公開処刑、そして、転換点 〜サラ王女視点〜
(サラ王女視点)
王都に鉄道が開通した記念すべき日。
現地での式典を終えた私とお姉様は、そのまま国王陛下、王妃様に連れられて、王宮までやって来ました。
王宮でのパーティーに参加するためです。
世界初の鉄道開通を記念するパーティーだそうで、国王陛下主催の正式なものです。
鉄道の発明は、今後の我が国の、否、今後の世界の流通に革命をもたらすでしょう。
それを国家公認の事業と周知させる意味でも、このパーティーは絶対に必要だそうです。
今後、鉄道の利権を求めて、国内外の様々な勢力がお姉様に接触してくるでしょう。
その際、鉄道事業には国家の後ろ盾があると相手に認識させることは、色々な意味でとても大切なのだそうです。
ともあれ、このパーティーについてはお姉様は勿論私も初耳で、抵抗する間もなく私とお姉様の参加は確定していました。
お姉様、睨まないで下さい!
私も知らなかったんです!
そして、今、私とお姉様の前には、ザパド侯爵がいます。
「ザパド侯爵、お久しぶりです。
この度は、“私の”鉄道事業を記念するパーティーに参加いただき、ありがとうございます」
微笑みを浮かべて挨拶するアメリアお姉様と、それを苦々しい顔で聞くザパド侯爵。
「ふん、陛下より国の正式な行事だから出席するようにと言われたから来たのだ。
そうでなければ、誰がこのようなパーティーになど出るものか!」
そう言って、魔力による“威圧”を仕掛けてくるザパド侯爵。
その“威圧”を、お姉様の前に半歩出た私が押し返します。
元々、ザパド侯爵よりも私の方が魔力量は上なのです。
もう、あの時とは違うのですよ。
「ザパド侯爵、そのような物言いはアメリア公爵に対して無礼でしょう!
謝罪なさい!」
強い言葉で言い切る私に、ザパド侯爵が一瞬怯んだ様子を見せ、何が起きたのかと、周囲の耳目を集めます。
「くっ、王女殿下を味方につけて、いい気になりおって!
一人では何もできん庶民の分際で!」
その言い分に、私は呆れ返りました。
この人は、まだそんな認識でいたのですね……。
そこに、横から新たな声がかかります。
「先程から聞いていましたが、なにやら失礼ではないですかな?
アメリア様は国王陛下から正式に公爵位を賜った貴族ですよ。
たかが侯爵でしかない貴公よりも爵位は上なのです。
立場を弁えるべきでしょう」
「左様。
それに、先程の貴公の暴言。あれはアメリア公爵だけでなく、このパーティーを主催なされた国王陛下への暴言ともとれる。
貴公はこの国に思うところでもおありか?」
ユーグ侯爵とボストク侯爵です。
「いや、そういうわけでは……。
だが! どう取繕おうと、魔力が無いのは事実ではないか。
それで本当に民を守れるのかと、私はそれを憂いているのだ」
苦しそうに言い訳をするザパド侯爵。
レジーナ先生やフェルディさんからも話は聞いています。
はっ、民を守る?
どの口が言いますか!
「そのような事は心配無用ですな。
あれは恐らく、魔力の代わりに女神様より託された力なのだろうが、ミスリルゴーレムを倒したアメリア公爵の魔法は実に見事だった。
アメリア公爵の魔法は、将軍たる私が保証しよう」
あぁ、ドゴール将軍は実際にお姉様が戦うところを見てましたね。
戦闘力は王都軍トップのお墨付きです。
さぁ、どうしますか?
「むむむ……。
それでも、魔力が無ければ国に貢献することができんだろう!
この国は他国に魔力を売って成り立っているのだ。
十分な魔力を生み出せぬ者に、魔法王国の民たる資格は無い!」
そこまで言いますか……。
では、一体この男が、我が国にとって、どれほどの役に立っているというのでしょう。
「あら、アメリア公爵は、ザパド侯爵より余程王家の財政に貢献してくれていますよ」
ついに、王妃様が参戦です。
「ザパド侯爵も、もうとっくに分かっているでしょう?
アメリア公爵が治めるセーバの街が我が国にもたらす経済効果は、既にあなたのザパド領よりも遥かに上です。
王家がザパド領よりもセーバの街を優遇するのは当然でしょう?
それから、もう一つ。
あなたの言うように、貴族でありながらこの国に魔力を提供できないアメリア公爵には、その分を領地からの収益とは別に、個人の収益から金貨で支払うようにしてもらっています。
具体的には、アメリア公爵が発明した魔道具の特許の使用料や、アメリア公爵個人が経営する商会からの利益等です。
さて、ザパド侯爵。
あなた、魔力はどのくらいだったかしら?」
「…………。2900MPです」
えっ? 魔力、魔力って偉そうに言っておいて、自分の魔力だって個人では侯爵の基準に届いていないってことですか?
個人の正確な魔力量を意味もなく聞くのはマナー違反です。
そうは言っても、当然王家には貴族個々の魔力量の記録はあるし、王妃であるお母様の問に嘘などつけるはずがありません。
どこからか、失笑が聞こえてきます。
ザパド侯爵の顔が、屈辱に歪みます。
「では、ザパド侯爵が我が国にもたらす富は、一日に金貨3枚にも満たないということですね。
アメリア公爵は、個人的な収益だけでも毎日金貨数百枚分の富をこの国に提供してくれるわ。
あなたのざっと100倍。
これでは、我が国にとって、どちらが“庶民”か分からないわね」
「なにをッ!」
お母様の言葉にカッとなって思わず睨みつけたザパド公爵は、その場で身体を硬直させます。
王妃様は、微笑んでいます。
でも、目が怒ってる!
場の空気が凍る……。
お母様も、なんだかんだでアメリアお姉様のことは昔から気に入っていたから、結構溜め込んでいたのかも……。
王族の、王妃の立場では、個人的な評価や感情だけで贔屓などできない。
お姉様の努力や実力を知っていても、それが誰もが納得いく形で証明されない限り、特定の個人に肩入れなどできません。
でも、証明できれば……。
アメリアお姉様の実力は、ミスリルゴーレムの討伐と列車の発明で完全に証明されました。
ザパド侯爵以外の有力貴族も、皆お姉様支持を表明しています。
事ここに至って、まだ態度を変えようとしないザパド侯爵を、王家が見限ったとしても何の不思議もありません。
王妃様の本気が伝わったのか、ザパド侯爵も真っ青な顔をしています。
ふと、横を見ると、アメリアお姉様が何やら所在無げにしていますね。
当事者でありながら完全に置いてけぼり状態で、反応にお困りのご様子。
お姉様は庇うのには慣れてますけど、庇われるのには慣れていませんから……。
オロオロしていて、ちょっと可愛いです。
ともあれ、あんな奴でも一応はこの国の三侯の一人。
完全に潰してしまうのも不味いでしょう。
というわけで、国王陛下の登場です。
「まぁ、ベラよ、そう責めてやるな。
これではザパド侯爵だけでなく、アメリア公爵も気まずかろう。
ザパド侯爵は頭の硬いところがあるからな。
魔力量に絶対の価値を置く古い考え方を捨て切れんのだ。
だが、ザパド侯爵。そして、皆も聞いて欲しい。
今回、アメリア公爵が発明したあの巨大な列車は、魔石で動く。
つまり、使われる魔力は極わずかなのだ。
それは、アメリア公爵が開発した他の魔道具も同様だ。
魔石が発する魔力程度で、本来であれば大魔法にも匹敵する力を生み出している。
そして、これは人にもいえる。
皆も噂は聞いていよう。
アメリア公爵が教育したセーバの街の職人は、従来よりずっと少ない魔力で王都の職人並みの魔法を使うという。
これは、直接アメリア公爵から聞いたのだが、大魔法を使うためには、魔力量以外にも、魔法に対する理解や細かな魔力運用も重要なのだそうだ。
我が国は今まで、個々の恵まれた魔力量に頼り、そういった研究を疎かにしてきたように思う。
事実、魔力操作の技術においては倭国に及ばず、目新しい魔道具もこれまでは全て連邦で開発されてきた。
このままでは、我が国は魔法王国とは名ばかりの、魔法後進国に成り下がってしまうのではと、私は危惧しているのだ。
この度のアメリア公爵の功績は、そんな我が国の現状に一石を投じるものになると私は考えている。
皆もこの機会に、もう一度我が国の未来について、真剣に考えて欲しい」
ザパド侯爵公開処刑の空気を、国王陛下がうまく収めてくれました。
お父様は普段は少し頼りないですが、こういうのは得意ですから。
お姉様も嬉しそうですし、ザパド侯爵に前回の借りも返せました。
初めは、社交嫌いのお姉様に不意打ちでパーティーなんてと思いましたけど、お父様、お母様も、色々と私とお姉様に気を遣ってくれたということですね。
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王都に鉄道の引かれた日。
後のモーシェブニ魔法王国における歴史的転換点。
この日を境に、魔力至上主義といわれる国の価値観は、大きく変わっていったという。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
ザパド侯爵への復讐?も終わり、一応一区切りです。
次回からエピローグというか、プロローグというか、幕間劇というか、一つエピソードを挟んで、学院編をスタートする予定です、、
学院編が、、アメリアさんが色々当初の想定以上にやらかしてしまったために、連載開始時のプロットが使えない…
ともあれ、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!




