クロエ!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
夏休み……紫煙の樹海……。
「おい、起きろ」
「う……あ……こ……ここは……」
「俺が闇で作ったドームの中だ」
「そ……そうか」
俺は紫色の草花の上で横になっている黒いドレスと黒い翼と黒髪ロングと紫色の瞳が特徴的な美少女……いや美幼女『クロエ・ドロップアウト』にこう言った。(俺はあぐらをかいて座っている)
「なあ、クロエ。俺の使い魔になってみる気はないか?」
「私が……お前の使い魔に……なるかならないかは、私自身が決める……」
「そうか。なら、俺の話を少し聞いてくれ」
彼はそう言うと、ゆっくりと語り始めた。
「俺はこの世界にいる魔王を倒しに来たんだけどよ、残念ながら、今の俺じゃ、魔王の足元にも及ばないんだよ。だからさ、俺が魔王を倒すまででいいから、俺と一緒にいてくれないか?」
彼がそう言うと、クロエはこう言った。
「魔王を倒す……か。まあ、お前の体内にある魔力を完全に扱えるようになれば、その夢に近づくかもしれないな……」
「お前の言う通り、俺はまだまだ自分の魔力を完全に扱えるわけじゃない。けど、俺は一人で魔王を倒そうだなんてこれっぽっちも思ってないんだよ。だから、せめて、俺が成長していくその様を一番近いところで見ててくれないか?」
「そうか……お前はそこまでして、魔王を倒したいのだな……。わかった。特別にお前の使い魔になってやろう」
「そうか、ありがとな、クロエ」
「お礼を言うのはまだ早い。なにせ、私の妹を説得しなければならないからな」
「お前、妹がいるのか?」
「いるも何も、先ほど私を召喚したあの妖精こそが私の妹『アリー・ドロップアウト』だ」
「え? そうなのか?」
「ああ、そうだ。姉である私より背が高いことを除けば、完璧な妹だ」
「えっと、じゃあ、お前は妖精なのか?」
「ああ、そうだ。私は黒き翼を持つ妖精だ」
「そ、そうか……。というか、契約とかしないのか?」
「契約か……。そうだな……。では、私の肉を食べろ」
「……え?」
「何をしている。早く食べろ」
「い、いやいやいやいや、いきなりそんなこと言われても……」
「はぁ……では、私が先にお前の肉を食べるから、腕を出せ」
「え、えーっと、それは絶対にしないといけないのか?」
「使い魔として私と契約するのなら、その行為は必要不可欠だ」
「そ、そうか……なら、うちの店の従業員として……」
「却下だ」
「俺、最後まで言ってないぞ?」
「お前は私を使い魔にしたいのではなかったのか? まあもし、使い魔としてではなく、家族や仲間という形で私と契約したいなら、それをなくしてやっても構わない」
「えっと……それはいったいどういう……」
「……私は質問ばかりするやつは嫌いだ。すまないが、帰らせてもらうぞ」
「ま、待ってくれ! 俺、まだ何も言ってないぞ?」
「そうか……なら、早く言え」
「え、えっと……俺は……お前を……」
彼はそのあと、こう言った。
「俺は……お前を……俺の……妹に……したい」
「ほう、お前は私を自分の妹にしたいのか」
「だ、だってよ、お前は使い魔っていうより、可愛い女の子っていうイメージがあるから、お前のことを使い魔として接するのは、正直、無理だ」
「そうか。では、始めようか」
「始めるって、何をだ?」
「そんなの決まっているだろう……」
クロエはムクリと起き上がりながら、右手の親指の先端を噛んで血を出した。
「仮契約だ……」
クロエはそう言うと、彼の首筋に噛み付いた。
「くっ……! い、いきなり何を……って、うぐっ……!!」
彼が苦しそうにしていると、クロエは自分の右手の親指を彼の口の中に突っ込んだ……。
「……よし、これでお前と私は今から兄妹だ」
「お、お前……意外に強引なんだな」
「どうやら、まだ血を吸われたいようだな」
「ごめんなさい。なんでもありません」
「そうか……では、少し……休ませてもらう……ぞ」
クロエはそう言うと、意識を失った。
「お、おい! クロエ! 大丈夫か!? って、寝ただけか。はぁ……よかった」
俺の胸に体を委ねている彼女の寝顔は、とても嬉しそうだった……。




