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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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巨人伝説

「先程は、大変失礼しました。

 改めまして、ドワルグの鉱山組合(ギルド)のギルド長をしておりますブリツィオと申します。

 王女殿下には大変お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ございませんでした」


 私とサラ様の前には、深く頭を下げるブリツィオさんと、おろおろした様子のジーノ伯爵が座っている。

 サラマンダーの確認が済み、ブリツィオさんが落ち着いたところで、私達は改めて話し合いの席に着いた。

 ブリツィオさんの先程の焦り具合から見て、どうやらかなり不味い情況みたいだしね。


「何やら緊急事態のようですから、先程の非礼については不問とします。

 それよりも、何をあれほど焦っていたのか、詳しい事情を聞かせて下さい。

 あの時の口調から判断すると、あなたはサラマンダーが討伐されたことに憤っていたようでしたが……」


 サラ様の問に(しばら)く考え込む様子を見せたブリツィオさんが、ゆっくりと口を開く。


「恐れ入ります……。

 国王陛下は、巨人とサラマンダーに関して私が提出した報告を、ご存知ないのでしょうか?」


「なッ、あのような根拠のないお伽噺(とぎばなし)など、賢明な陛下が取り合う訳がなかろう!」


 ブリツィオさんの問に、慌てて言葉を挟むジーノ伯爵。

 あぁ、これは間違いなく、ジーノ伯爵が独断で情報を握りつぶしてるな……。

 どうせ、下手に問題が大きくなって本格的に王家が介入してこないようにとか、そんなところだろう。

 今回の件だって、私がドワルグへの街道を作ろうとか言い出さなければ、多分王家が介入してくることはなかったはずだ。

 サラマンダーによる被害は、既に手遅れになっている辺境の村や集落だけで、大地の裂け目によって隔てられたドワルグの街には、目に見えた被害など全くないわけだからね。

 ジーノ伯爵にすれば、突然サラ様主導でセーバの街から討伐隊がやって来るって話も、その討伐隊が王都からの連絡からほんのひと月足らずでやって来たことも、全くの想定外だったんだと思う。

 仮に討伐隊を出すにしても、緊急事態ならともかく、普通なら隊の編成や食糧、備品の確保、それに移動時間も合わせれば、到着までに季節一つ分くらいの猶予はあるはずだからね。

 まさか、王女殿下が主導のAランクの魔物(サラマンダー)の討伐が、王女殿下を含むたったの5人だけで行われるとは思わないだろう。

 で、全く対処が間に合わず、軍事費の横領や情報の隠蔽(いんぺい)なんかの不正がボロボロと発覚してしまっていると……。


「ジーノ伯爵は黙っていて下さい!

 あなたからの言い訳は後で聞きます。

 ブリツィオ、申し訳ありませんが、色々と情報に齟齬(そご)があるようです。

 改めて、この街の現状やあなたの懸念について、ここで説明をお願いします」


 サラ様とジーノ伯爵の様子を見て、情報が正しく王家に伝わっていないことを悟ったのか、ブリツィオさんはドワルグの街の現状について一から説明してくれた。


「王女殿下は、岩の巨人の伝承をご存知ですか?」


「えぇと、それは我が国の建国神話に出てくる岩の巨人のことでしょうか?

 その昔、始祖王たる勇者様が神々の助けを得て倒したという神話の時代の巨人。

 モーシェブニ山の魔石は巨人の心臓であり、モーシェブニ魔法王国の起こりは、その巨人が復活しないよう巨人の心臓たる魔石を管理することが目的だったと聞いています。

 ……まぁ、実際にはその心臓(魔石)を掘り出して、それを他国に売って儲けているわけですけど、その伝承自体は王国の歴史として、小さい頃からよく聞かされました」


「そうですか……。

 では、王女殿下は巨人を復活させないために、具体的に何をすればよいのかはご存知でしょうか?」


「えっ?」


 想定外の質問に、面食らっているサラ様。

 気持ちは分かる。

 私も、その質問は想定外だ。

 だって、建国神話って、ぶっちゃけただの権威付のおとぎ話だよね?

 具体的な対策って……。

 儀式とかお(はら)いとか?

 あっ、でも魔法が当たり前にあるこの世界なら、神話や伝承も一概に否定はできないのか?

 そもそも、前の世界の神話や伝承だって、全くの荒唐無稽ってわけでもなくて、中には比喩表現の形で語られる歴史的真実なんてのもあったわけだし……。

 ただのおとぎ話で片付けてしまうのも危険かも……。

 私がそんなことを考えている中、サラ様の要領を得ない顔を見て、何やら一人納得した顔のブリツィオさん。


「今回、サラマンダーの討伐に責任者として来られたサラ王女殿下が聞かされていないようなら、恐らく王家の側の伝承は途絶えてしまっているのでしょう……」


 そう言って語られた、代々ドワルグの街の(おさ)を務めるブリツィオさんの家に伝わる話は、ただのおとぎ話では済まされないものだった。

 それは、今も現在進行形で起きている巨人復活の兆しについて。

 ドワルグの街の北西部の鉱山地帯からは、大地の裂け目を挟んで、濃密な魔力が溢れる大森林の深部が観測できるらしい。

 その森では、非常に強力な魔物が多く観測され、特に昔から大森林の主と呼ばれる火蜥蜴(サラマンダー)は、通常の火蜥蜴(サラマンダー)の倍以上の体躯を誇り、その姿は火蜥蜴というよりはむしろ火竜といった方が適切なほどだそうだ。

 そんな決して人が踏み入ることのない魔の森で、数年から数十年に一度姿を見せるのが鉱物の巨人、所謂(いわゆる)ゴーレムだ。

 発生するゴーレムは夫々(それぞれ)で、馬車ほどの高さの時もあれば、家の屋根を軽く超える高さの時もあるらしい。

 体も全身ゴツゴツした岩の時もあれば、鉄等の金属の時もあるそうだ。

 それらのゴーレムの体が実際には何でできているのかは、大地の裂け目を挟んだ遠方からの観測であるため、はっきりとは分からないらしい。

 ただ、分かっていることが一つ。

 発生したゴーレムは、皆大地の裂け目の反対側を目指しているらしいということ。

 まず、大地の裂け目ぎりぎりまでやって来たゴーレムは、その裂け目を超えることができないことを確認すると、大地の裂け目に沿って南へと移動を開始する。

 どうやら、大地の裂け目を迂回することで、裂け目の反対側に渡ろうとしているらしい。

 ただ、実際にゴーレムが大地の裂け目を迂回して、鉱山地帯までやって来たことは、過去一度も無いそうだ。

 なぜなら、それらのゴーレムは、それ程の時間を空けることなく、大森林の主たるサラマンダーを始めとした魔物達によって破壊されてしまうから。

 ドワルグの街の長の一族は、代々この延々と続くゴーレムと大森林の魔物達の戦いを記録し続けているそうだ。

 そして、そんな長の一族には、一つの伝承が伝えられている。

 曰く、神々と勇者によって倒された岩の巨人は、今でも復活を目論んでいる。

 大森林の豊富な魔力を練り固めて作った魔石に己の思念を宿らせ、その膨大な魔力を含む魔石を核にして作り上げた人形を操り、本体たる心臓に魔力を届けさせる。

 魔力を含む人形が心臓に届いた時、(いにしえ)の巨人は復活すると……。

 ちなみに、勇者の末裔である王家が魔石を採掘して他国に売るようになったのも、元々は巨人の復活を阻むために、その核となる心臓を細かく砕いて世界中にばらまいてしまうのが目的だったそうだ。

 それが長い歴史の中で、いつしか魔石を売ること自体が目的となってしまい、王家からは本来の伝承が失われてしまったらしい。

 今ではブリツィオさんの家と王家との繋がりも完全に途切れていて、王家の認識ではブリツィオさんの家は代々ドワルグの鉱夫達をまとめる(おさ)の家系というだけなんだって。

 実はただの平民だと思っていたブリツィオさんが、自分のご先祖である勇者と共に戦った英雄の子孫だと聞かされて、サラ様もかなり驚いている。

 それが本当なら、ブリツィオさんの家は歴史的な正統性から見れば、ある意味王家と同格といってもいい存在になってしまう。

 案外その辺が、王家からの伝承の失伝や、今のブリツィオさんの家の扱いの理由なのかもしれないね。

 始まりはどうあれ、時の権力者が自分に都合よく歴史を書き換えるのはよくあることだ。



「私達の一族は、代々岩の巨人の依代(よりしろ)がモーシェブニ山に辿り着かないよう、監視し続けてきました。

 神々の采配か単なる偶然か、大きな魔力に惹きつけられる魔物は、魔力を多く含む魔石を持つゴーレムを無条件に襲います。

 勿論勝ち目がないと判断すれば逃げ出しますが、少なくとも大森林の主たるサラマンダーが倒せないようなゴーレムは、一族の歴史上一体も現れませんでした……。

 今、少しずつ森を南下してきているあのゴーレムを除いてですが……」


 そのゴーレムが確認されたのは、今から数年前。

 初めはいつも通り駆逐されると考えられていたゴーレムは、サラマンダーに倒されることなく、今でも南下を続けているそうだ。


「あのゴーレムは、サラマンダーとの戦いで一定以上の魔力を使うと休眠状態に入ります。

 そして、魔力が回復すると再び南下を開始するのです。

 周囲の魔力は大森林を南下するほど薄くなっていきますので、最近は一旦休眠状態になると数ヶ月は動きません。

 ただ、今までの移動距離を考えると、遅くとも後数回の休眠でゴーレムは裂け目を迂回して、ドワルグの街までやって来るでしょう」


「なッ!」


 愕然とするサラ様。

 そりゃぁ、そうだよねぇ。

 その話が本当なら、少なくともドワルグの街は壊滅。

 最悪、伝説の巨人が復活して世界の滅亡も有り得る。

 今はサラマンダーが抑えてくれているけど、それでももう時間の問題らしいし……。

 サラマンダーを討伐したって話をした時、どうしてブリツィオさんがあんなに大騒ぎしたのか、今ならよく分かる。

 これでうっかり大森林の主のサラマンダーを倒しちゃったりしていたら、ストッパーのなくなったゴーレムは一気に距離を詰めてくるだろう。

 間違いなく、ドワルグの街は滅亡だ。

 危なく世界を滅ぼす手助けをしてしまうところだったことに気付いたのか、サラ様の顔色も悪い。

 まったく、ジーノ伯爵もよくこんな重大な話を握りつぶしたものだ。

 どうせ、爵位も持たない平民のおとぎ話と取り合わなかったんだろうけど、もしこれで私達が来なかったらと思うとぞっとする。

 ともあれ、これは私達で何とかするしかない!

 話を聞く限りだと、多分今から王都に連絡を取って軍を派遣してもらっても間に合わない……。

 なに、サラマンダー討伐がゴーレム討伐に変わっただけだ。

 やることは大して変わらないはず。

 さて、どう攻めるか……。

 と、そこで今まで黙って私達の後ろで話を聞いていたアディさんが、ブリツィオさんに尋ねた。


「どうも情況が分からないのですが、動いている時ならともかく、どうしてサラマンダーは休眠状態に入ったゴーレムを襲わないのです?

 そうすれば、簡単に倒せるでしょうに」


 それに対するブリツィオさんの答えは、場の空気を凍りつかせるに十分なものだった。


「休眠状態のゴーレムにさえ、サラマンダーの攻撃が効かないからですよ。

 あれは、ミスリルゴーレムです」


「「「「「なッ!!!」」」」」


 Aランク魔物討伐が、Sランク魔物討伐に格上げされた瞬間だった……。

 しかも、クエスト失敗で世界の滅亡って、どんな無理ゲーよ!!



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