なーんちゃって!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
夏休み……俺の家……夜……風呂……。
「ふぅ〜、今日は疲れたな〜」
俺がのんびり湯船に浸かっていると……。
「ケンケン、少しいいか?」
「ん? あー、クロエか。なんだ?」
俺は黒いドレスと黒い翼と黒髪ロングと紫色の瞳が特徴的な美少女……いや美幼女『クロエ・ドロップアウト』にそう言った。
「そ、その……つ、使い魔は常に主人と行動を共にするものだと、私は言ったよな?」
「ん? あー、うん。確かにそう言ってたけど、それがどうかしたのか?」
「そ、それでだな……。そ、その……い、一緒に入ってもいいか?」
「……えっと、それはつまり、俺と一緒に風呂に入るっていう意味か?」
「あ、ああ、そうだ。べ、別に無理にとは言わないし、嫌なら構わない……けど、一緒に入れたら、いいなと思ってしまってな……」
え、えっと、これどういう状況だ?
今日、使い魔になったやつがその日の夜、俺と一緒に風呂に入ってもいいかと訊いてきた……っていう状況……だよな?
うーん、こんな急展開、聞いたことないな……。
けど、ここでクロエをがっかりさせるわけにはいかないよな……。
「クロエ」
「な、なんだ?」
「その……一緒に入っても……いいぞ」
「ほ、本当か?」
「あ、ああ、もちろんだ。けど、一つ条件がある」
「条件?」
「ああ、そうだ。それで、その条件というのはだな……」
その後、俺はクロエにその条件を説明した。そして……。
「うむ。風呂というのはなかなか気持ちのいいものだな」
「そうか、そうか。それはよかった」
「しかし、この服はいったい何なんだ?」
「あー、これはな。スクール水着っていうんだよ」
「ほう、これがあのスクール水着か。しかし、なぜこんなものを身につけなければならないのだ?」
「いや……その……ルルナたちにさんざん密着されてきたけど、お、女の子と一緒に風呂に入ったことないから……」
「つまり、お前は私に欲情してしまうかもしれないと思ったから、これを着せたのか?」
「よ、欲情って……。ま、まあ、そんな感じだ」
「なるほど。では、この際、見てみるか?」
「見るって、何をだ?」
クロエはこちらを向くと、俺の背中に手を回しながら、こう言った。
「それはもちろん、私の……いや女の裸をだ」
「い、いやいやいやいや、そんなことする必要ないだろ! というか、お前は俺の使い魔なんだから……」
「たしかに私はお前の使い魔だ。だが、そうである前に、私は1人の女だ。だから、ちゃんと見てくれ。じゃないと、私は自分が女として見られているのかどうか不安になる……」
「……クロエ……お前」
「さぁ、よく見てくれ。私の全てを」
クロエがスクール水着を脱ごうとしたその時、俺は今まで感じたことのない殺気を感じた。
「ねえ……お兄ちゃん。どうして、クロエちゃんと一緒にお風呂に入ってるの?」
いつのまにか俺たちの方を見ていた銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』は俺に冷たい視線を向けながら、そう言った。
「い、いや、これは違うんだよ。ルルナ。話を聞いてくれ」
「何が違うの? 私と一緒にお風呂に入ったことあったっけ? ないよね? なのに、なんでお兄ちゃんはクロエちゃんと一緒にお風呂に入ってるの? おかしいよね? あー、もしかして、そっちの趣味があるのかな? なら、今度から私もそうするよ。だから、一緒に入ってくれるよね? ね?」
「え、えっと、その……なんというか……」
「……なーんちゃって!」
「は?」
「もうー、お兄ちゃんったら、ビビりすぎだよー」
「え? え? 何がどうなってるんだ? お前、怒ってないのか?」
「別に怒ってなんかないよー。私はただ、お兄ちゃんとクロエちゃんが仲良くお風呂に入っているのかどうか確かめたかったから、見にきただけだよー」
「そ、そうなのか?」
「うん、そうだよー。でも…………くれぐれも一線を越えないようにしてね?」
「は、はい」
ルルナが去った後、俺たちはしばらくの間、湯船から出ることができなくなるほど震えていた……。




