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言葉の壁

 なかなかに気疲れする一日だったなぁ。


 昨日の初めての外出を思い出し、私は軽く溜め息をついた。

 この世界……は、分からないけど、少なくともこの国は、ほぼ私の予想通りの文化水準のようだった。

 建物なんかはしっかりしているようだったけど、元いた世界のように科学が発展しているってわけでもなさそうだ。

 電化製品の入り込んでいない、どこかの国の世界遺産の街並みって感じか。

 街もそこそこ大きかったし、雰囲気もヤバい感じは特にしなかった。

 人々の暮らしが特別に貧しいという風でもないし、私の常識では理解できないような感じのものも見当たらなかった。

 街の作りが乱雑なのは都市計画なんて概念等ないだろうから仕方がないとして、特に街を囲む城壁等も無いようだったから、魔獣に街が襲われるとか隣国との戦争とかの心配はないのだろう。

 さすがに王宮は塀と城壁に囲まれていたけど、これは危険云々ではなく王宮なら当然だろう。


 …………。


 まさか、初めてのお出掛けが王宮だとは思わなかった。

 まぁ、この辺りの領主の城という可能性もあるけど、その辺は些細な違いだ。

 少なくとも、この辺りの統治者の居城であることは間違いないだろう。

 何か偉そうな人がたくさんいた。

 感じから言って多分貴族とかだろう。

 身なりも街の人たちとは全然違っていたし。

 問題は、彼らのこちらに向ける視線だ。

 あれはヤバかった。

 私に向けたものか、それともお母様に向けたものかは分からなかったけど、うっかり紛れ込んできた余所者を排除しようとする視線。

 外国でああいう雰囲気を感じたら、速攻でその場を立ち去らないとマジに命の危機だ。

 お母様も不愉快そうな感じだったし、うちって他の貴族と仲悪いのかな?

 まあ、王妃様は、正確には分からないけどもう王妃様で決定……で、最初は超怖そうだったけど接してみたらいい人そうだった。

 まぁ、最初に睨まれた時には元日本人の習性で思わず頭下げちゃったけど、あの威圧感に一回慣れちゃえば意外と感じのいい人だった。

 お母様とも随分と親しげな様子だったし……。

 あれが本当に王妃様だとすると、王妃様と親しげに話すお母様って、もしかして相当偉い?

 私、マジでお嬢様っぽいね。

 そういえば、なんか抹茶茶碗っぽいのもらっていたけど、あれって“抹茶茶碗”かなぁ。

 箱の感じとか王妃様のお茶碗の扱いとか、いかにも茶道っぽかったし……。

 本当にこの世界にも茶道があったらラッキーだね。

 共通の趣味っていうのはそれだけで強力なコミュニケーションツールになるからね。

 私も長期滞在していた国で現地の人に茶道を教えてるって日本人に会って、随分とよくしてもらったっけ。

 茶道教室の生徒さん達ともすぐに仲良くなれたし、私がお茶名持ってるって言ったらそれだけで尊敬された。

 茶道習っている人はそれがちょっと習ったくらいで簡単には取れないって知っているから、ただ茶名持ってるってだけで無条件にこちらを信用してくれていた。

 せっかく異世界に転生したのに、今のところ何のチート能力も現れる気配がないしね。

 せめてこれくらいのアドバンテージがないとやってられないでしょ。

 まったく、せめて言語チートくらいは欲しかったね。

 そうすれば昨日の会話だって理解できただろうし、そうすればあの貴族達の悪意のこもった視線の原因だって分かったかもしれない。

 言葉が分からないってだけで、難易度も危険度も跳ね上がるからね。

 まあ、赤ちゃんからスタートの転生だから、言葉は自然に覚えろってことなんだろうけど……。


 ……。

 …………?

 ………………!?


 ちょっと待って! 私、勝手にしゃべれるようになるの?

 よ~く考えたら私の脳って既に大人のものだよね。

 実際、今も日本語でものを考えているよね。

 これって、脳の母国語を習得する部分が既に日本語で固定されてしまっているということでは?

 確かに小さな子供は親の転勤なんかで海外で暮らすと、いつの間にか勝手に現地の言葉をしゃべれるようになっていたりする。

 でも、それは子供の話だ。

 一緒についていった奥さんはいつまで経っても現地の言葉を覚えられず、現地の日本人コミュニティの中だけで生活するというのはよく聞く話。

 そもそも、ただそこに住むだけで勝手に外国語が身に付くなら、誰もわざわざ高いお金を出して語学留学なんてしない。

 学校なんかに入らなくても、ただ現地で遊んで暮らしていればいいのだ。

 実際にはそれでは覚えられないから、みんな勉強するのだ。

 既に言語脳が固定されてしまっている大人は、ある程度文法や単語を習って、意図的に覚えようとする努力をしないと、ただ住んでいるだけではいつまで経っても外国語をしゃべれるようにはならない。

 それは私も経験上よ~く知っている。


 ヤバい! ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい……ヤバい!


 何でそのうち勝手にしゃべれるようになるなんて、安易に考えていたかなぁ。

 事実、もう1歳をとうに過ぎてるのに、全く言葉を理解できる気配がないじゃん!

 これは、本気で生命の危機だ。

 いつまで経っても全く言葉が理解できないなんて、はっきり言って動物と同じだ。

 そんな子供は、いつ捨てられてもおかしくない。

 いや、貴族なら処分かも!?

 そんな子供がいたら家の醜聞になるだろうし、下手に捨てて後で発覚するよりもスパッとやってしまった方が後々問題がない。


 …………。


 勉強しよう!

 とにかく、できるだけ早くここの言葉をマスターするしかない。

 今までは変に疑われないように、(本人は)子供らしい態度を心がけていた(つもりだ)けど、もう形振(なりふ)り構っている場合じゃない!

 下手に怪しまれないように自重して、いつの間にか処分されたんじゃ洒落にならない。


 さて、どうする?

 参考書は無い。

 スマフォも学習アプリも電子辞書も……。


 どんな無理ゲーよ!!


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