闘技大会開幕? 〜ディアナ視点〜
光陰矢の如し。
通常の訓練や講義に加えて、闘技大会に向けての実戦訓練もあり、大会当日まではあっという間だった。
そして迎えた大会当日。
舞台となる闘技場には、在校生のみならず、王都や他領からも多くの観客が詰めかけている。
闘技場の周囲には露店が並び、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
闘技場の観客席には、貴族だけでなく多くの平民達もいる。
特に今年は、いつもの4チームに加えてセーバ領も参加するという噂が広がり、いつもとは違う試合が見られるのではと、貴族だけでなく平民の関心も高い。
そんな中、平民の在校生席の中で最も試合の良く見える席をちゃっかり確保したアニーとディアナの2人は、今日の試合についての話題で盛り上がる。
(ディアナ視点)
「ねぇ、ディアナ。レジーナ様、大丈夫かなぁ?」
「どうだろう……。
常識的に考えれば3対15なんて、勝負にならないだろうけど……」
「レジーナ様、怪我とかしないかなぁ?
レジーナ様なら問題無いと思うけど、万が一もあるし……」
そう心配するアニーは、大のレジーナファン。
父親の商会で何度か見かけたことがあるらしく、あの偉そうなお父様を射竦める視線に、彼女は痺れてしまったとか……。
一度でいいからレジーナ様に叱って欲しいというのが、目下の彼女の望みらしい……。
まぁ、彼女は大商会の一人娘だし、家でも使用人達に絶えず指示を出す立場だから、レジーナさんのことを姉のように思ってるのかもしれない。
かくいう私は、アメリアちゃん派だ。
家が魔道具や武器、金属製品等を扱う工房である私の周囲には、いつもむさい男達が溢れかえっていて、私はそんな環境に辟易していた。
無骨な武器に、実用性重視の道具類……。
全然可愛くない!
いや、分かってる。
自分だって、傍から見れば、決して可愛らしいタイプではないって……。
でも、だからこそ、自分の周囲は可愛いもので溢れさせておきたいのだ!
そんな鬱屈した日々を送っていたある日、私は自宅の工房の隅で、それを見つけた。
最近市場を賑わす、アメリア商会の魔道具。
研究目的で購入されたその魔道具を見た瞬間、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。
かわいい!!
その全体に曲線を描く魔道具は、何と言うか、とにかく可愛かった!
別に華美な装飾がされている訳ではない。
見た目はいたってシンプル。
でも、なんか可愛い。
私は、ひと目でこの魔道具の、そしてアメリアちゃんの作り出すあらゆる物の虜になった。
機能的、高品質でありながら、使う人に愛着を持たせるデザイン。
デザインなんて、一部の貴族の屋敷に飾られる装飾品にだけ求められるものだと思っていた。
少なくとも、実用性重視の道具類に求められるものではない。
うちの工房にしたって、職人が重視するのは頑丈さと性能のみ。
剣ならいかに切れるか、灯りの魔道具ならいかに明るいか……そればかり。
でも、私は聞いた。
アメリア商会の剣を愛用する冒険者の女性が話しているのを。
『なんか、この剣使ってると安心するんだよね。
剣君と一緒に戦ってるって感じで……。
剣は道具で、別に相棒って訳じゃないんだけどね』
我が意を得たり!
その時、私は初めて“職人”になりたいと思った。
その後しばらくして王都に鉄道が開通し、私はその式典で心の師、アメリアちゃんを見ることになる。
かわいい!!
なんて、可愛らしい!
この国では淡い色彩はあまり好まれないけど、そんなことは関係ない!
可愛いものは可愛いのだ!
“かわいい”は正義だ!
そして、“かわいい”アメリアちゃんも正義だ!
魔力量が少ない? それが何か?
職人の中にはアメリアちゃんの魔力量が少ないのを理由に、セーバの街の職人が優秀なだけで、別にアメリア様が職人として優れている訳ではないという輩もいる。
馬鹿ですか?
あんなかわいいデザインの道具達を、むさい職人の男達の感性で作り出せるとでも?
私は成人したらセーバの街に行って、絶対にアメリアちゃんに師事してみせる。
魔法学院に入ったのもそのためだ。
噂に聞くセーバの街、そしてセーバリア学園は、全てにおいて相当にレベルが高いらしい。
平民であっても読み書き計算ができるのは当たり前。
アメリアちゃんに重用される職人達のレベルは、信じられないことに貴族の通う学院よりずっと上だと言われている。
つまり、我が国の最高学府たる魔法学院を卒業して、やっとスタートラインということ……。
一体なんの冗談かとも思ったけど、現実から目を背けていても始まらない。
私は父親の提案に従い、まずはモーシェブニ魔法学院に入学することにした。
幸い、幼馴染みのアニーも学院に通うことになっていたので、一人で貴族社会と関わる不安はだいぶ和らいだと思う。
そうして入学した学院に、まさかアメリアちゃんが学院長として赴任してくることになるなんて!
これはもう運命でしょう!
「えぇと、ディアナさん、聞いてる?
もうすぐ試合始まるから、戻ってきてね」
「えっ、あっ、うん、聞いてる。レジーナさんなら大丈夫よ」
「だから、その試合が始まるの!
私、魔法戦闘とか詳しくないから、解説よろしくね」
よろしくと言われても、私もそんなに詳しい訳じゃないんだけど……。
家が武器も作ってるから、その関係で上級冒険者や貴族の使う魔法を見たり、実際の魔物との戦闘の話を聞く機会が多いってだけで、特に解説できるほどでは……。
そう思っている間に、試合はあっけなく終わった。
これなら私にも解説できる。
「……セーバチームの圧勝だね」
「……うん、わかった」
アニーも呆然としている。
結果は、誰の目にも明らかだった……。
 




