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うみだー!

 魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。

 この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。

 俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。

 俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。

 俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。

 俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。

 え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。

 だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。

 さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。


『うみだー!』


 ルルナたちは、上に羽織っていた白いパーカーを脱いで、水着になると海に向かって走り始めた。


「おーい、ちゃんと準備体操しろよー」


『りょーかーい!』


 ルルナたちは、そう言うとそれぞれ準備体操をし始めた。

 足とかつらないようにちゃんと準備体操しないと、マジで溺れ死ぬから、俺もやろう……。

 準備体操が終わるとルルナたちは、波打ち際ではしゃぎ始めた。


「……俺、この世界の魔王を倒さないといけないのに、こんなことしてていいのかな?」


「私は別にいいと思うぞ?」


 白いワンピース型の水着を着た、魔王の幹部の一人『カナミ・ビーストクロー』は俺の右側に来るとそう言った。


「そう……なのかな……」


「さぁな。私にはよくわからないが、今を楽しんだらいいんじゃないか?」


「今を……楽しむ……か」


「ケンちゃんはさ、色々考えすぎなんだよ。もっと気楽に生きろよ」


「気楽に生きる……か」


「まあ、とりあえず私とでっかい砂のお城を作りに行くぞ」


「あ、ああ、わかった」


 俺は白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美少女……いや美幼女『カナミ・ビーストクロー』の要求を断れなかったため、砂のお城を作ることとなった。

 ここ『バードデューン』は俺たちの世界でいうところの『鳥取砂丘』である。

 そのため、辺り一面、砂で覆い尽くされている。

 俺の世界では、スノーボードで海まで滑るやつもいたが、この世界ではそのようなことはないようだ。

 しかし、まるで丸太のように体をピンと伸ばした状態でゴロゴロと転がり落ちているやつはいた。


「あ、あいつ……なんであんなことを……」


 それは、銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』だった。


「おーい、ルルナー。大丈夫かー?」


 波打ち際で仰向けになったまま、全く動かなくなったルルナに俺はそう言った。


「…………」


「おーい、ルルナー。聞こえてるかー?」


 俺がそう言うと、ルルナはムクリと起き上がり、犬が体を震わせて、体についた水を周りに撒き散らすような動きをした。


「うわっ! 冷たっ!」


「ごめんね、お兄ちゃん。砂が口の中に入っちゃったから、吐き出してたんだー」


「そ、そうか。なら、もう大丈夫なんだな?」


「うーん、でもまだ口の中がジャリジャリするー」


「え? そうなのか? なら、俺が出してやるよ。ほら、口開けろ」


「え? いいの?」


「ああ、いいぞ。ほら、あーん」


「あーん」


 俺はルルナの口の中に指を入れて、砂粒を探し始めた。


「なあ、ルルナ。どのへんにあるかわからないから、お前の舌で誘導してくれないか?」


「うん、ははっはー(うん、わかったー)」


 ルルナの舌の先端は俺から見て、左側を指した。


「よし、左側だな。えーっと……おっ、これかな? よいしょ……と」


 俺はルルナの口から砂粒を取り出すと、それを少しだけ見てから、ポイと捨てた。


「よかったな、ルルナ。これでもう大丈夫だぞ」


「ありがとう、お兄ちゃん。お礼にご褒美をあげるよー」


「ご、ご褒美?」


「うん、そうだよー。だから、とりあえず目を閉じてー」


「あ、ああ、わかった」


 俺がゆっくり目を閉じると、ルルナの両手が俺の顔を固定するようにさわってきた。

 あれ? これってもしかして……。

 俺はつい気になって、目を開けてしまった。

 俺の目の前には、目を閉じた状態で俺に顔を近づけつつあるルルナの顔があった。


「お、おい、ルルナ。お前はいったい俺に何をしようとしているんだ?」


 ルルナはパッと目を開くと、俺の額に頭突きをした。


「な、何すんだよ! 痛いじゃないか!」


 俺が額を押さえながら、そう言うとルルナは急に怒鳴った。


「お兄ちゃんのバカ! 私、目を開けていいなんて一言も言ってないよ!」


「え? あー、まあ、そうだな」


「でしょ? だったら、早く目を閉じてよ!」


「いや、でも……」


「でもじゃない! いいから目を閉じて!」


「じゃあ、せめて、どこにするのか言ってくれないか?」


「どこにって、な、何の話?」


「とぼけるな。お前は俺に……キスしようとしてたんだろ?」


「そ、そうだよ……」


「そうか……ってことは口にしようとしたんだな?」


「う、うん」


「そうか。なら、今回は無理だな」


「ど、どうして? お兄ちゃんは私のこと嫌いなの?」


「いや、別に嫌いじゃない。けど、俺はお前とそういうことはしたくない」


「どうして……どうして、お兄ちゃんは私を見てくれないの? やっぱり膨らみかけの胸は嫌いなの?」


「そういうのは関係ない。というか、お前の水色のビキニはよく似合ってると思うぞ」


「じゃあ、なんでお兄ちゃんは私を見てくれないの?」


「それはお前が一番よくわかってるはずだ」


「そんなのわかんないよ! ちゃんと言ってよ!」


「……そうか。なら、遠慮なく言わせてもらうぞ。いいか? 俺たちは義理とはいえ、『兄妹』だ。一線を越えたら、後戻りできなくなるんだぞ?」


「私はそれでいいよ! お兄ちゃんと一緒なら、あとはどうだって……」


「お前はまず、自分の体を……将来を大切にしろ。俺なんかと生涯を共にしようだなんて思うな」


 彼はそう言うと、ルルナから離れていった。


「ま、待ってよ! お兄ちゃん! お兄ちゃああああああああああああああん!!」


 その時、ルルナは……意識を取り戻した。


「……あ、あれ? 私、なんで横になってるの?」


「おっ、やっと起きたか。おい、ルルナ、大丈夫か?」


「え、えーっと、お兄ちゃん……だよね?」


「お前、海水の飲み過ぎで頭がおかしくなったのか?」


「えっと、何かあったの?」


「まあ、あれだ。波打ち際で倒れてたお前を、俺がここまで運んだってわけだ」


 こことは、パラソルの下である……。


「そう……なんだ」


「ああ、だから、これからはちゃんと水分補給しないとダメだぞ?」


「うん、わかった。ありがとね、お兄ちゃん」


「あ、ああ、まあ、それはいいんだけどな。その……意識を失ってたから、心臓マッサージと……じ、人工呼吸をしちまって」


「え? じゃあ、私は意識を失っている間にお兄ちゃんとキス……したってこと?」


「あー、ま、まあ、くちびる同士を少し触れさせたぐらいだから、完全にそうとは限らない……かな?」


 そっか……。なら、あれは全部、夢だったんだね。

 それから、しばらくの間、ルルナは彼に膝枕をしてもらったそうだ……。






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