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変な踊りって言うな!

 魔法について学び始めて数ヵ月が過ぎた。

 私ももう4歳だ。

 5歳になれば神殿の石板に触れられるようになり、実際に魔法を使うことができるようになる。

 でも、正直それほど待ち遠しいって訳でもないんだよね。

 だって、実践の方はダメダメだってことは分かっている訳だし。

 それよりも、今はこの神様語(勝手に命名)の解読に夢中なのだ。

 魔法を習いたいと言い出した私に、お母様は数冊の入門書とお祖父様の書いた“魔法大全”を用意してくれた。

 入門書の方はこの世界の魔法についての一般常識について書かれたもので、半分くらいは他の教科の学習をする中で既に学び終えた知識だった。

 入門書を速攻で片付けた私は、早速魔法大全の攻略に取りかかったのだけど……。

 こちらは流石に手強い。

 魔法に携わる者のバイブルと言われるだけのことはある。

 特に難航しているのが、呪文に使われている神様語の解読だ。

 外国語マニアの性で、知らない言葉を見るとつい解読を試みてしまう。

 オリジナルの呪文とその翻訳、実際の魔法の内容等を比較しながら単語の意味や文の構造等を推測しているのだけど、なかなかうまくいかない。

 最近は、お父様にも色々と教えてもらっているのだが、お父様も神様語の意味については今まで考えたことが全く無かったみたい。

 この呪文のこの単語はどういう意味かと初めて聞いた時には、ぎょっとした顔をされた。

 呪文というのは神様から賜った神聖なもので、その言葉の構造だの意味だのを考えるなど不敬というのが、この世界の感覚らしい。

 呪文の研究というのも、その呪文がどの地方にあるどのような呪文で、どのようなことができるのかという研究はされるが、呪文そのものの仕組みや構造についての研究など存在しないそうだ。

 これは、あれだね。

 お年寄りが「なむみょうほうれんげきょう」って唱えるのと同じパターン。

 とにかく、唱えれば幸せになれるってことだけ知ってて、それがどんな意味を表しているのかは気にしないってやつ。

 下手に小さな子が意味なんか聞くと、つべこべ言わずに黙って唱えなさいって怒られちゃう感じだ。

 若い頃はかなりの魔法オタクだったらしいお父様にしてこれなのだから、普通は神様語の解読なんて思いもしないんだろうね……。

 でも、私はやる!

 目の前に意味の分からない言葉があるなんて、それだけで許せないからね。


 そうして数時間魔法の学習に没頭した私は、ペンをペン立てに戻すと、椅子を立って軽く背伸びをする。


(ちょっと運動でもしようかな)


 椅子から立ち上がった私は、自室の中央、少し広いスペースに移動して、最近日課となった太極拳の練習を開始した。


 まずは軽くストレッチをして体を揉みほぐし、続いて足を軽く肩幅に開いた中腰の姿勢でまっすぐに立つ。

 気功法の型を作り、そのままの姿勢を数分間維持。

 同じことを幾つかの別の型でも繰り返す。

 所謂(いわゆる)立禅というやつだ。

 じっとしたままの姿勢で、全身の力を抜く。

 重心はぐらついていないか、体のどこかに無駄な(りき)みはないか。

 全身に意識を集中させていると、そのうち掌や丹田の辺りに熱を感じるようになる。

 この体はまだ幼くて柔軟なせいか、前世で練習していた時よりもはっきりと熱を感じることができる。

 前世の太極拳の師匠である私の祖父は、この熱のことを“気”だと言っていた。

 実際は、ただ血行がよくなっているだけなのかもしれないけど、カッコいいから私も“気”ということにしていた。

 立禅が終わり、程よく掌や丹田に気を感じられるようになったところで、今度は太極拳の套路(とうろ)を始める。

 先程の立禅で得た熱を見失わないように意識しながら、30分程をかけてゆっくりと決められた型をなぞっていく。

 水の中を動くようにイメージしながら、ゆっくりと粘るような動きを心がける。

 全身の力は抜き、水の抵抗に逆らわず周りの水の流れを意識するように。

 流れに乗るように軽やかに、それでいて水の流れのように重々しく。

 “重いものは軽く、軽いものは重く”というのは茶道の教えだったけど、太極拳も大体そんな感じだ。


 練習が終わると、そのタイミングを見計らったように若い侍女さんがタオルとお湯の入った洗面器を持ってきてくれた。

 お湯に濡らしたタオルで汗をかいた体を拭かれ、新しい服に着替えさせてもらう。

 別に自分一人でもできるのだが、見た目は幼児だしお嬢様でもあるので、その辺は侍女の皆さんにお任せしている。

 彼女たちの仕事を取っちゃっても困るしね。

 ちなみに服はドレスとかではなく、動きやすい普通のワンピースだ。

 特に太極拳の練習をしていても邪魔には感じないので今のところ問題ないが、そのうち練習用にズボンタイプの服を作ってもらった方がいいかもしれない。

 足を上げたりする動きもあるからね。

 女性がスカートでやると色々と障りがあるのだ。

 よ~く体を拭かれて着替えも終わったところで、サマンサがお茶を淹れてくれる。

 

 ここまでが、最近のいつもの日課だ。

 太極拳の練習は、魔力測定の日からしばらくして再開した。

 一つには自分の現状を踏まえて、今後何かあった時のために、やはり体力と護身術は必要だろうと判断したから。

 この世界で私の太極拳がどの程度護身術として通用するかはわからないけど、何をやるにも体力は必要だしね。

 あともう一つは、私がこの家限定で自重を止めたこと。

 3歳の幼児が、もう4歳だけど、いきなり変な体操を始めたら絶対に変に思われる。

 実際、ちょっと運動するからと突然部屋で奇妙な動きを始めた私を見て、初めてそれを見た侍女の皆さんは慌ててお母様を呼びに走っていった。

 何事かと駆け付けたお母様に、必殺『これは夢の中で女神様に教わった運動だ』と言うと、お母様も侍女の皆さんも納得してくれて、それからは何も言われなくなった。

 この家の人たちがどこまで私の“言い訳”を信じてくれているのかは分からない。

 でも、私がどんなに変な事をしても、それが他人を傷つけるようなことでもない限り、お父様もお母様も使用人の人達も、私を変な目で見ることはないだろう。

 最近、心からそう思えるようになってきたのだ。


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