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お二人とも!

 魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。

 この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。

 俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。

 俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。

 俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。

 俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。

 え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。

 だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。

 さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。


 夏休み……ユミナの屋敷……ユミナの寝室……。


「……う……うーん……よく寝た……な」


 黒いドレスと黒い翼と黒髪ロングと紫色の瞳が特徴的な美少女……いや美幼女『クロエ・ドロップアウト』はベッドから体を起こした。


「おはよう、ケンケン。お前がずっと手を握ってくれていたおかげで私はぐっすり眠ることができたよ。ありがと……って、なんだ……お前も眠ってしまったのか」


 クロエは、ベッドの脇で眠っているケンジの頬をつついた。しかし、彼は起きなかった。


「まあ、ここまで私を運んでくれたそうだから、しばらく寝かせてやろう」


「うんうん、そうした方がいいよ」


「ですよね……って、なんだ? この黒猫は」


 彼女の目の前に現れた赤い瞳の黒猫は、ニコニコ笑いながら、こう言った。


「なんだとは失礼だなー。私はこう見えても魔王の幹部の一人だった『ユミナ・ブラッドドレイン』なんだよー?」


「は、ははは、ま、まさか、そんなことがあるわけ……」


「それがあるんだよねー。ねえ? カナミちゃん」


 その直後、クロエの右側に白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美少女……いや美幼女『カナミ・ビーストクロー』が現れた。


「おい、ユミナ。私を急に呼ぶなよ」


「えー、別にいいじゃん」


「ったく、お前のそういうところは昔から変わらないな」


「そういうカナミちゃんだって、相変わらず素直じゃないよねー」


「お前……あとで覚えとけよ」


「わー、こわーい」


「あ、あの……もしかして、あなたは……」


「ん? それって、私のことか?」


「は、はい、そうです」


「そうか、そうか。私の名前を知りたいのか。よし、では特別に教えてやろう。私の名前は『カナミ・ビーストクロー』。魔王の幹部の一人だった者だ」


「や、やはりそうでしたか。ということは、この黒猫は本当にあのユミナさんなんですね?」


「だから、最初からそう言ってるじゃないかー」


「いや、明らかにその姿で登場したお前が悪いだろ」


「まあ、そうかもしれないねー」


「ったく、お前ってやつは……」


 その直後、クロエは二人にこうたずねた。


「あ、あの、お二人はここで何をしているのですか?」


「うーんとねー、私はこの屋敷の一階にある【メイドカフェ レインボー】の店長だよー」


「そんでもって、私はその店の従業員だ」


「そ、そうですか。しかし、魔王の幹部だったはずのお二人がなぜ人間と共に行動しているのですか?」


「それは、君と同じだよ」


「ああ、ユミナの言う通りだ。私たちはケンちゃ……その人間の体内にある魔力をそいつ自身が完全に引き出せるようになったら、魔王を倒させるつもりだ」


「なるほど。よくわかりました。しかし、お二人はケンケ……この人間に対して、好意を抱いていますよね? それはなぜですか?」


「えー、なんでわかったのー?」


「たしかにそうだな。なんでだ?」


「それはお二人が、この人間の寝顔ばかりを見ているからです」


「あー、本当だー。自分でも気がつかなかったよー」


「わ、私は無意識のうちにそんなことをしていたのか……」


 魔王の幹部だったお二人をこのように変えてしまうとは……。

 この男……あなどれないな……。


「ところでさ、君は彼とどういう関係なのー?」


「そ、それって私のことですか?」


「ああ、そうだ。というか、お前以外に誰がいるんだよ」


「そうですね。失礼しました。コホン……私は『紫煙の樹海』に住んでいる『クロエ・ドロップアウト』と申します。彼とは使い魔と主人……いえ、兄と妹のような関係です」


「へえ、そうなんだ」


「なるほど。そういう関係か」


「あの、私の顔に何かついてますか?」


「ううん、何もついてないよ。けど、君はずっとケンジくんの手を握ってるよね」


「はい、そうですけど。それがどうかしましたか?」


「カナミちゃん、説明よろしくー」


「ったく、しょうがねえな……。あー、まあ、要するに、お前もそいつのことが好きってことだ」


「えっと、私は別にこの人間の手を握るとなんだか安心できるとか、一緒に話していると胸が高鳴ったりなんかしていませんよ?」


「本当にそうかな? ケンジのことが嫌いなら、そんな嬉しそうな顔をしながら、ケンジくんの手を握ってなんかないと思うけど」


「私は今まで誰かを好きになったことがないので、よくわかりませんが、これが世間でいうところの『恋』というものなのでしょうか……」


「さあて、それはどうだろうな」


「だねー」


「お、お二人とも! 私をからかわないでくださいよ!」


 実はこの時、ケンジは目を覚ましていた……。







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