表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/321

討伐報告

 驚くジーノ伯爵に、サラ様が改めて橋で門兵にした説明を繰り返す。

 セーバの街からの討伐隊は私達5人だけであること。

 サラマンダーの討伐は既に終えていること。

 初めは信じられないといった様子のジーノ伯爵だったけど、討伐素材であるサラマンダーの革を見せたら納得してくれた。


「しかし、どうやって……。

 いくら上級冒険者とはいえ、これ程の大きさのサラマンダーを、そちらの女性一人で倒せるとは思えませんが……」


 そう疑問を口にするジーノ伯爵の中では、子供の私達3人と侍女のサマンサは、戦闘の頭数に入っていないらしい。

 そうすると、消去法で上級冒険者のアディさんが一人で倒したってことになるみたいだけど、勿論真相は違う。

 ジーノ伯爵の視線を受けたアディさんが、その問に答える。


「いえ、サラマンダーを倒したのは私ではありません。

 私がしたのは、完全に動きを止めて沈黙したサラマンダーの首を、最後に切り落としたことだけです。

 サラマンダーの動きを止め、その炎を封じ込め、完全に無力化してみせたのは、サラ王女殿下の魔法です。

 実質、今回のサラマンダーの討伐は、サラ王女殿下お一人で成し遂げたようなものですよ」


 そう、これは、ほぼほぼ予定通り。

 “圏”によって事前に接近を読まれていたサラマンダーは、タイミングを計って放たれたサラ様の広域凍結魔法(コキュートス)で目に見えて動きが遅くなり、そのまま動きを止めた。

 どうやら、サラマンダーの纏う炎には自分の体を温める効果はなかったようで、纏う炎も徐々に小さくなって消えてしまった。

 所謂(いわゆる)、冬眠状態だ。

 そこにレオ君が近づき、全く反応しないサラマンダーの首に自分の剣を振り下ろした。


 ガン!!


 はい、全く切れませんでした。

 いくら意識が無いとはいえ、流石はサラマンダーというべきか、並みの剣では全然歯が立たないみたい。

 焦って倶利伽羅(くりから)剣を使おうとしたレオ君は、サマンサに厳重注意を受けていた。

 そもそも火魔法を全く受け付けないサラマンダーに、火魔法を剣に(まと)わせてその熱で切断する倶利伽羅剣は無意味だし、逆にその熱でサラマンダーを起こしてしまう可能性すらある。

 で、結局選手交代して、トドメはアディさんが刺してくれた。

 アディさんの大剣はミスリル製だから、サラマンダーの固い鱗にも刃が通る。

 きれいに首を切断されて絶命したサラマンダーを見て、レオ君がアディさんの剣を羨ましがっていた。

 ミスリルは希少金属だから滅多に手に入らないけど、今後こういう頑丈な敵に遭遇する可能性もあるわけだし、機会があればレオ君用にミスリルの剣を探してみよう。

 まぁ、そんなわけで、サラマンダーの討伐は王妃様の依頼通り、サラ様主導で問題なく達成することができた。


 サラ様の魔法の詳しい説明等は避けて、それでも確かにサラ様の魔法でサラマンダーの討伐が達成されたことを説明すると、ジーノ伯爵は流石(さすが)は王族と(いた)く感心していた。


「それはそうと、ジーノ伯爵。

 先程のサラマンダー討伐に回せる兵がいないというのは、どういうことでしょう?」


 サラ様がジーノ伯爵に冷たい目を向けると、伯爵の体が凍りついた……勿論比喩的にだけど。

 慌ててしどろもどろになりながら、ジーノ伯爵が一生懸命言い訳をしているけど、実はその辺の事情は王妃様経由でサラ様も私も知っている。

 本来ドワルグの街を守る兵士を雇うために支給されている予算を、実際には兵士を雇わずにジーノ伯爵が着服しているということを。

 書類上はドワルグで兵役についていることになっている同派閥の貴族の大半が、実はドワルグには滞在していないということを。

 ただ、確たる証拠もないし実害もなかったため、今までは黙認されていただけだ。

 実際、ドワルグの街に駐留する代官の兵が出陣したことは、過去一度もないらしいから。

 北と東は険しい山脈、西には大地の裂け目、南には王都がある。

 ちょっとした魔物や盗賊の類の対処は鉱山組合がするし、まさに天然の要塞ともいうべきドワルグでは、軍隊が必要になるような事件など起きようはずがないのだ。

 それよりも(むし)ろ、心配されるのは派遣された貴族と地域住民とのトラブルの方。

 元々街の運営自治までを鉱夫達が担っているドワルグにおいて、何もせずにただ威張り散らすだけの貴族等、邪魔以外の何者でもない。

 貴族にしても、がさつで汚らしい鉱夫達の多く住む辺境の街になど、少しも居たいとは思わない。

 この妙な利害の一致により、今までドワルグの街に派遣された代官による横領にはどこからも苦情が出ず、完全に黙認されていた。

 現実問題として、街の治安維持全般を鉱山組合が担っている現状では、下手に事情を知らない貴族を多く駐留させても、トラブルの原因にしかならないからね。

 そんな事情もあって、今までは王家にも黙認されていたわけだけど……。

 でも、流石に王族であるサラ様の前で派兵できる兵士がいないと宣言されては、見て見ぬふりも難しい。

 それに、今までのように王都へと向かう安全な南の街道だけでなく、今後は魔物の出る西の大森林を抜けてセーバの街へ向かう交易も始まる。

 今回のサラマンダーの件もあるし、王家としてもこの機会に、ドワルグの街の防衛体制の見直しも考えているみたい。

 サラ様が王都に戻った際、その辺の話も王妃様からあったみたいで、サラ様に追求の手を緩める気はなさそうだ。

 ジーノ伯爵が死にそうな顔をしてるね……。


『お、お待ち下さい! 只今主人は来客中で……』

『うるさい! 緊急事態だ!』


 ドタドタドタドタ


 ジーノ伯爵との面談の最中、急に廊下の方が騒がしくなる。


「失礼する!」


 そして、勢いよくドアが開かれて、ガタイのいいおじさんが部屋に入ってきた。

 私の後ろに立つサマンサ、レオ君、アディさんが警戒する中、おじさんは真っ直ぐにジーノ伯爵の方を見ると、余裕のない様子で単刀直入に話を切り出した。


「門兵からサラマンダーが討伐されたと聞きました。

 本当ですか?」


「あ、あぁ、本当だ。こちらに」

「サラマンダーには手を出すなと言っただろうが!」


 ジーノ伯爵の言葉を最後まで聞かず、凄い剣幕で怒鳴りつけるおじさん。

 身なりはそんなに悪くないけど、貴族にも見えない。

 一体、何者?

 一瞬、乱入してきたおじさんの勢いに呑まれていたジーノ伯爵だけど、目の前のサラ様を見て我に返る。


「ブリツィオ! 無礼であろう!

 サラマンダーはこちらにおられるサラ王女殿下が討伐して下さったのだ。

 サラ王女殿下の御前である、控えよ!」


 ジーノ伯爵の“王女殿下”という言葉で、伯爵の前に座る私達に気付いたおじさんが黙り込む。

 このおじさんが誰なのかは知らないけど、確かに王族の前でのこの態度は、即無礼打ちにされても文句の言えない情況だ。

 ただ、もしそれだけの緊急事態なら、個人的には礼節よりも用件を優先してもらいたい。

 私は、黙り込んでしまったおじさんに話しかける。


「私はセーバの街の領主、アメリア公爵です。

 こちらにおられるのはサラ王女殿下。

 (くだん)のサラマンダーは確かに本日討伐しましたが、何か問題がありましたか?」


「………………。

 失礼しました。私はこの街の鉱山組合(ギルド)のギルド長をしてますブリツィオと言います。

 恐れ入りますが、お聞かせ下さい。

 討伐されたというサラマンダーは如何(いか)ほどの大きさだったでしょうか?」


 祈るような目でこちらを見つめるブリツィオさん。

 あのサラマンダーは、かなり大型だったと思うけど……。


「そうですねぇ……。

 大型の馬車くらいの大きさでしょうか。

 倒したサラマンダーの革は素材として回収してきてますので、ご覧になりますか?」


 そして、先程ジーノ伯爵に見せたサラマンダーの革を、ブリツィオさんにも見せてあげた。

 ブリツィオさんは、真剣な目で(しばら)くサラマンダーの革を確認すると、大きく息を吐いてその場にへたりこんでしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女は教育したい!2巻
 書籍2巻10月10日発売です!!

転生幼女は教育したい!1巻
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ