が国は、長い歴史の中で何度も他国からの侵攻を受けてきた。
だが、しかし、有史以来我が国が他国に膝を屈したことなど、一度も無い!
なぜなら、この国は、勇者の末裔たる我々王国貴族が守ってきたからだ!
世界屈指の魔力量を誇る魔法王国民の中でも、古き時代からこの地に住み続けてきた我々名門貴族は、他と一線を画す存在といえる。
高い魔力量と強大な魔法!
これによって、この国は長きに渡って守られてきたのだ。
だというのに…
最近は、何かがおかしい、、いや、何もかもがおかしい!
貴族どころか庶民並の魔力しか持たないアメリア公爵を、事もあろうに皆が褒めそやしている。
幼い頃、あの薄いピンクの髪を見て、あれでも王国貴族かと、嘲笑混じりに話していた両親や周囲の大人たち…
あの人たちは今、誰もアメリア公爵の事を馬鹿にしたりはしない。
それどころか、アメリア公爵が学院長を務めるこの時期に学院で学べる事は、とても幸運なことだと言う。
ちょっと待って欲しい。
そもそもアメリア公爵は、僕より年下なんだが!
そんな子供が学院長なんて、普通におかしいだろう!
最初は、魔力が少なくて生徒としては授業についていけないだろうアメリア公爵に、お飾りの“学院長”という形で、学院に通った実績をつけるためだと思った。
なぜ、そこまで王家がアメリア公爵に肩入れするのか分からないけど…
いや、実績だけを見れば、一応納得はできる…
セーバで発明された様々な魔道具は、どれも素晴らしい物だった。
あの列車には驚かされたし、何より、ドワルグに出現したミスリルゴーレムを討伐した功績は大きい。
これらの実績を考えれば、王家がアメリア公爵に肩入れする気持ちも理解はできる。
これらの実績に、実際どこまでアメリア公爵個人が関わっていたかは分からないが、彼女がセーバの街の領主である以上、セーバの街の実績は全てアメリア公爵の実績で正しい。
そういう意味では、僕もアメリア公爵の事を認めてはいる。
彼女は魔力が少なく、国を守る貴族としては確かに失格だ。
だが、文官としての差配は、優秀なのだと思う。
そういう意味では、“学院長”という職は彼女に合っているのかもしれない。
実際、形はどうあれ、昨年度の学院生は、僕がこの学院に入学してきた一昨年とは比べ物にならない程、真面目に勉強していた。
貴族の社交を蔑ろにするやり方に思うところはあるが…
実際に身に付けてみると、一体何の役に立つのかと思っていた知識が、思いの外色々なところで役に立っている事に気付かされた…
知らなかったが故に当たり前だと思っていた自分の言動が、実は問題だらけであったと気付いた時には赤面したが…
知らぬまま学院を卒業し、王宮勤めを始めていた場合を考えれば、学生のうちにそれに気付けたのはむしろ幸運だったと言える。
そういう意味では、僕もアメリア公爵には感謝しているのだ。
魔力量に関わらず、学力試験の結果で一代貴族の爵位を与えるという一般教養検定試験の導入に思うところはあるが…
学問の必要性を実感した今、国を治める上で学問に優れた者の登用も必要なのは理解できる。
それはいい。
だが、問題は、今回の聴講生制度だ!
これだけは、看過できない!
モーシェブニ魔法学院で学ぶこと。
それは、この国の指導者たる貴族の証。
確かに学院には平民も入学できる従者枠が存在するが、それは指導者たる貴族を補佐する者という前提で許されている枠。
誰も彼もが入学を許される訳ではない。
魔力が無くとも!?
身分も家柄も関係なく!?
冒険者だろうが屋台の売り子だろうが、誰でも学ぶ機会はある!?
何を言っている?
魔力の無い者には国と民を守れない。
魔力のある者は国を、魔力の無い民を守っている。
故に、魔力のある者は魔力の無い者より敬われる。
当然のことではないか!
人は生まれながらに平等だと言うのなら、平等に国を守れ! 平等に魔力を提供しろ!
そういう話ではないか…
おまけに、アメリア公爵が今年から導入した実技訓練のやり方は、極端に聴講生の平民を贔屓したものだ。
実際に魔法を使うのではなく、変な運動と生活魔法の訓練ばかり…
あれなら平民にもできるだろう。
だが、あんな実技訓練で仮に学院卒業資格が得られるなら、国を守る者を育成するという本来の学院の存在意義が失われてしまう…
アメリア公爵は、この学院を、この国を、滅茶苦茶にするつもりなのか…
昨年は、まだマシだった。
キルケ伯爵令嬢は、良くも悪くもアメリア公爵のやり方に流されることなく、アメリア公爵のやり方に反対する貴族を集めて、以前の学院らしさを維持していた。
ライアン王太子殿下も、中立の立場を維持しつつ、我々保守派貴族の立場を慮って下さっていた。
だが!
今年は違う!
キルケ伯爵令嬢とライアン王太子殿下は卒業されてしまった…
キルケ伯爵令嬢は現在行方不明だそうだし、彼女に賛同していた多くのザパド領貴族も学院を去った。
そして、ライアン王太子殿下は…
何故、あの方が聴講生として学院にいるのだ!?
あれではまるで、殿下が平民に味方しているようではないか!?
真意を問いただす必要がある!
「ようこそ、おいで下さいました」
正式には学院を卒業され、今は学院と公務の両方でお忙しい殿下に、やっとお時間を取っていただくことができた。
この機会を逃す訳にはいかない。
何としても王太子殿下の真意を確認し、今の学院を正しい状態に戻すため御協力いただかなければ…
僕は、王太子殿下に思いの丈を語った。
僕が、如何に今の学院を、この国の今後を憂いているかを…
黙って僕の話を聞いていた殿下は、一通り僕の話をお聞きになると、溜め息をつかれてこうおっしゃった。
「現実をみろ」
先日、大量の誤字脱字報告をいただきました。
ありがとうございます。
m(_ _)m
実は、私の作品は誤字とかあまりないよねとか、調子にのってました、、
すみません、猛省してます!
今までは、生温かい目で見逃されていただけであったと…
今後はもっと気を付けねばとか思いつつ…
早速ありそう?
フラグたてた?




