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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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キティーシャーク号の処女航海

「アメリアちゃん、こんなところに居たんだ。この海域は危険だから、海に落ちたりしないように注意してね」


 私が船のデッキから外の景色を眺めていると、タキリさんが声をかけてきた。


「エンジンの方は問題なさそうですか? 出力が足りるかと、船長さんが心配してましたけど……」


「全然問題無し! 私とアメリアちゃんの自信作なんだから、この程度の海なんて目じゃないって言ったんだけどね。

 船長には、信じられないみたいよ。こんな複雑で速い潮流の中で、真っ直ぐ進める船なんて、非常識にも程があるってね」


 今、私達はセーバ初の外洋船キティーシャーク号に乗り、ユーグ領トッピークを目指している。

 全長100メートル強の大型船で、一応帆もついてるけど、主な動力はこの世界初の魔動エンジン。

 因みに、船名のキティーシャークは、前世の英国にあった有名な帆船から拝借した。

 ウィスキーの名前にもなっていたから、セーバ初の外洋船の名にはぴったりかなぁと。

 猫サメ号ではない、念の為。

 魔動エンジン搭載の漁船は、既にセーバの街では実用化されているけど、外洋船ではこのキティーシャーク号が世界初だ。

 魔法を動力にしている点では、タキリさんが開発した外輪船も同じなんだけど、あの船は外輪に取り付けた重りの重力を軽量魔法で調整することで、左右の外輪を回すという仕組みで、実際のところ、出力面でも操作性の面でも、外輪が生み出す動力単体で外洋航海が可能なものではなかったんだって。

 あくまでも、通常の帆船の補助動力に過ぎなかったらしい。

 でも、このキティーシャーク号は違う!

 魔動エンジン搭載、スクリュー使用、船体の主要部分は魔物対策として金属で補強してるし、複数の水流操作魔法の魔石を取り付けることで、波の衝撃も軽減できるようになっている。

 私が知っている前世地球の船と、科学知識。

 魔法のあるこの世界で、イィ様が伝えた木造船の知識をベースに独自の発展を遂げた、倭国の造船技術。

 これらが合わさり、完成したのが、このキティーシャーク号だ。

 体感だけど、速度、乗り心地ともに、前世の旅の途中で何度か乗った外洋船と、遜色ないのではと思われる。

 もしかして、馬車よりも速いんじゃないかなぁ……。

 実際、この船がセーバの街を出発して、まだたったの6日だ。

 セーバ領の北を抜け、モーシェブニ山の裏側から回り込んで、ベボイナ湾の入り口となるこの海峡まで、たったの6日。

 セーバの街からモーシェブニ山の麓にあるドワルグまで辿り着くのに、問題なく普通に進んでおよそ10日と考えると、この船がどれだけ高性能かが分かろうというものだ。

 これは、セーバから馬車で王都に行くのと大して変わらない時間で、トッピークまで行けてしまうのではないだろうか……。

 そんな事を考えながら、同時に目の前に広がる雄大な景色をのんきに楽しむことにする。

 キティーシャーク号は、今現在、外海とベボイナ湾とを繋ぐ、谷底のような道を進んでいる。

 谷底といっても、実際は海峡。道といっても、実際は海路。

 海峡の幅はおよそ数キロ程で、いくら狭いといっても、真っ直ぐ進むことさえできれば、別に左右の岩壁に激突してしまうような心配はない。

 まぁ、普通の船だと、多分真っ直ぐ進めないんだけどね。

 ともあれ、この船の性能をもってすれば、航海には何の支障もない。

 ないんだけど、ちょっと恐いかなぁ……流石に……。

 確かに、左右の岩壁まではかなりの距離があるはずなんだけど、とにかく遠近感が狂う。

 左右に続く垂直に切り立った岩壁は、高層ビルもかくやといった感じで、それなりに離れているはずの岩壁からは、今にも目の前に迫ってくるような圧迫感を感じる。

 上を見上げても、岩壁の向こうには空しか見えなくて、角度的に壁の向こうが森なのか平原なのか山なのか、見当もつかない。

 位置的に考えると、船の右側にそびえ立つ壁は、恐らくモーシェブニ山だと思うんだけどね……。

 そんな谷底ともいえる海峡を抜けると、そこには広く穏やかな海?が広がっていた。

 先程までの潮流は嘘みたいに消え、凪いだ水面がどこまでもただ続くだけの内海。

 海と言うよりは、湖と言われた方がしっくりくる。

 そんな静かな海をキティーシャーク号は南へと軽快に進み、ベボイナ湾に入って3日後の昼過ぎ、遂に船はトッピークに到着した。



(ユーグ侯爵視点)


「来ました! 本当に来ました! 今、見たこともない大きな船が沖に現れたと、漁師達から連絡が!」


(まさか、本当に来るとは……)


 トッピークを治める代官からの知らせに、私は息を呑んだ。

 あの娘、アメリア公爵からの手紙が届いたのは、今から10日ほど前。

 数日中にはアメリア公爵の船がセーバを出港し、予定通りなら10日ほどでトッピークに到着する。

 だから、本年度、セーバの街が購入する予定の穀物は、トッピークの方に運んでもらいたいと。

 本当に、ここまで来られる船を用意し、我が領の農作物を直接運べるルートを確保したというのか!?

 確かに、そのような話をアメリア公爵からの挨拶の際に聞かされたが……。

 その後も、我が領に来たレボル商会の者から、近いうちに海路を使っての直接取引が可能になりそうだという打診を受けてはいたが……。

 まさか、本当に実現させるとは!?

 いや、そのような予感があったからこそ、半信半疑ではあったが、この目で確かめようとトッピークまで来たのだ。

 実際、最近耳に入ってくるセーバの街の噂は、自分の耳を疑うようなものばかりだ。

 そして、それが単なる噂ではない証拠に、我が領からセーバの街に向かうと思われる食糧の量は、年々増えている。

 そして、その代わりに、セーバで作られた品質が良く斬新なアイディアの農機具や魔道具が、我が領に流れてくるようになった。

 王都では、貴族の間でセーバから運ばれてくる魚料理が持て囃されていると聞く。

 そして、もう一つ。

 連邦からザパド領を通して入ってくる輸入品の数が、目に見えて減ってきているという。

 特に、倭国からの品については、クボースト経由では、全く手に入らなくなっているそうだ。

 連邦、倭国が新しく使い始めた我が国との交易ルート……それが、セーバ。

 数年前には全く想像もできなかったことだが、我が国の商取引の中心は、今やザパド領からセーバの街に移り変わろうとしている。

 そして、その流れは、今回の件で決定的になるだろう。

 我がユーグ侯爵領とボストク侯爵領が、セーバの街との直接取引を始めれば、他国との交易ルートから外れたザパド領に、もはや存在価値は無い。

 我が領はセーバの街に食糧を売り、代わりにセーバの街から他国の品や、質の良い道具類を買えばよいのだから。

 間違いなく、ボストク侯爵も同じ判断をするだろう。

 なんだかんだで、あの老人もベラドンナ様も、あの娘を気に入っているようだしな。

 この趨勢は変わるまい。

 ザパド侯爵は、地の利に甘え過ぎたのだ。


 さて、せっかくボニーツナを振る舞って下さるという国王陛下のお誘いを断ってまで、トッピークに来たのだ。

 我が領の繁栄のため、実りある話し合いにせねばならぬな。



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