えっ、赤ちゃんになってる?
さっきから、なんか息苦しい……。
てか、ヤバい! 息できない! 死ぬ!!
水の中で溺れる感覚に、必死にもがいて……。
ふっと、誰かの手に体を支えられて、水中から掬い上げられる感じがして……。
慌てて肺に大量の空気を送り込み……。
無性に大きな声で叫びたい衝動に駆られた私は、本能の赴くままに叫んでいた!
「おぎゃあ!!!」って。
あれ? そりゃないわ。
さすがに“おぎゃあ”はまずいでしょ。赤ちゃんじゃないんだから。
どこぞの発展途上国に貴重な女子力を捨ててきてしまった私でも、さすがにまずいと思う。
せめて、“ワアー”とか“ウォ~”とか、いや、“ウォ~”もまずいか……。
とにかく、“おぎゃあ”はいただけない。
というか、ここはどこ?
……砂漠じゃないよね?
大体砂漠で溺れるって……。
あぁ、砂山に頭から突っ込んだって可能性は有りか。
何か視界がぼやけて、はっきりと周りが見えないんだけど……。
そうこうしているうちに、やたらと大きな人に抱えられて、体を洗われ、きれいな布に包まれて、ベッドに横たえられていた。
その間、私はまったくの無抵抗。
だって、手足が重くて、全然思うように動かせないんだもの。
もう、要介護者って感じである。
しばらくすると、色々な人がやってきて(全て巨人!)、私のことを間近で覗き込んだり、軽くなでたりしていった。
声の感じからして、男の人もいれば、女の人もいるみたい。
ただ、皆私に対して好意的な感じがするので(この辺は長い旅の経験で何となく察せられる)、今のところ特に大きな問題はなさそうだ。
まぁ、さっきからがんばってグーパーを試みているけど、ほとんど手に力が入らないので、当面はこの人たちに保護してもらうしかないだろうね。
そんな感じで寝たきりのまま(体感で)数日が過ぎ、少しずつ視界もはっきりしだした今日この頃。
そろそろ、現実を受け入れなければならないようだ。
うん、どうやら私、赤ちゃんになってる。
例のあれだ、『頭脳は大人』ってやつ。
子ども通り越して赤ん坊にまで戻っちゃってるけどね。
アラブ世界の怪しい薬でも嗅がされたかなぁ。
ともあれ、今の私が赤ちゃんになっているというのは、まぎれもない事実みたい。
周囲の人たちが私に危害を加える気が全くなさそうだってことが、せめてもの救いかな。
何はともあれ、なってしまったものは仕方がない。
とりあえず、することもないし、眠いし、また起きてから考えよう。