卑怯よ!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
夏休み……紫煙の樹海……。
使い魔を捕まえるために『紫煙の樹海』にやってきた俺は、そこの管理者である黄緑髪ロングと水色の瞳が特徴的な身長160センチほどの美少女……いや美妖精にそれを手伝ってもらっていたが、そいつがランダムに召喚するモンスターの中から、選ぶこととなった。
まあ、そのモンスターと戦って勝てたらの話らしいが……。
ということで、俺は今、スライサードラゴンと戦っている。
「グオオオオオオオオオオオオオッ!!」
体のほとんどが紫色で二足歩行ができて、背中に翼が生えているそのドラゴンは鋭い爪で俺を殺そうとした。しかし……。
「ほらよ……」
俺の手の平から放たれた火球が鼻に命中したため、そいつは苦しそうな声で叫んだ。
「おい、お前はこんなもんじゃないだろう?」
俺がそう言うと、そいつは口から火を吐いた。
「なるほど、そうきたか。それじゃあ、これを試してみよう」
俺は水魔法で巨大なヘビを作るとそれに向かって、そのヘビを解き放った。
すると、そのヘビはドラゴンが吐いた火を食べてしまった。
ドラゴンはそのヘビを殺そうと鋭い爪で引っ掻いた。しかし、水でできているヘビを倒せるはずもなく……。
「グオオオオオオオオオオオオオッ!!」
最終的には、口から侵入され、窒息死した。
俺は横たわっているドラゴンに近づくと、そっと頭を撫でた。
「ごめんな、でも後で売れるものは売って、食べられるところは全部食べるから、許してくれ」
『ス、スライサードラゴンを倒すとは、なかなかやりますね』
「なあ、こんなことしてたら、時間がなくなっちまうからさ、ここで一番、強いやつを召喚してくれないか?」
『……正気ですか? 死にますよ?』
「俺はいずれ魔王を倒さなきゃいけないからさ、こんなところでザコと戦っている暇はないんだよ」
『そうですか……。では、望み通り召喚して差し上げましょう!』
俺の近くにいるがどこにいるのかまではわからない例の妖精は、最強のモンスターを召喚した。
『さあ、来なさい! そして、彼に絶望を味あわせてやりなさい!』
例の妖精がそう言うと、黒いドレスと黒い翼と黒髪ロングと紫色の瞳が特徴的な美少女……いや美幼女がこの地に舞い降りた。
「はじめまして、私は『クロエ・ドロップアウト』。この樹海で最強のモンスターよ」
「へえ、お前みたいなやつがここの最強なのか」
「今、私のこと、少し馬鹿にしなかった?」
「いや、別に馬鹿になんてしてないさ。ただ、お前みたいな可愛い女の子がここで一番強いやつなんだなって、思っただけだ」
「そ、そう……それじゃあ、はじめましょうか」
「ああ、そうだな」
両者は数秒後、その場から姿を消した。
おそらく、気配を殺した状態で戦っていると思われる。
しかし、今の樹海には風の音や獣の声しか聞こえない。
そのため、両者の戦いがどうなっているのかは、気配を殺せる者しか見ることができないのである。
「ふんっ!」
クロエは、闇の力を込めた拳で彼の顔面を殴ろうとした。しかし。
「遅い!」
彼の光拳が彼女を吹っ飛ばす方が早かった。(光拳とは光の力を込めた拳のことである)
「くっ……!」
「おいおい、お前の力はそんなものなのか?」
彼女はゆっくり起き上がると、こう言った。
「闇よ、我の武器となれ」
その直後、彼女の右手に闇が集まった。
そして、黒い剣になった。
「へえ、そんなことができるのか。じゃあ、俺もやってみようかな」
彼は右手に光を集めると、金色の剣にした。
「剣を使って戦うのは多分、初めてだから、お手柔らかに頼むぞ」
「それは……やってみないとわからないわよ!」
彼女はそう言うと、いきなり襲いかかってきた。
しかし、彼は彼女の剣を華麗に躱すと、その剣を自分の力の1つである闇に食べてもらった。
「た、他人の魔力を食らうなんて、卑怯よ!」
「卑怯? なら、背中に翼を生やしているお前は卑怯じゃないのか?」
「こ、これは生まれつきだから、関係ないわ!」
「そうか、そうか。なら、そんな都合のいいことだけを言うお前には、少しお仕置きをしないといけないな……」
彼はそう言うと、目にも留まらぬ速さで彼女に近づき、無言で腹を殴った。
彼は気を失った彼女を抱き抱えると、闇で半球を作り、周りから見えないようにした……。