バイバーイ!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
海で遊ぼう! (マリア編)
「ねえ、お兄ちゃん! 私と遊んでくれる?」
「ん? ああ、まあ、いいけど、何して遊ぶんだ?」
「うーんとねー」
俺にそんなことを言ってきたのは、金髪ロングと赤色の瞳が特徴的な美少女……いや美幼女『マリア・ルクス』だった。
*
「お兄ちゃん、絶対、手を離しちゃダメだよ?」
「ああ」
「絶対だよ?」
「ああ」
「絶対だからね!」
「ああ……って、お前、もう泳げてるぞ?」
「え? あー、本当だー。不思議だなー」
浅瀬で泳ぎの練習に付き合っていた俺は、マリアが数分で泳げるようになったことに少し疑問を抱いていた。
「なあ、マリア。お前、本当は泳げ……」
「あー、聞こえない! 聞こえなーい!」
こいつ……いったい何がしたかったんだ?
マリアの左隣を歩きながら、俺はそんなことを考えていた。
すると、いつのまにか平泳ぎをしていたマリアが急に泳ぐのをやめて、俺に抱きついて、こう言った。
「お兄ちゃんのおかげで泳げるようになったから、もっと深いところまで行ってみようよー!」
「あ、ああ、そうだな。それじゃあ、行くか」
「うん!」
マリアが何を考えているのかわからないが、一応、用心しておくかな……。
*
海の中……。
魚たちが俺たちを出迎えてくれるかのようにユラユラ泳いでいる。
まだ生きている昆布はこちらに手を振っているかのようにクネクネ動いている。
海にいる昆布からダシが取れないのは、まだ昆布が生きているからである。
つまり、俺たちがダシを取っている昆布はもう死んでいる。
昆布は生でも乾燥させてもいいダシが取れる。
乾燥させるのは、保存できるようにするためであるから、別に乾燥させていない昆布がおいしくないわけではない……。
おっと、話が脱線してしまったな……。すまない。
さてさて、マリアはどこにいるのかな?
俺がマリアを探し始めた時、太陽の光が海の中に差し込まなくなった。
おっと、ちょっと曇ったな。うーん、一応、雨が降らないかどうか確認しておくか……。
俺が浮上しようとした時、黄色のワンピース型水着を着たマリアが、まだ眠っているネコザメをこちらに運んできた……。
なんで、そっとしておかないんだよ……。
まあ、とりあえず浮上するか。
俺は浮上するぞというサインをマリアに送ると、浮上した。
「プハッ……! さあて、マリアはどこかな?」
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! ちっちゃなサメみたいなの見つけたよ!」
俺の目の前で浮上したマリアは、目をキラキラと輝かせながら、そのサメを俺に差し出してきた。
「あー、それはな、『ネコザメ』っていうんだよ。夜行性だから、昼間はたいてい眠ってるぞ」
「へえー、そうなんだー。というか、なんかザラザラしてるねー」
「あー、それは『サメ肌』だよ。顕微鏡で見たら、わかるけど、サメの肌って規則正しく並んだ歯が積み重なったような構造だから、水の抵抗を最小限に抑えられるし、付着物も削ぎ落とせるんだぞ」
「へえー、サメって怖いイメージしかなかったけど、すごい肌を持ってるんだね」
「まあ、そうだな。けど、サメは回遊魚だから、寝る時以外はずっと動いてないと、呼吸ができなくなって死んじゃうんだぞ?」
「えー、そうなの? かわいそう……」
「まあ、そのかわり、動きながら寝れるから便利だけどな……」
「なるほど、なるほど。お兄ちゃんは物知りなんだねー」
「いや、まあ、昔、そんなことを言ってたやつの受け売りだけどな……」
「ううん、それでもお兄ちゃんは私の自慢のお兄ちゃんだよ」
「そ、そうか……。ほ、ほら、そろそろ陸に上がるぞ。クラゲに刺されないように気をつけろよ。クラゲの中には、人間を数秒で殺してしまうほどの毒を持ってるやつもいるからな」
「はーい! 気をつけまーす! あー、そうだ。ネコザメさん、また会えるといいね! バイバーイ!」
「…………」
ネコザメはマリアが手を離すと、スゥーっと海の底に落ちていった……。




