神様語解読
この世界にはどういった魔法があるのか?
どのような現象を引き起こすのか?
どう使われているのか?
魔法大全の読み込みもだいぶ進み、魔法の概要はおおよそ理解できてきた。
私の魔法についての勉強も、概ね順調と言える。
問題は、呪文に使われている言葉の意味なんだよねぇ……。
これが分かれば魔法の仕組みなんかも分かるかもしれないし、そうすれば新たな魔法を作り出すことも可能かもしれない。
魔法大全には世界中から集められた呪文の原文とその訳や、実際の効果が書かれているから、それらを比較しながら単語の意味を類推しているんだけど……。
いくつかの単語については、ほぼ単語の意味を限定することができた。
でも、よく分からないものも依然多い。
例えば、“炎槍”という呪文。
これは、槍の形をした炎を作り出して、相手にぶつける魔法だ。
呪文はこうだ。
『炎よ、我が魔力喰らいて槍となせ』
これ、実際に叫ぶのは恥ずかしいよね。
どうせ私には使えないけど。
ただ、実際にはこういう内容の神様語(呪文)を唱えるだけで、幸い直接この台詞を叫ぶわけではない。
もし、お父様がこんな台詞を真顔で叫んでいるところとか見たら、私は悶死してしまうだろう。
まあ、それはどうでもいい。
問題は呪文だ。
炎槍の呪文は以下の通り。
『Умножьте тепло и магию.Формируйте тепло в нужную вам форму.』
で、次の呪文が、“ファイアボール”。
『Умножьте тепло и магию.』
(我が魔力よ、炎となれ)
呪文の前半は全く同じだ。
ファイアボールと炎槍の違いは、炎をそのまま飛ばすか槍の形にして飛ばすかの違いだけだから、多分呪文の前半で炎を作って、呪文の後半で槍の形に加工するのだろうと推測できる。
で、次に同じように物を加工する魔法をチェック。
まずは金魔法。
金属を思い通りの形に加工する魔法なんだけど、呪文はこうだ。
『Формируйте неорганические материалы в нужную вам форму.』
(命無き者よ、我が命に従い新たなる形を成せ)
次に木魔法。
木材を思い通りの形に加工する魔法で、呪文はこう。
『Формируйте органические материалы в нужную вам форму.』
(生在る緑の息吹よ、我の求めに応じその形を変えよ)
炎槍の後半部分と金魔法、木魔法は、一部の単語を除いて全て同じ。
つまり、これらは3つとも同じ呪文で、違いは加工する物が何かということだけなんだと思う。
そうすると、それぞれの違う単語が加工する物を指しているということで、
『тепло』が槍で、
『неорганические материалы』が金属、
『органические материалы』が木材ということになる。
“命無き者”とか“生在る緑の息吹”とかあるけど、呪文の用途を考えると、これって金属と木材で間違いないんじゃないかと……。
何となくイメージというか、言いたいことは伝わるんだけどね。
これってもっとシンプルに、“金属よ、思った通りの形に変われ”とかじゃ駄目なのかなぁ……。
なんか、一々言い方が大袈裟なんだよね。
で、ここでよく分からないのが、槍を表す『тепло』だ。
この単語って、ファイアボールの呪文にも入っているんだよね。
そう考えると、『тепло』は“槍”ではなく、むしろ“炎”ではないかと思うのだ。
“炎を加工する”ということで、金魔法、木魔法とも辻褄が合うしね。
ただ、そうなると“槍”はどこに行った?、ということになる。
呪文の訳文にはっきりと“槍”という名詞が使われている以上、どこかに“槍”という言葉があるはずなのに……??
こんな作業を繰り返しながら、私は神様語の解読を着々と進めていくのだった。