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総力戦 〜ライアン王太子視点〜

(ライアン王太子視点)


 それから暫くの後、本格的な戦闘が始まった。

 初めにウルフ、続いてオーク。

 西側の守りを担当する私の部隊は、ウルフの担当だ。

 ちなみに、ユリウスの部隊は北側のオークを担当し、ソフィア嬢の部隊は東側と南側、それに城壁の補強などの輜重部隊の役割も担っている。


「ウルフをあまり近づけるな! 近づけば壁を飛び越えて来るぞ!」


 ウルフは速く、遠距離からの魔法攻撃はあっさりと(かわ)してくる。

 かといって、近づけ過ぎれば壁を乗り越えてこちらに攻め入ってくる。

 闇雲にファイアボールを撃つだけでは仕留めきれない。


「Умножьте тепло и магию.Формируйте(ファイアウォール) тепло в нужную вам форму!」


 数の集まっているところに、それを取り囲むように炎の壁を展開する。

 壁を狭め、ウルフが一箇所に集まったところで、皆でファイアボールを撃ち込む。

 ウルフは素早く、その牙も爪も鋭いが、防御力は低い。

 勿論炎も効くし、剣で切り殺すこともできる。

 ウルフの最大の武器は、そのスピード。

 それさえ殺してしまえば、それ程の脅威ではない。

 まずは接近させないこと。

 奴らを攻撃の間合いに入らせないことが肝心だ。


「うぁ!?」


 そうは言っても、奴らは数も多く、こちらの(すき)を突いて壁を乗り越えようとしてくる。

 間近に迫った鋭い牙!

 

「ギャンッ!!」


 それは、鋭い槍の一突きで、城壁の下の堀に落下していく。

 起き上がってくる気配は無い。


「す、すまない……」


「いえ、お気になさらず。

 城壁の真下は死角になりやすいですから御注意下さい」


 そう事も無げに答えるのは、セーバ領から来た平民の兵士。

 彼等もこの戦闘には参加している。

 今までの魔物討伐では手を貸すことのなかった彼等も、今回は積極的に戦闘に参加している。

 彼等は、強い。

 先程のような接近戦における剣や槍の技術も勿論だが、魔法の腕も想像以上だった。

 彼等の魔法に目立ったところは無い。

 片手に乗る程度の大きさのファイアボールにナイフ程度の氷槍、拳大(こぶしだい)の石弾……。

 だが、それらは、正確にウルフの急所を撃ち抜き、確実に敵を屠っていく。


「魔力は貴重ですから、効率よく使っていきませんと」


 彼等の魔力は、恐らく私の1割にも満たない。

 だが、私の1割以下の威力の魔法で目の前の魔獣を倒してしまう彼等は、ここにいる貴族の誰よりも強い。



(頭が、クラクラしてきたなぁ……)


 これは、魔力切れの兆候か……?

 私は事前に渡されている腰の魔力回復薬に手を伸ばし、それを口に運ぶ。

 体の中に熱を感じ、少しずつ魔力が回復してくるのを感じる。

 それでも、溜まった疲労までが回復する訳ではない。

 一体どれほどの時間が経ったのか……。

 レジーナ嬢は100匹()()と言っていたが、とてもそんな数で収まるとは思えない。

 一時よりはだいぶ数が減ったとはいえ、それでも奴らの進軍に終わりは見えない……。


「「「「「ウォォォォ〜」」」」」


 と、そこに、ユリウスの守る北側の城壁から歓声が聞こえてくる。

 どうやら、群れのボスであるオークキングを討ち取ったらしい。


(北側は、何とかなったか……)


 南側と東側からの攻撃は既に完全に収まっている。

 残るはこちらのウルフのみ。

 オークの方が片付けば、ユリウス、ソフィア嬢の応援も期待できる。

 こちらの数が揃えば、ウルフ程度は物の数ではない。


(いける!)


 そう思った瞬間、森の中にビリビリとした威圧を感じた。

 そして、そいつは姿を現した。

 恐らく、奴が群れのリーダー。

 銀色の魔狼……フェンリル。

 最初に見たワイルドボアほどもある巨大な狼の魔獣。

 今まで戦っていたウルフとは、大型犬と子犬ほどの違いがある。

 その巨体に反して、動きは俊敏。

 牽制で撃ち込まれたファイアボールは、あっさりと(かわ)される。

 そして、お返しとばかりに戦場に響き渡る大地を揺さぶるがごとき咆哮。

 いや! “ごとき”ではない!

 フェンリルの咆哮で、こちらの城壁の一部にヒビが入る。

 堀の一部も崩れて埋まっている。

 慌ててソフィア嬢の部隊がサポートに入り、城壁の補強をしているが……。

 再びの咆哮で、更に城壁のヒビが広がる。

 このままではジリ貧だ……。

 北側のオークの殲滅が終わったのか、ユリウスもこちらに駆けつけてきた。


「殿下! ご無事ですか!?」


「ああ、私は問題無い。だが、城壁が不味い。

 やつの咆哮は城壁を崩す。

 さっさと仕留めないと、魔物がなだれ込んでくるぞ」


 もう数は少ないとはいえ、この野営地はまだまだ複数の魔物に囲まれている。

 城壁に守られた状態なら殲滅は時間の問題だが、城壁が崩されれば話は別だ。

 盾役となれる者が少ない現状では、一斉に魔物に接近されれば、こちらに為す術はない。

 城壁を崩されるのが先か、我々が奴を倒し切るのが先か……。

 迷っている暇は無い!

 事は一刻を争う。


「全軍、フェンリルに攻撃を集中!

 ソフィア隊は城壁とフェンリルの間に防壁を展開! 咆哮から城壁を守れ!

 私とユリウスのファイアウォールで奴を囲い込む!

 動きが止まったところで、皆全力で攻撃魔法を叩き込め!!」


 城壁をフェンリルから隠すように次々に現れた岩壁は、正に質より量の粗雑なもの。

 当然フェンリルの咆哮の前に、脆くも崩れ去っていく。

 それでも、我々の生命線たる城壁の身代わりの役目は、十分に果たしてくれる。

 そして、目の前の岩壁に注意がそれている間に展開された炎の壁が、フェンリルの周囲を囲い込む。

 その炎の厚さ、高さは、普段の倍以上。

 そこに、皆が己の最強魔法を叩き込んだ!

 基本的な戦術は、今までに散々繰り返してきた事と変わらない。

 ただし、魔力の出し惜しみは無し。

 上位貴族全員による全力全開の一斉攻撃。


 そして、銀色の魔狼は、その場に倒れ伏した。

 その銀色の躰を、血と焦げ跡で包み込んで……。


「「「「「「「ウォォォォォ〜〜!!!」」」」」」」


 先程のオークキングの時以上の大歓声!

 それは、この夜を凌ぎきった我々の、事実上の勝利宣言。

 まだ(まば)らに幾らかの魔物は残っているものの、ウルフの群れはほぼ壊滅。

 最後まで油断はできないが、後は事実上の掃討戦と言ってよいだろう。

 もうすぐ夜も明ける。

 我々は、勝ったのだ!


 東の空が徐々に明るくなり、森が朝の空気に包まれる。

 そして、西からは、わずかに地面を揺らす地響きが聞こえていた……。


 

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