魔法の勉強開始
魔力測定とその後の話し合いの翌日。
私はお母様に魔法について学びたいとお願いした。
「魔法は、アメリアが5歳になるまで習えないのよ。
昨日の小鳥の魔法ならまた見せてあげる。
5歳になって神殿に行けるようになったらお母さんが教えてあげるから、もうちょっと待ってね」
昨日の魔法をすぐに覚えたがっていると考えたのだろう。
お母様は魔法の勉強は5歳まで待つように言う。
でも、多分それでは遅い。
私にはのんびりと5歳になるまで待つ余裕などないのだ。
昨日の話し合いの後、今の私の現状と今後の方針について改めて考えてみた。
今はいい。
今はお父様、お母様が守ってくれている。
でも、その状況が今後も続く保証はない。
私もいずれ大人になるし、そうなれば一人で外に出る機会も増えるだろう。
そして、いずれは親の庇護も受けられなくなる。
昨日聞いた貴族制度を考えると、私が大人になっても同じように公爵として認められるのは難しいと思う。
魔力の多いことが文字通り国益(税収)となるこの国では、魔力を持たない者は現実的な理由で価値がない。
では、どうするか?
魔力が駄目ならそれ以外のところで国に価値を認めてもらうしかない。
お父様、お母様も恐らく同じように考えたのだろう。
大量に与えられた本も、魔力を持たない私に少しでも将来役に立つ武器を持たせようという気持ちの表れだったのだ。
その考えには私も賛成だ。
知識は力だ。
魔力の問題がなくとも、私がこの異世界でやっていくためには、この世界を知ることが何よりも大切だと思っている。
ただ、魔法に対する見解は、お父様、お母様と私ではちょっと違う。
両親は、どうせ私には魔法は使えないのだから、無い才能に固執するよりも今ある才能を伸ばした方が良いと考えているのだろう。
だから、今までも魔法に関する本だけは与えられてこなかった。
でも、私はそうは思わない。
私に才能が有ろうと無かろうと、この世界が魔法の力によって成り立っているのは事実だ。
社会制度にしろ産業にしろ、全て魔法が関係している。
ならば、自分では使えずとも魔法に関して知っておくことは、この世界を生き抜くためには絶対必要だ。
知らなければ対処のしようがない。
実際に銃は撃てなくても、銃がどういうものかを知っていれば、危険だということは理解できる。
知らなければ、たとえ銃口を向けられても、命の危機にすら気づけない。
実際に魔法は使えずとも、それがどのようなものかを知っておく必要は絶対にある。
私はお母様に自分の考えを伝え、説得を試みる。
話を聞き終わったお母様は、感心したように、うれしそうに頷いた。
「なるほどねぇ。
流石アメリアちゃんは賢いわ。
よ~く現実を見ている。
ただ無理だからと現実から目を逸らしていても、何も問題は解決しないわね。
さすがは女神様の弟子といったところかしら」
「でッ!? (女神様の弟子って……)」
実は昨日の話し合いが一旦終わった後、私は今まで頭の隅でずっと気していた事を聞いてみたのだ。
『お父様、お母様は、私のことを変だとか子供らしくないとか思ったりはしないのですか?
他の貴族の子供も、みな私みたいなんでしょうか?』
実際、他の貴族の子供に会ったことのない私は、この国の貴族の子供のレベルが分からない。
もしかして、恐ろしく教育されているのかもしれないけど、さすがに元大人の私以上ということはないと思う。
言葉の問題が発覚してからは後先考えずに必死にやってきたけど、どう考えても私の普段の言動は3歳の幼児のものではない。
優秀云々の問題ではなく、不気味に思われてもおかしくないレベルだ。
だからこそ、今まで怖くて聞けなかったけど、昨日、両親が今までどんな気持ちで私を育ててくれていたのかを知ってしまった。
今更幼児が大人びた言動を取ったくらいで捨てられるようなことはないだろう。
そう思って聞いてみたのだけど……。
『もちろん、すご~く変だと思っていたわよ。
私だけではなくて、ディビッドもこの家の使用人も皆そう思ってるわ。
どこの世界にこの国の最高学府たる王立魔法学院で使われる教科書を、ほとんど独学で理解しちゃう3歳児がいるのよ?
貴族の子供どころか、王宮にいる貴族たちよりもアメリアちゃんの方が余程優秀よ。
ディビッドが、王宮の使えない貴族どもよりアメリアに仕事を頼んだ方が余程捗るって、愚痴ってたもの』
どうやら、知らぬ間にやらかしてしまっていたらしい。
この国の”学院=小学校”で使う教科書が、“学院=最高学府”で使われているものだったとは……。
『まあ、アメリアちゃんはそれこそ赤ちゃんの頃から変だったしね。
なんか大人びていて、いつも周りを観察するような目で見ていたし。
だからね、よくディビッドとも話していたのよ。
アメリアのあの並外れた才能は、きっと魔力の代わりに神様が与えてくれたものなのだろうってね。
実際、私が聞いたこともないような事を当たり前のように話している時もあるし……。
やっぱり、ああいう知識って神様から戴いたものなのかしら?』
『……え~と、そう! 夢の中で、女神様に教えて頂きました』
私の苦し紛れの言い訳に、お母様はうれしそうに頷くと、「やっぱりね」と、すんなり納得してくれた。
まあ、元々神々から与えられた魔法が存在する世界だから、誰も神や精霊の存在を疑ったりはしない。
“女神様に教えてもらった”も、“神々に与えられた知識”とそう変わらないから、ほぼ当初の予想通りで受け入れやすかったのかもしれない。
そんな訳で、私はお母様から“女神の弟子”認定をされてしまったのだけど、ともあれ丸く収まったようで何よりだ。
これで、地球の知識を使って多少やらかしても、全て「女神様に習った」で押しきれる。
よし、知識チート発動か?
全く反省も学習もしない私を余所に、お母様は早速私の魔法の勉強のための本を、色々と見繕ってくれたのだった。