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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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実はフィクションかも

「え〜と、それはどういうことですか?

 大量の死者が出ているとかではないですよねぇ?」


 “消える”という不穏当な言葉に、思わず聞き返す私。


「いえ、そうではなくて……いえ、それすらも分からないんです。

 つまり、私の周りで消息不明のものが続出しているってことで……」


 ソフィア嬢は自分の感情を一旦落ち着けると、自分が“消える”と表現した状況を説明してくれた。

 事の起こりは一年前。

 王都に鉄道を開通させた頃かららしい。

 まず、それまでは頻繁に王都を訪れていたザパド侯爵が、姿を見せなくなった。

 理由は体調不良ということだけど、そんなものは誰も信じてはいない。

 いや、別にザパド侯爵の言うことなど、誰も信用しないってことではなくてね。

 驚くべきことに、この世界にはそもそも“病気”というものが殆ど存在しないらしい。

 この世界の人間が恐ろしく丈夫にできているのか、この世界には病原菌が存在しないのか……。

 とにかく、前世で言うところの、「おれって、風邪とか病気とか、一度もしたことないんだよね」みたいな、病気知らずの健康体が標準仕様ということ。

 勿論、無理をすれば疲れたりはするし、毒物を口にすれば体調を壊す。

 でも、普通に生活しているだけなら、風邪を引いたり成人病になったりとかは、通常はまず起こらない。

 本当に齢を取ってすっかり身体が弱ってしまえば別だけど、若いうちに病気で死ぬなんてまずあり得ないそうだ。

 唯一の例外が、200年前に起きたという疫病の世界的蔓延で、それまでは“病気”という概念すら一般には普及していなかったらしい。

 そういえば、私も転生してから一度も風邪とか引いていないね……。

 別に、私がバカだからって訳ではないようで、一安心だ。

 ちなみに、この世界での老衰以外での死因のトップは、男性は魔物や盗賊で女性は出産らしい。

 ともあれ、そんな世界だから、“体調不良でお休み”なんてのは、日本語の“善処します”くらいに建前の表現で、誰も本当にそうだとは考えない。

 領地が傾いているからとも、国王陛下と顔を合わせたくないからとも、公言する訳にはいかないからね。

 この国の“体調不良”は、理由は明言したくないけどやむを得ない事情の時に使う定型句。

 同様に、“病気が伝染るので”というのも、今は接触できない、したくない場合に使われる決り文句だ。

 まぁ、そんな訳で、ザパド侯爵が本当に病気だとは誰も思っていなかったんだけど……。

 ソフィア嬢の話だと、本当に病気の可能性もある?

 王家の使いに対してならともかく、実の娘に対してまで病気が伝染るから領地に帰って来るなというのは、ちょっと腑に落ちない。

 本当に病気なのか、娘を戻せないほど領地が荒れているのか……。

 聞けば、ソフィア嬢の側近の侍女さん母娘も、領地に残っている旦那さんが病気になり、そのため暇を取って領地に戻ったらしい……。

 もしかして、ザパド領で疫病が流行ってる!?

 いや、いや、その可能性は低いはず……。

 もし、そうなら、もっと大騒ぎになっているはずだ。

 ザパド侯爵が領地に引き篭もってから、既に1年が過ぎている。

 ザパド領に隣接する王家の直轄地やユーグ領からは、そんな話は一切出ていない。

 ザパド侯爵自身は領地から出てこないらしいけど、税の報告等の必要な書類はしっかりと送られてきているらしいから、やはり単純に引き篭もりだと思う。

 気になるのは、その侍女さん達の方だけど……。


「それで、その侍女の母娘の旦那さんは、どうなったのですか?」


 その答えは、“音信不通”。

 何度か領都にいるはずの母娘に手紙を出したみたいだけど、返事は全く返ってこないらしい……。


「屋敷の者が言うには、今のザパド領はかなり不安定で、平民の手紙などまず届かないでしょう、と……。

 実際、学院にいた時に親交のあった他の平民の友人達に出した手紙も、一通も返事は返ってきませんでした……」

 

「それで、“消えた”ですか……。

 でも、それだけでソフィアさんの友人達が皆いなくなったとは言えないと思うのですけど……。

 ザパド領の街道は以前から魔物や盗賊が出ることがありましたし、更に治安が悪くなっているなら、手紙が満足に届かないということもあると思いますよ」


(私の時なんか、ほぼ毎日盗賊に襲われてたからね!)


 そんな私の言葉に、ソフィア嬢は首を振る。


「確かに、地方の町や村に住む者に手紙が届かないのは納得できます。

 でも、ポーラ……私の侍女や平民の友人達の何人かは、領都に住んでいます。

 お父様への手紙は届くのですから、同じ領都に住む友人に全く手紙が届かないのはおかしいです」


 まぁ、確かに……。


「では、平民ではなく、ザパド侯爵以外の貴族の友人達に対してはどうですか?」


「ッ…………」


 途端に言葉を詰まらせてしまうソフィア嬢。


 その後、気まずそうな様子で……。


「貴族の友人達からの手紙は、全て遠回しな表現で、もう連絡はしないで欲しいと……」


「………………」


 なんか、いたたまれないね……。


「あっ、でも! 一応返事をいただけたということは、少なくとも領地に帰った貴族の友人達は、皆無事だということですよね」


 何とか空気を変えようと私が発言すると、ソフィア嬢は俯いて考え込んでしまう。

 うわ、なんか落ち込んでる!?

 慌てる私に向かって顔を上げると、ソフィア嬢は口を開いた。


「いえ、これは私がそう思いたいだけなのかもしれませんけど……。

 友人達からもらった手紙が、本当に本人の意思で書かれたものなのか、私は疑っています。

 友人達の筆跡までは覚えていませんし、使用人に代筆させた可能性もありますので確証はありませんけど、受け取った手紙の文面が、どれも似過ぎているように感じるのです」


 う〜ん、ソフィア嬢が言うには、極端な話、送った手紙は全て途中で握りつぶされていて、もらった手紙も全て偽物の可能性があるそうだ。

 ついでに言うと、最近受け取るザパド侯爵からの手紙も、全く関係の無い第三者によって書かれている可能性があるのだとか……。

 実際にはなかった嘘のザパド侯爵との思い出を手紙に書いて、それとなく鎌をかけてみたところ、見事にスルーされたそうだ……。

“ザパド領の民が消える”、か……。

 確かに、その可能性もあり得るかも……。

 これが友人達だけなら、誰かの悪意による情報封鎖って見方もできる。

 でも、実の父親であるザパド侯爵からの手紙まで第三者が成りすましたものとなると……。

 仮に今のザパド領にソフィア嬢の知っている人間が誰もいないとしても、今の状況を作り出すことはできる。

 これは、前世の私が旅に出た動機の一つだけど、自分が一度も行ったことのない国って、本当は存在していないかもしれないって思うんだよ。

 本当はそんな国存在しないのに、それっぽい架空の映像をとって、ニュースやネットでさも真実であるように流したら、日本から一生外に出ない人にとっては、それが真実だと思う。

 日本で見かける映像ではすごい遅れてると思っていた国が、実際に行ってみると日本よりずっと最新式の高層ビルが建ち並ぶ国だったとか、よくあったからね。

 まして、この世界は前世と比べて圧倒的に情報が遅い。

 情報伝達手段も文字情報と口伝えのみ。

ソフィア嬢の言うように、実際にはザパド領に人がいなくても、架空の手紙や報告書をでっち上げれば、誤魔化すことは十分に可能だと思う。

 王家がザパド領の人口はそれほど減ってはいないと判断している根拠も、提出された税関係の書類からだ。

 ザパド領に住む貴族は、今は皆自領の立て直しで忙しいから、王都に出て来られないのは仕方がない。

 税はしっかりと納められているから、ザパド侯爵も頑張っているのだろう。

 それが、王家の認識だ。

 でも、もしもザパド領の民は姿を消していて、消えた民の分の税は誰かが肩代わりしているのだとしたら?

 う〜ん……。


「ソフィアさんの心配は分かりました。

 この件については、こちらでも少し調べてみます。

 悪いようにはしませんから、安心して下さい。

 ただ、この件は想像以上に危険な可能性もありますから、ソフィアさんは大人しくしていて下さいね」


「ですが! これ以上ザパド領のことでアメリア先生にご迷惑をかけるわけには……」


「迷惑ではありませんよ。

 実のところ、ザパド領の立て直しは私の計画にも入ってますから。

 それよりも、ソフィアさんは来月行われる単位認定試験の勉強をがんばって下さい。

 まだ詳しい話はできませんけど、次の試験の結果次第で、ソフィアさんが私の協力を得られるかどうかが決まると思っていてください」


「……はい! 死ぬ気で頑張ります!」


 私の言葉に、ソフィア嬢は力強く頷いていた。


皆様、良いお年を

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