人材確保と作戦会議
「これは、呪われた鉄などではありませんよ。
むしろ、この鉄こそが、ウーゴさんの優秀さの証明というべきものです!」
私は、この鉄がどのような物なのか、何故ウーゴさんが採掘した鉄が呪鉄になってしまうのかを、ウーゴさんとブリツィオさんに説明していく。
初めは理解が追いつかないといった様子だったものの、徐々に理解が追いついてくるに従い、その顔は驚きに変わり、そして最後には二人とも涙を流していた。
街の住民達の手前、自分の子とはいえ“忌み子”をあからさまに擁護する訳にもいかず、ブリツィオさんも父親としてずっと苦い思いをしてきたらしい。
自分たち家族を苦しめてきた呪いの原因が分かって、今まで溜め込んできた感情が一気に吹き出してしまったようで、ウーゴさんもブリツィオさんも感情の処理が追いつかない様子だ。
そうしてしばらくして、どうにか二人が落ち着いたところで、ブリツィオさんが私に問いかける。
「では、ウーゴの鉄に対する認識?イメージ?を普通の鉄に変えてやれば、呪いは解けるということでしょうか?」
真剣な様子のブリツィオさんとウーゴさん。
それはそうだ。
今まで散々苦しめられてきた問題が、解決できるかもしれないんだからね。
でもねぇ……。
「結論から言うと、お二人の言う“呪い”を解くことは可能だと思います。
でも、その前に私からの提案を聞いてもらってもいいですか?」
そして、私は説明する。
私の中で閃いた今後のセーバの街の事業計画について。
細かな実験や調整は必要だけど、理論上は可能と思われる構想について。
そして何より、この構想を実現させるためには、ウーゴさんが採掘する“呪鉄”といわれる鉄が、大量に必要になるということを。
「今回のゴーレム問題が解決した後の話ですが、セーバの街はドワルグの鉱山組合に対して、大量の呪鉄の購入依頼を出すつもりです。
そうですねぇ……。
価格は通常の鉄の倍の値段で構いません」
「なッ?!」
普通、鉱夫一人が採掘できる鉄の量というのは、その鉱夫が持つ魔力量によって自動的に決まってくる。
現状、生まれ持った魔力を増やす方法がない以上、鉱夫の仕事を続ける限り、鉱夫の収入というのは元々の魔力量によってほぼ固定されてしまうのだ。
でも、同じ鉄の引取価格が倍に上がったら?
単純に、今までの収入が2倍になるということだ。
収入が欲しい鉱夫にとっては、“呪鉄”というのはかなり魅力的な鉱物に見えることだろう。
「ただ、そうは言っても、現状で呪鉄を採掘できるのはウーゴさんだけですから、こちらで希望するだけの量をドワルグの鉱山組合だけで用意するのは不可能だと思います。
そこで相談なのですが、今回のゴーレム問題が解決したら、しばらくの間ウーゴさんをセーバの街に留学させませんか?」
多分だけど、鉄を呪鉄に変えることは、私にもできると思う。
現物を見せて、仕組みを教えて練習させれば、セーバの街の技術者なら他にもできる人はいるはずだ。
ウーゴさんにはセーバの学園で理論面を学んでもらいつつ、呪鉄の量産に協力してもらえばいいと思う。
昔からある因習というのは、実はかなり根が深い。
特に科学的思考というものに馴染みのないこの世界では、いくら理屈で呪鉄は呪いとは関係無いと言ったところで、簡単には受け入れてもらえないだろう。
だから、まずウーゴさんには一時的にセーバの街に退避してもらう。
その上で、セーバの街が呪鉄を高額で買い入れるという情報を、鉱山組合から出してもらう。
で、呪鉄の採掘に興味のある鉱夫には、セーバの街で呪鉄採掘の方法をレクチャーすると伝える。
これで、呪鉄に対する鉱夫達の認識はだいぶ変わるはずだ。
そうして呪鉄に対する偏見が無くなったところでドワルグに帰れば、ウーゴさんがブリツィオさんの跡を継いで鉱山組合のギルド長になることも可能だろう。
「よろしくお願いします!」
「息子のことを、よろしく頼みます」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
私の話を聞き終え、揃って頭を下げてくれる二人に、私は鷹揚に微笑んで返事を返す。
よし! 人材確保!
ウーゴさんは呪鉄のことがなくても、非常に優秀な研究者だ。
これで呪鉄以外の資材の研究も一気に進むだろう。
近いうちにレジーナのお祖父ちゃんも来てくれることになってるし、そうしたら農業、工業とも、セーバの街の技術力はもう一段レベルアップするのでは?
それに、今考えている呪鉄の利用法が実用化できれば、間近に差し迫ってきている私の魔法学院入学の問題にも、何とか目処がつくと思うんだよね。
そうと決まれば、さっさと目の前の問題を片付けてしまおう。
そう、ミスリルゴーレムの討伐だ。
「では、ウーゴさん。ウーゴさんの推測でも構いませんから、現状分かっているミスリルゴーレムの事を教えて下さい」
そうして私達は、ウーゴさんの研究資料や新たに判明した呪鉄の性質等を踏まえ、ミスリルゴーレムについての考察を重ねていった。
「あのゴーレムは、粘土のように柔らかい呪鉄の身体の表面に、細かなタイル状のミスリルを貼り付けているような状態だと思われます」
ウーゴさんの意見にレオ君が反論する。
「でも、さっき見てきたゴーレムの像には、皮膚に繋ぎ目とか見えなかったぞ」
「ええ、ですからあのミスリルは、恐らくゴーレムの意思で変形します」
「それは……ゴーレムが自分の身体に金魔法を使っているということですか?」
サラ様が口を挟む。
「魔物の中には人間のように呪文を唱えることなく、先天的に特定の魔法を使えるものもおります。
サラマンダーの炎がよい例でしょう。
サラマンダーが作り出す炎は魔力によって作られていますから、その炎が自身を焼くことは決してありません。
同じように件のゴーレムも、外皮のミスリルを含めて、金属である自分の身体を自身の魔力で自由に変形できても、なんの不思議もありません。
複数の金属を一つにまとめたり、逆に複数に分けたりといった事は、人間も金魔法で当たり前にやっているわけですから」
アディさんが、そう魔物の特性について説明してくれた。
そんな感じで皆が意見を出し合い、作戦を考えていく。
うん、何とかなりそうだね。
できれば、ゴーレムが眠ってくれている間に勝負をつけてしまいたい。
明日は一日準備と実験、予行演習に使って、明後日には大森林の深部へと出発することで話は決まった。




