褒賞
あれから一月ほどが過ぎた。
怒濤の一ヶ月だった……。
あのゴーレム討伐の後、王都から応援にやって来たドゴール将軍に拉致されて、そのまま王都まで連行されたのだ。
いや、丁重にだよ、勿論。
全然断れる雰囲気ではなかったけど……。
ついでに言うと、鉱山組合長のブリツィオさんと、それからウーゴさんも一緒だ。
ウーゴさんなんて、ここ何年も貴族はおろか街の住民とも碌に話したことがなくて、ドワルグの街から外に出るのも今回が初めてで……。
しかも、いきなりあんなことになって……。
何か、私のせいじゃないけど、申し訳ない気分になったよ。
いや、別にウーゴさんが処罰されたとかではないよ。
その逆。
今回のゴーレム騒ぎをきっかけに、王家でも過去の記録が改めて確認され、正式にブリツィオさんの一族の今までの功績が認められたのだ。
今までのゴーレム監視に対する功績と、今後も続く重責に対して、王家は正式にブリツィオさんの一族にドワルグ辺境伯の爵位を与えた。
今後、ブリツィオさんの血を引き、ゴーレム監視の役割を担う者には、その魔力に関係なく伯爵相当の権利と、王家の保護が与えられることになる。
この国の爵位は、家ではなくて、多くの魔力を持つ個々の血に対して与えられるもの。
だから、たとえ名家と言われる家系であっても、魔力の少ない子供が続けば、簡単に爵位を取り上げられてしまう。
我がセーバ公爵家でさえも、私に続いて私の子供にも十分な魔力がなければ、恐らく私の子供には爵位は認められないんじゃないかなぁ……。
そんな国にあって、魔力に関係なく永続される爵位って……。
今回の爵位授与が、如何に特殊なケースかが分かろうというものだ。
今後ドワルグの街と、その周辺のモーシェブニ山を除く全ての鉱山地帯は、ドワルグ辺境伯家の領地となる。
ついでに、モーシェブニ山の魔石の管理も、王家からの委託というかたちで、ドワルグ辺境伯家が行うことになった。
そのための人員、兵力は王家から直接貸し与えられる。
つまり、どういうことか?
色々と変わったように見えて、実は何も変わってないんだよね。
違うのは、無能な代官による二重支配構造が解消されて、ドワルグ辺境伯家と王家とのラインが直通になったという点だけ。
ゴーレムのこともあり、王家が直接の後ろ盾となるドワルグ辺境伯家に、手を出す貴族はまずいないだろう。
同時に、人員や兵力が全て王家からの借り物のドワルグ辺境伯家に、王家の頭越しに何かをする力は無い。
要するに、今まで通りゴーレムの監視をよろしく。その代わり、王家がしっかりとバックアップするからね、と。
まあ、そんな感じだ。
とはいえ、いきなり伯爵待遇の貴族などに任命されてしまったブリツィオさんとウーゴさんは大慌て。
特に貴族に対する教育云々を全くされていなかったウーゴさんは、もうどうしていいか分からないと、多少親しくなっていた私に縋り付いてきた。
いや、なんちゃって貴族の私に縋られても困る。
私にだって、“貴族の社交”なんて分からないし……。
私も最低限の教育は受けている、けど……。
私には圧倒的に実践が足りないのだ。(実戦は足りてるけど……)
思い返せば私の社交って、会議か、言葉若しくは物理で殴る喧嘩か、そういう社交しかしてきていない気がする……。
お茶とお菓子で「おほほほほ」みたいな、そういう貴族子女っぽい社交って、全くした記憶がない。
王妃様とのお茶会は……まぁ、あれも違うよねぇ。
そんな私にできることは、ただ一つ。
逃げの一手だ!
今回のゴーレム討伐に関する報告と、その褒賞に関する必要最低限の話がついたところで、パーティーだお茶会だの誘いを全て振り切って、ウーゴさんを連れて速攻でセーバに帰ってきました。
勿論、他のメンバーも一緒に。
王都が初めてのレオ君は少し残念そうだったけど、このままだと貴族のレオ君も確実に貴族の社交に引っ張り出されるという話をしたら、慌てて帰り支度を始めていた。
サラ様には、「折角の里帰りだし、家族とゆっくりしてったら?」って勧めたんだけど、セーバの方が気楽でいいと却下された。
国王陛下は少し寂しそうだったけど、父親ってあんなものだよね?
娘を持つ父親の悲哀について、お父様が何やら諭していたけど、兄弟で何を話しているんだか……。
そんな訳で、やっとセーバの街に戻って来れて、ようやく一息つけたところなんだけど、実は本当に忙しくなるのはこれからだ。
それというのも、今回のゴーレム討伐で、思わぬ褒賞を手に入れることができたから。
なんと言っても、国を救ったわけだしね!
褒賞も破格でしょう。
『では、褒賞は、今現在セーバの街で開発中の魔力で動く荷車が通るための、専用の道をセーバの街から王都、ドワルグに引く事をお許し下さい。
あと、できましたら、王都とドワルグ、それに道の途中何ヶ所かに、荷物や人の積み下ろし用の建物を作る許可も頂ければ幸いです』
専用の道が必要になるものの、馬を使うこともなく、魔石の魔力で動かすことができるという車に、国王陛下はかなり驚いていたけどね。
そこはアメリアのすることだしと、割とすんなり受け入れてくれていた。
ボストク侯爵やユーグ侯爵から、魔石で動く船の事を聞いていたみたいで、それも大きかったみたい。
自分の領地から王都や周辺都市に道を作る許可というのは、実は割とポピュラーな褒賞だったりするんだよね。
整備された道があれば、移動に馬車も使えるようになる。
人の行き来が盛んになれば、領地の経済も発展する。
だから、それを褒賞に望む土地持ちの貴族は、意外に多いらしい。
また、褒賞を出す方にしても、元々利用されていない空いている土地に、道を作る“許可”を出すだけだから、ぶっちゃけタダだ。
道ができれば自分の領地も発展するし、人が増えれば魔物も寄り付かなくなる。
いい事尽くめだ。
これが、戦争の多い土地だったりすると話が違うんだろうけど、幸いこの国も周辺国も平和だからね。
そんな訳で、私の希望はあっさりと受け入れられた。
フッフッフッ。
これで、準備は全て整った!
鉄道と通信。
この2つがあれば、私が王都の学院にいる間も、問題なくセーバの街を管理できる!
そして、行く行くは……。
前世からの私の夢が叶うかもしれないね!




