自意識過剰?
自分がザパド領を継ぐまで、ザパド領は持たない。
思い詰めた顔で語るソフィア嬢は真剣だけど……。
(そんな大袈裟な……)
別に、今のザパド領の経済状態を楽観視しているわけじゃないよ。
恐らく、今のザパド領の財政は火の車だと思うし、倒産した商会なんかもかなりあるのだと思う。
このままいけば、ソフィア嬢の言う通り、遠からずザパド侯爵家は没落してしまうかもしれない。
でも、逆に言えばそれだけだ。
最悪でも、あの領地から“ザパド”という名が消え、別の統治者の名前に変わるだけ。
土地が消滅する訳でも、そこに住む領民が死に絶える訳でもない。
そりゃあ、今でも商人の多くはザパド領を捨てて、セーバの街や王都、隣のユーグ領なんかに拠点を移したりはしている。
でも、それはザパド領に魅力が無いのが原因で、逆にザパド領に他所以上の魅力を感じれば、同じくらいのフットワークの軽さでザパド領に戻って来るだろう。
それは、言わば周囲の状況に合わせた商会の経営戦略で、可哀想だとは思うけど、ソフィア嬢が自分の将来を犠牲にしてまで助けなければならない問題ではないと思う。
今までは地の利を活かして、他領よりも有利に商売できていたのが、状況が変わって現状維持ができなくなった。
それだけのことだ。
それに、ソフィア嬢が考えるほど、実はザパド領に住む大半の領民は切迫していないと思うんだよね。
この件に関しては、お父様を始めとする王宮の上層部も同じ意見だ。
理由は単純で、ザパド領から王家に納められる税収が、それほど極端に落ち込んではいないから。
商人が減れば、領主に納められる商業税等の税収は落ち込むだろう。
でも、そこに人が住み続ける限り、国民の魔力量を元に決められている王家への税収は変わらない。
お父様によれば、ザパド領から納められる税収は十分に予想の範囲内なのだそうだ。
勿論、かなり減ってはいるらしい。
でも、それはザパド領に偏っていた人口が、周囲に分散された程度のもの。
今すぐにザパド領が人の全く住まない陸の孤島のようになってしまうとか、そこまでの危機的状況ではないんだって。
だから、私がザパド領の民のことで必要以上に責任を感じる必要は無いと、お父様が親切に説明してくれた。
私だって、今のザパド領の状態に全く責任が無いとまでは言わないよ。
原因は間違いなく“私”だからね。
でも、個人的にはそれ程気にしてないんだよね。
だって、よくある話だし……。
前世地球ですら国家の破綻や大企業の倒産はあったのだ。
あのレベルの経済危機を考えると、ザパド侯爵家の破綻なんて大した問題に思えないんだよねぇ。
ザパド領は、別に周囲に大きな借金がある訳でもない。
この世界は通貨も共通だから、通貨が暴落して領民の資産が無価値になる訳でもない。
領主が一時的にいなくなったところで、各街や村を管理している代官はいるわけだから、ザパド侯爵家が消えたところで、急に治安が悪化するとも思えない。
そもそも、主要な都市や街道を外れた土地では、貴族なんて年に1回税を取り立てに来るだけの人間で、誰が来てもやる事は大して変わらないというところも多いのだ。
国の財政的にも、全体で見れば税を納める領地がザパドからセーバに変わっただけで、むしろセーバの街の発展のおかげで、国全体の税収は以前よりも増えているらしい。
他領に難民が押し寄せているといった話も聞かないし、ザパド侯爵が余計なことをしなくなった分、かえって平和なくらいだとお父様は笑っていた。
(私に気を遣っているんだろうけど、笑うのもどうかと思うよ)
まぁ、そんな訳で、私の感覚では仮にザパド侯爵家が領主の座を追われることになったとしても、それは大会社の社長が会社を傾けて辞任したくらいのもの。
むしろ、末端の社員(領民)にとっては、無能な社長が辞めてくれて助かる、程度のものなんじゃないかと思うんだよね。
だから、ソフィア嬢が自分が継ぐべき領地が無くなるって焦るのなら理解できる。
でも、たとえ自分がどんな目に遭っても、ザパド領を守らなければっていうのは、ちょっと自意識過剰かなって思うんだよ。
「ザパド領を一刻も早く立て直したいというソフィアさんの気持ちは分かりました。
でも、そのためなら自分はどうなっても構わないと思い詰めるのは、どうかと思いますよ。
こう言ってはなんですけど、大半の領民にとっては、領主なんてものは税を取り立てに来る人間程度の認識でしかありません。
領主が代わることで税が増えたり虐待されるならともかく、そうでないのなら誰になっても大して気にも留めませんよ。
現状を考えると、誰が領主になっても今より悪くなることはありませんから、ソフィアさんは自分がザパド領を継ぐことを最優先に考えるべきだと思います」
そんなに責任を感じる必要は無いと、軽い感じで話す私。
それに対して、ソフィア嬢の反応はというと……。
「……いえ……実際に、ザパド領の民は消えているのです!」
今にも泣き出しそうな顔で、ソフィア嬢はそう答えた。
読者の皆さま、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
実は、昨日で連載開始1周年を迎えました!
いや、よく続いたものです。
それというのも、わたし、投稿開始時にやらかしてまして…
連載スタートから毎日投稿していた始めの数十話分を、夜中の12時に予約投稿…
プロ激戦区にビギナー投稿という愚を!
いつも読んでる話って、大体12時に更新されるから、それが一般的なのかな。
予約投稿とかできちゃうなんて、なんか便利だね。
そんな感じでした…
これで、本当に誰の目にも留まらなかったら、きっと心が折れていたでしょう…
そんなスタートで盛大にスッ転んだ話も、なんとかここまでこれました。
先日は有り難くも2つめのレビューをいただき、ブクマ1000件、評価5000ptという目標ももうすぐです!
そして、来年には10000pt超えを目指す!
年内投稿はもう一回ありますが、来年もよろしくお願いいたします。
m(._.)m




