面接
翌日の朝食の後、私達はお屋敷の私の執務室の方に移動した。
改めて、サラ様にこの街の学園と街のシステムについて説明し、本気でこの街で学ぶ気があるのかを確認するためだ。
説明にはレオ君とレジーナにも立ち会ってもらった。
これは、“説明”というかたちを取っているけど、こちらの感覚としては、セーバリア学園入学のための面接試験だから。
今現在、セーバリア学園に貴族の学生はいないし、過去にいたこともない。
あっ、レオ君は除外で。
入学希望者が全くいなかった訳ではないんだけど、学園への正式入学資格が、“この街の市民権を持つ住民であること”であるため、そこを主張して全て断ってきた。
派閥の寄親の領地に籍を置くこの国の貴族にとって、セーバの街の市民権を得るということは、そのままセーバの街の領主である私の派閥に鞍替えする、と宣言するに等しいのだ。
実際、私にしても、将来的には私やセーバの街のために働いてくれることを期待して、無料で知識や魔法を教えている訳だからね。
学ぶだけ学んで、後はさっさと他所に行ってしまう相手に、何かを教えてやる義理はないのだ。
私は、この国の将来を担う子どもの教育の為なんて善意ではなく、自分の将来の安定の為という、利己的な理由でこの学園を運営しているのだから。
そういう私の勝手な事情で考えると、今回のサラ様の学園入学には、それなりのメリットがある。
そもそも、王妃様からの依頼だから断るという選択肢はないんだけどね。
それでも、当のサラ様にやる気がなく、周りの生徒に悪影響を及ぼすようなら、適当な理由をつけて王都にお帰り願うつもりだ。
今回の面接は、そのための見極めである。
「つまり、この街にはお姉さまが運営されている学校があり、この街の住民は皆そこで魔法や学問を学んでいると。
そこでは魔力量も身分も年齢も一切関係なく、ただ与えられた課題をクリアできるかどうかのみでその生徒の評価が決まると。
そして、この街でお姉さまのお仕事を手伝うためには、まずはその学校で上級クラス以上の実力を身につける必要があると。
そういうことで、よろしいでしょうか?」
「はい。サラ様がこの街で物見遊山的に、何となく私のしている仕事を体験して、すぐに王都に戻られるということでしたら、わざわざ平民に混じって学園で勉強などしていただく必要はありません。
でも、もしサラ様が本気で私のやり方を学びたいというのなら、この街のルールに従っていただきます」
ちょっとキツい言い方になるけど、これは仕方がない。
何事も初めが肝心だ。
実際、商業ギルドができ、タキリ様を迎え、これから貿易都市としても学術研究都市としても本格始動しようという大切な時期だからね。
そんな時に、この街の発展の鍵ともなるセーバリア学園を引っ掻き回されるのは困るのだ。
私の本気が伝わったのか、サラ様は俯いて暫くの間じっと黙っていたが、何やら思い詰めた様子で私に質問をしてきた。
「あの、お姉さま。
お姉さまの学校では学問以外に魔法も教えているとのことですが、その学校の課題の中には攻撃魔法も含まれますか?
そのぉ、こんなことを言うのは口惜しいのですが、実は私は風魔法しか使えなくて、だから攻撃魔法は使えなくて……」
あぁ、それを心配していたのか。
確かに、それだと不安になるね。
「サラ様が風の単一属性であることは、コラード先生から伺ってますから大丈夫ですよ。
学園では、基本生徒の適性に合わせて個々にクリアすべき課題を設定してますし、魔力の低い平民も多いですから、それほど無茶な課題も設定しません。
頑張れば、魔力の低い平民でもちゃんとクリアできる内容です。
現に、ここにいるレジーナもそうですし、研究クラスに所属して教師役を務めてくれている他の私の側近の子たちも、大半は100MPほどしか魔力を持たない平民ですから」
(あれを無茶じゃないって考えてるの、この街の住人だけだから! 王女様、騙されてるから!)
(何をおっしゃっているのですか、レオ様。あの程度できなくて、お嬢様のお手伝いなどできるわけがないじゃないですか)
はい、2人とも、後ろで囁かない!
「あのぉ、公爵であるお姉さまの側近なのに、そんなに魔力が少なくて大丈夫なのですか?」
あぁ、そこに引っかかりますか。
まぁ、そう思うのも無理はない。
貴族の常識で公爵家の家格を考えたら、その側近は最低でも子爵家、伯爵家相当が妥当で、2000MP以上の魔力を持つ者の中から選ばれるのが当たり前だ。
公爵の側近が、みな魔力値100前後の平民だって言われても、多分サラ様には信じられないのだろう。
私だって、もし前世の日本で大臣の周りで働く秘書や事務次官がみな中卒だって言われたら、学歴が全てではないと言いながら、やっぱり不安になると思う。
私の場合、自分の魔力が絶望的に低くて、全く他所の貴族と関わることなくさっさとセーバ領に引きこもっちゃったから、貴族の一般常識からズレてしまってるんだろう。
それでも! ここセーバでは、私の感覚の方が常識だ!
「サラ様、私の側近はみな優秀ですよ。
何度も言いますが、このセーバでは実際に何ができるかが問題で、生まれついての魔力量や身分などは大して考慮されません。
そんなものは、努力次第で簡単にひっくり返ってしまいますから。
その辺は、実際に学園で学ばれるようになれば、サラ様にもご理解いただけると思いますよ」
サラ様は、私の言葉に一呼吸おくと、決意の籠もった目でこちらを見つめて……。
「わかりました。
アメリアお姉さまがそこまでおっしゃるのですから、その学園で学ぶことは、今の私には必要なのでしょう。
それに、そこでさっさと上級クラスに上がってしまえば、大手を振ってお姉さまのお手伝いができるというものです!
王族として、平民などに後れを取る訳にはまいりません!
必ずやお姉さまのご期待に応えてみせます!」
(攻撃魔法については不安がありますけど、魔力値100程度の平民が使える魔法なら、風属性以外の魔法でも私にも使えます。
それ以外の勉強なら、今すぐにでも魔法学院の授業についていけるレベルだと、コラード先生のお墨付きをいただいてますから、平民の通う学校レベルなら何の問題もないはずです。
お姉さまもまさか、まだ7歳の私が既に学院生レベルの学問を身につけているとは思っていないのでしょう。
予想通り、お姉さまは人材不足に悩まれているようですし、私がさっさと求められる基準をクリアするところを見れば、きっと私のことを頼って下さるはずです!)
とりあえず、やる気はあると。
側近のレジーナが平民で、魔力が低いことを伝えても、それで見下した感じもないし……。
一応合格ってことで大丈夫かな。
こうして、我がセーバリア学園初の、他領からの貴族(王族)の留学生が誕生したのだった。
気がつけば100話越えてました。
この更新で1000ptいけばいいなぁ、と。
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