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親友(回想)〜ベラドンナ視点〜

(ベラドンナ視点)


 私はベラドンナ。

 ボストク侯爵家の娘でディビッド王太子殿下の婚約者候補だ。

 ただ、この“婚約者候補”という肩書きはもうすぐ無くなると思う。

 私の目の前で呑気にお茶を飲んでいる平民の娘、アリッサがいるのだから。


 アリッサのことは学院入学当初から知っていた。

 彼女は目立っていたから。

 深紅の髪の美少女で入試も好成績ということもあるが、何よりも彼女が注目されていた理由。

 それは、彼女が大賢者の娘である点だ。

 “大賢者”、この平民には些か大袈裟過ぎる称号は、我がモーシェブニ魔法王国の国王陛下が直々にお与えになったものだ。

 この称号は、税の免除という貴族と同等の特権はあるものの貴族の爵位ではなく、単に税の支払いは免除するから今後も魔法の研究に勤しみ、我が国に貢献するようにという意味の、言わば名誉称号に近いものだ。

 だから、娘のアリッサは勿論のこと、大賢者の称号を得たリアン師ですら身分としてはただの平民だ。

 では、なぜただの平民が大賢者等と呼ばれるようになったのか。

 それは、リアン師の成し遂げた功績にある。

 “魔法大全”を世に著したことだ。

 若い頃から魔法研究家として世界中を廻ったリアン師は、各国各地方に存在する数多の神殿に祀られる“石板”とそこに書かれた呪文を調査し、どの地方にどのような魔法が存在し、どのように使われているのかを自身の見解とともに一冊の著書に纏め上げたのだ。

 これにより遠く見知らぬ土地に存在する自分達の生活圏にはない魔法の所在が明らかになり、それにより今までは全くやり取りのなかった土地との魔法技術の交流が始まった。

 今までは問題解決は不可能と行き詰まっていた研究は新たな魔法の発見により大きく前進し、倭国で開発された“カラクリ”を始めとする多くの新技術が生まれるきっかけとなった。

 その功績からリアン師は賢者と呼ばれるようになり、そうした世界全体からの評価を踏まえて、陛下自らが特別に“大賢者”の称号を平民であるリアン師にお与えになったのだ。

 彼自身は平民の間であればいざ知らず、貴族の基準で見れば決してずば抜けた魔力量という訳ではない。

 勿論、特別に稀少な魔法を使える訳でもない。

 だが、彼がこの世界に与えた影響は絶大だ。

 故に、国としてもたかが平民だからと彼を蔑ろにする訳にはいかないのだ。


 そもそも、なぜ、リアン師以前には他所の土地に存在する魔法は伝わっていなかったのか。

 その理由は魔法の習得方法、そして200年程昔に起こった“石板消失事件”とその後の神聖ソラン王国滅亡にある。

 この世界の魔法は遠い昔に天上の神々よりこの地に住まう人々に与えられたものだ。

 人は己の魔力を籠めながら神々から与えられた言葉、呪文を唱えることで魔法を使うことができる。

 そして、その呪文の威力や完成度は籠めた魔力の量、呪文に対する正確なイメージ、そして正確な発音によって決まる。

 ちなみに、これもリアン師の研究の成果であり、魔法大全に記されている事柄だ。

 今や“魔法大全”は魔法を真剣に学ぶ者のバイブルとなっており、このモーシェブニ魔法学院でも魔法学の教科書として正式に採用されているくらいだ。


 それはともかく、問題は“発音”である。

 神々の御言葉はあまりにも高度で、ひどく発音が難しいのだ。

 通常魔法を習得しようとする者は、まず教師からその呪文を習いそれを覚える。

 そして、ある程度呪文の発音を覚えたところで神殿に赴き、そこで正確な呪文の発音を学ぶのだ。

 その際に使われるのが“石板”である。

 神殿の石板には神代の文字で呪文が記されており、その文字を指でなぞるとなぞった者の頭の中に神々の声、正しい発音の呪文が響くのだ。

 呪文の習得を望む者は何度も覚えたい呪文の石板が祀られた神殿へと赴き、繰り返し正しい発音を聞くことで正しい発音を身に付けていく。

 これがこの世界の魔法の習得法だ。

 そして、ここで問題になるのが、呪文は一度覚えさえすればずっと使い続けられる訳ではないというところだ。

 一度は覚えた正しい発音も、使い続ければ徐々に崩れてくる。

 魔法の精度は徐々に失われ、いずれは魔法そのものが発動しなくなってしまう。

 だから、人は定期的に神殿を訪れ、石板に触れて正しい発音を聞くことで呪文の精度を維持するのだ。

 ゆえに、どのような呪文であっても、その呪文のある神殿から遠く離れた土地では習得も維持もできない。

 そのため、今まで他所の土地に見知らぬ魔法が広まることはなく、どうせ使えない魔法であるならそれをわざわざ調べようと考える者もいなかったのである。


 では、石板そのものを移動させてしまえばよいのでは?

 かつて魔法の独占を目論み、国中の石板を一ヶ所に集めようとした国があった。

 神聖ソラン王国、世界に覇を成した大国だった。

 そうして神殿から王都に集められた石板は、7日後に全て消失した。

 世に言う“石板消失事件”である。

 この事件で多くの魔法を失った王国は衰退の一途を辿り、民からの強烈な反発を受けた王家は倒れ神聖ソラン王国は滅亡した。

 現在は新たにソルン帝国が建っているが、石板消失の影響は200年経った今日でも大きく、かつての大国の偉容は鳴りを潜めてしまっている。

 この歴史的事件より後、神殿は絶対不可侵とされ、石板は保護はすれども独占はしないという認識が世界中で徹底されるようになった。

 そのお陰で、リアン師のような他国の者でも、本来は国家の秘匿財産ともなりうる稀少な呪文を自由に研究できたのだが……。


 ともあれ、そういった偉大な功績を残した大賢者の娘ということで、彼女は入学当初から学院中の生徒や教師から注目されていたのだ。

 そんな彼女のことを、魔法好きのディビッド王太子殿下が気にし出したのは当然だったのかもしれない。

 でも、殿下のお気持ちが決定的に彼女に傾いたのはあの闘技大会の時。

 王都VSボストク領で行われた団体戦の決勝。

 ボストク領チームを率いる私の前に立ちはだかったのは、ディビッド王太子殿下だった。

 そして、殿下の隣に(たたず)む紅蓮の髪の少女、アリッサ。

 ゆっくりと前にかざされる手と、紡がれる美しい神代の言葉。

 そして、巻き起こった炎は徐々に形を成し、金色に輝く火の鳥へと姿を変えたのだ。

 それは、神話の中でのみ語られる炎を司る精霊フェニックス。

 聞いたことも見たこともない美しい魔法だった。

 彼女から放たれたフェニックスに恐慌状態となるチームメイトたち。

 当然だろう。

 神話にしか存在しない炎の大精霊が、今自分に向けて襲いかかってきているのだ。

 私だって震えを止めることができなかった。

 

 当然だが、結果はボストク領(こちら)の惨敗。

 決勝とは思えぬ一方的で無惨なものだった。


 その後、あの時決勝でアリッサが使ったフェニックスの魔法が、威力としてはただのファイアボールと変わらない、いわば単なるこけおどしの呪文に過ぎないことが判明し、みなの呪文に対する興味は急速に萎んでいった。

 それでも、あの時アリッサが作り出したフェニックスは本当に美しく、あの闘技大会以降アリッサのファンが急増したのは紛れもない事実だ。

 かく言う私もあの大会がきっかけでアリッサと交流を持つようになり、今では親友と言ってもいい関係を作り上げている。

 あの闘技大会の決勝。

 それまで心のどこかで所詮平民の娘と侮っていた私は、あの日、光輝く炎の化身を従えて優美に佇む、あの燃えるような紅蓮の髪の少女に思わず引き込まれてしまったのだ。

 あの姿を彼女の横に立って、間近で見ていた殿下が、美しいと感じない筈がないのだから……。



 案の定と言うべきか、その後大賢者から魔法について学ぶと言ってアリッサの家に通い出した殿下は、学院を卒業すると同時に、王位継承の辞退とアリッサとの婚約を正式に発表した。


 元々王太子と結婚して正妃となる話になっていた私は、新たに王太子となった第二王子のカルロス殿下と婚約することとなったが、今にして思えばそれでよかったような気がする。

 

 ここだけの話、ディビッド様よりもカルロス君の方がかわいくて好みだったから。

 ディビッド様がアリッサと結婚してくれて、そのお陰で王妃となった今でも義姉妹としてこうして学生時代のように2人でお茶ができるのだから、結果オーライというものだ。

 

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