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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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ソフィア嬢のブートキャンプ

 こうして、私の目的(野望)や研究会の趣旨を理解してもらい、魔法魔道具研究会は本格始動した。

 といっても、活動内容は“研究”ではなく、ソフィア嬢のブートキャンプ。

 “研究会”とは名ばかりの、完全体育会系のノリだ。

 文化部とは名ばかりの、どこぞのかるた部のよう……。


「動きが速すぎです! 姿勢が崩れてますよ! 体重はもっと後ろ足にかけて……」


「肩に力が入ってる。力が入ると繊細な魔力の流れを感じられなくなるから、絶対に力をいれちゃダメだ」


「全身の動きを意識して! 水の中を動くようなイメージで身体を動かして下さい」


 汗をダラダラと流してレジーナ、レオ君、サラ様監視の元、太極拳の型を繰り返すソフィア嬢。

 そこに、貴族令嬢の面影は無い。

 ソフィア嬢、レジーナ、サラ様の3人は、既に学科の授業には出る必要が無いし、レオ君にしても出席するのは魔法学の授業だけだ。

 実技訓練以外の殆どの時間は、ソフィア嬢の教育に注ぎ込まれている。

 彼女は既に3年生。

 来年には卒業だ。

 領地の時間云々を抜きに考えても、私達が直接ソフィア嬢を鍛えられる時間は限られている。

 ソフィア嬢には、それまでに何とかセーバリア学園の上級クラス程度の実力は身につけてもらいたい。

 そうじゃないと、ソフィア嬢が領地に戻ってザパド領を継いだとしても、セーバの街の幹部連中と同じ目線で仕事の話なんてできないからね。

 これは、魔法に対する理解は勿論、それ以外の知識についても言えることで……。


「“景気”というのは、どれだけのお金を持っているかではなく、どれだけのお金が動いているかで決まります。

 そういう意味でも、他国との交易を遮断することは悪手です。

 ですが、場合によっては自国の産業を守るために他国の商品を締め出す必要もあり、そのためには関税を……云々」


 当然、ソフィア嬢に対する教育は、魔法以外の学問にも及んでいる。

 折角ザパド領に鉄道を引いても、今までの調子で何も考えずに国境で関税をかけたり、目先の利益に釣られて商業税や通行税をかけられてはたまったものではない。

 逆に、領民を大事にするあまり、目の前の領民の意見に振り回されて大局を見失う領主でも困る。

 ソフィア嬢には、周囲を黙らせる腕っぷし(戦闘力)と、領の将来を見定められる先見性(知識)を、早急に身につけてもらう必要がある。

 まぁ、同じ高魔力持ちのサラ様も通った道だ。

 この調子で頑張れば、何とかなるでしょう。



 そんな日々がしばらく続いたある日。


「そういえば、もうすぐ闘技大会だけど、ソフィアさんはそちらの準備は大丈夫なの?」


 ふと、思いついたことを聞いてみた。

 来月開かれる闘技大会は、この学院最大のイベントで、各領地ごと15名の代表選手を選抜して行われる領地対抗戦だ。

 その領地の最上位貴族がリーダーとなり、各領地ごとに選手の選抜が行われる。

 そして、大会当日には、ザパド領、ユーグ領、ボストク領、そして王都の各代表チームがトーナメント形式で試合を行い、互いに覇を競うこととなる。

 大会の様子は一般にも公開されるため、当日の学院の闘技場は、一般の観客でお祭り騒ぎとなる。

 この大会で活躍できれば、その名声は一気に全国区。

 たとえ活躍できなくとも、この大会の選抜メンバーに選ばれるだけでも大変な名誉だ。

 だから、各領地の選手選抜が行われるこの時期、腕に自信のある生徒は訓練に余念が無い。

 そして、この時期更に忙しくなるのが、領地をまとめるリーダー達。

 選手の選抜、作戦立案、他領チームの情報収集……。

 やることは山のようにある。

 ザパド領の最上位貴族であるソフィア嬢は、当然ザパド領チームのリーダー。

 いくらザパド領の人数が減っているとはいえ、大会に参加する以上色々と忙しいはずだ。

 そう考えて聞いてみたんだけど……。


「ザパド領は……今年は参加しません」


「「「えっ!?」」」


 これには、私だけでなく、レジーナさんを除く2人も驚いている。


「……私以外のザパド領の者全員が、勉強が忙しくて闘技大会には出られないと……」


 あぁ、確かに次の単位認定試験は、闘技大会のすぐ後だね……。

 この点は学院の年間行事予定を決める際に少し問題になったけど、結局気にしないことに決めた。

 毎季節ごとに試験をやれば、どうしても予定が重なってしまう場合はでてくる。

 試験自体年に3回、3年間だと9回もあるのだから、そこは各人でうまく調整してもらおうということになったんだけど……。

 こういう問題も出てくるのか……。


「う〜ん、でも、今更日程の変更はできないし……」


 悩む私に、ソフィア嬢が慌てて答える。


「あっ、いえ、そのような心配は無用です。

 ……どうせ、ただの言い訳ですから」


 どうも、これもクボーストの代官の娘、キルケ嬢一派の嫌がらせらしい。

 ソフィア嬢が闘技大会の件で相談に行ったところ、既に試験に合格しているソフィア様と違って、皆次の試験対策で忙しいのですと、けんもほろろだったらしい。

 キルケ嬢、何を考えているやら……。

 百歩譲って、ソフィア嬢に嫌がらせをしたい、というのは分かる。

 でも、そのために伯爵でもあるキルケ嬢が大会に不参加というのは、むしろ自分へのダメージの方が大きいのではないだろうか?

 本来なら代表選手として出場して然るべき伯爵(キルケ嬢)が出場しないって、私は上級貴族なのに闘いはダメなんです! って、周囲に宣言するのと同じことだからね。

 少なくとも、“魔力=力”重視のこの国の貴族としては致命的だ。

 そして、それは勿論、キルケ嬢以外の貴族にも言えること。

 いくらザパド領の貴族が少ないとはいえ、貴族の人数が15人以下という訳ではない。

 少なくとも、ぎりぎり参加できるくらいの人数は確保できるはずだ。

 領内の競争相手が少ないぶん、普段なら選考であぶれてしまう者でも選手になれるのだから、むしろチャンスともとれる状況だと思う。

 この状況で闘技大会に参加しないというのは、貴族でありながら全く戦闘力がありませんと、国中の貴族に宣言するに等しい。

 いくら寄親(よりおや)であるキルケ嬢の意向でも、流石にこれに従うのはどうなんだろう?

 しかも、これってソフィア嬢に対する嫌がらせ以外にメリットないよね?

 開校式の時にも思ったけど、キルケ嬢の周囲の目を全く気にしていない態度って……?

 貴族社会では致命的だと思うんだけど、本当に馬鹿なんだろうか?

 そんな疑問を残しつつ、まずはソフィア嬢への対応だね……。


「ところで、ソフィアさん、研究会に入ってしばらく経ちますけど、お屋敷の者やザパド領からは何か言ってきましたか?」


 この研究会は明らかにセーバ派閥だから、そこに通っているソフィア嬢に対して、何かしらの苦言なりが出るのはおかしなことではないんだけど……。


「いえ、それが全く……。

 むしろ、屋敷の者などは、私とアメリア様が親しくなることを勧めている様子でした」


 これ、普通に考えれば、屋敷の使用人達は内心ザパド侯爵の考えに反対で、次代となるソフィア嬢には私と良い関係を築いてもらいたいって考えているってことだよねぇ……。

 でも、以前聞いたソフィア嬢の話だと、今の屋敷の使用人はソフィア嬢とうまくやっているって訳でもないらしい……。

 むしろ、ザパド領からの監視という印象が強いっていうし……。

 なら、今の私とソフィア嬢の関係を、あのザパド侯爵が認めているってこと?

 無理! 想像できない!

 ともあれ、私とソフィア嬢の現状に対して、ザパド領が口を挟む気が無いのなら、特に問題は無いかな。


「では、ソフィアさん、今年の闘技大会には、セーバとザパド領の合同チームとして参加しませんか?」


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