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お母さんったらー!

 魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。

 この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。

 俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。

 俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。

 俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。

 俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。

 え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。

 だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。

 さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。


 今日、ルルナの母親がここに来るらしい。

 ルルナの母親といえば、この世界にあるルルナが前に通っていた学園の学園長で銀髪ツインテールと黒い瞳が特徴的な美少女……いや美幼女だ。(詳しくは『ちょっと待て!』 を読めばわかる)

 あの人に会うのは、俺も久しぶりになるがルルナからそのことを聞かされたのは開店前だったため、いろんな準備をする時間がなかった……。


「えーっと、俺はいつも通りやれば……いいんだよな?」


 俺が店のキッチンで今日の分の料理を作りながら、ブツブツと何度も呪文のように言っていると。


「お兄ちゃん、緊張しすぎだよー。もっとリラックスしなきゃ体がもたないよー」


 銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』が俺にそう言った。

 誰のせいでこんなことになってると思って……。あっ、ルルナには俺の心の声が聞こえて……。


「お兄ちゃん、私ももっと早く言うべきだと思ったけど、普段からいつ見られてもいいようにしていない、お兄ちゃんも悪いんだよー?」


「あ、ああ、そうだな。俺も悪かった。すまない」


「うーん、それじゃあ、ちょっと足りないなー」


「えっと、それはつまり……」


 俺がそう言うと、ルルナは両手を広げて、ニッコリ笑った。

 なるほど……ルルナは俺とハグがしたいのか。

 俺はルルナの行動から次に俺がしなければならない行動を察すると、ルルナをギュッと抱きしめた。


「あ〜、幸せ〜♪」


 ルルナは他の5人に見せつけるようにそう言った。

 まったく……勘弁してくれよ……。

 結局、俺は開店時間ギリギリまでルルナと抱きしめ合っていた。

 離れたくても、ルルナの締め付けが強すぎて動けなかったのだから、仕方ない……。

 いや、別に変な意味じゃないからな?


 *


「こんにちはー」


 とうとうこの時がきてしまった……。さぁ、命を燃やせ。


「お帰りなさいませ! お嬢様! どうぞこちらへ!」


「あらあら、可愛らしいメイドさんね」


「もうー、お母さん。私だよー。娘の顔を忘れちゃったのー?」


「あらあら、可愛すぎて気づかなかったわ。ごめんなさいね」


「もうー、お母さんったらー!」


 なんだこれ? あの人は親バカなのか?

 俺が横目でその光景を見ながら、そんなことを考えていた直後、ルルナの母親の視線が俺に向けられた。

 その黒い瞳からはなんとなく威圧を感じたため、俺は手を動かすことにした。


「さてさて、それじゃあ、この店のオススメでも食べようかしら。すみませーん!」


「はーい、ご注文は何になさいますか?」


「そうね、ここにいる可愛いらしいメイドさんたち……なんてね」


「もうー、お母さんったら。はしゃぎすぎだよー」


「あらあら、私としたことが少しはしゃぎすぎてしまったわ、ごめんなさいね。コホン、そうね。それじゃあ、【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】を1つお願い」


「かしこまりました! 少々、お待ちください!」


 ルルナはメイド服を着ているのにも関わらず、スキップをしながら、俺のところにやってきた。

 まったく……もっとおしとやかにできないのかな?


「お兄ちゃん、【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】1つー」


「はいよー」


 俺がルルナにルルナの母親が注文したものを手渡すと、ルルナは迅速かつ慎重にそれをルルナの母親のところまで運んだ。


「お待たせしました! こちらが【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】になります! どうぞごゆっくりー」


「これは……すごい量ね。一人で食べきれるかしら? まあ、とりあえず一口いただきましょう」


 ルルナの母親は白いホイップクリームをスプーンですくうと、口の中にゆっくりと放り込んだ。

 しかし、次の瞬間、そこにあったはずのフルーツやクリームが突然、消え失せた。

 俺は、一瞬、なにが起こったのか見当もつかなかったが、ルルナの母親の口元についたホイップクリームを見た瞬間、消えたパフェの謎が解けた。

 そう……ルルナの母親は普通の人では見えないような速度でパフェを平らげていたのである。

 俺がそれに気づいた直後。


「ねえ、これを作ったシェフを呼んでもらえる?」


 ルルナの母親は自分の近くにいたルルナにそう告げた。

 ルルナは俺のところにくると、それを俺に告げ、さっさと持ち場に戻った。

 俺はルルナの母親のところへ急いで向かった。


「あ、あのー、口に合いませんでしたか?」


 白いワンピースを着たルルナの母親は目を閉じた状態でこう言った。


「いいえ、とってもおいしかったわ……だけど」


 ルルナの母親は目を見開くと、俺の襟首をつかみ、耳元でこう囁いた。


「私の行動の一部始終をまじまじと見るのは、やめてもらえないかしら?」


「は、はい。次からは気をつけます」


「よろしい。じゃあ、この店を【テレサ・リキッド】がオススメできる素晴らしい店だと宣伝しておくから、明日からも頑張ってね?」


「は、はい。頑張り……ます」


 ルルナの母親【テレサ・リキッド】は俺に言いたいことを言い終わると、店から出ていった。

 その瞬間、緊張から解放された俺の両手はしばらく力が入らなかった……。



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