ユミナ!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
「今日はちょっと魔王城に行かなくちゃいけないから、留守番を頼めるかな?」
開店前。ユミナ(黒猫形態)は俺を寝室に呼んだ。
俺は何かしでかしてしまったのではないかと思ったが、そうではなかった。
「……え、えーっと、ユミナ。お前、今なんて言った?」
「んー? 魔王城に行かなくちゃいけないから、留守番を頼めるかな? って、言ったんだけど、それがどうかしたの?」
「いや、お前はもう魔王の幹部はやめたんだろ? なんでそんなところに行く必要があるんだ?」
「一ヶ月に一度、そういう会議があるから、行かないと怪しまれるんだよー」
「そ、そうなのか? なら、今日はカナミもいなくなるってことか?」
「まあ、そうだねー。私たちは、魔王にも他の幹部たちからも、裏切り者かもしれないって、思われてるからー」
「そ、そうか。なら、仕方ないか。まあ、その、なんだ……き、気をつけてな」
「うん、気をつけて行ってくるよー」
ユミナとカナミはその日……魔王城に行ってしまった。……さてと、二人の分まで頑張ろうかな。
魔王城……会議室。
「魔王様。ユミナ・ブラッドドレインとカナミ・ビーストクローには、お気をつけください」
「えー? なんでー?」
「あの二人は、すでに魔王様を裏切っているという噂があるからです」
「君はそんな噂を信じているのかい?」
「と、言いますと?」
「あの二人がもし、僕を裏切っているのなら、わざわざ会議に来るわけないでしょ?」
「それは……そうかもしれませんが」
「ここはもう大丈夫だから、君は持ち場に戻っていいよ」
「しかし、魔王様……!」
「いいから、戻れ。何度も言わせるな」
「承知しました。では、私はこれで失礼します」
魔王の幹部の一人であるサキュバス族の『テラス・チャーム』はそう言うと、自分の持ち場に戻った。
「さてと、それじゃあ、始めようか。『定期報告会』を」
円卓会議。それは、円いテーブルの周りに座って行われる会議のことである。
今回、参加したのは、ユミナ・ブラッドドレインとカナミ・ビーストクロー。そして、魔王である。
なお、魔王は黒いカーテンに囲まれた状態で座っているため、皆に彼の姿は見えない。
他の幹部たちを魔王が呼ばなかったのは、二人が黒か白かを自分の目で確認したかったからである。
「じゃあ、ユミナちゃんから聞かせてもらえるかな?」
「はーい」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うと、魔王に最近起こった出来事を話した。
「なるほど、なるほど。特に異常はなしと。じゃあ、次はカナミちゃんね」
「は、はい」
カナミはそう言うと、最近起こった出来事を話した。
「ふーん、君のところも異常なしかー。平和でいいねー……とでも言うと思った?」
『…………!!』
「ねえ、二人とも。何か僕に隠してることあるでしょ? あるよね? 何で話してくれないの? 僕に話せない内容なの?」
「うーん、まあ、魔王様に恋について報告しても、仕方ないからねー」
「ユミナちゃん、それはどういうことかな?」
「えーっとねー、私とカナミちゃんは、同じ相手に恋をしているんだよ。ねえ? カナミちゃん」
何でそこで私に振るんだよ! ユミナ!
「そ、そうなんですよー。あははははは」
「そ、そうなのか。てっきり、僕を裏切っているのかと思ったよ。そっかー、そういうことかー。青春だねー。それじゃあ、今回はこの辺で終わりにしようか。二人とも、お疲れ様ー」
「はい、魔王様ー」
「で、では、私たちはこれで失礼します」
「うん、またねー」
二人は会議が終わると、ユミナの屋敷に急いで転移した……。
一人で会議室に残っていた魔王は、二人の体から人間の香りがしたことに疑問を抱いていた。
「この僕を差し置いて、人間と仲良くするなんて、いい度胸じゃないか。これは、次の会議の時に、裁判を起こさないといけないみたいだねー」
彼は、少し苛立っていたが、それと同時に、笑みを浮かべていた。
おそらく、自分に背く者が現れて、嬉しかったのであろう……。
「次の会議が楽しみだなー。というか、早くお兄ちゃんに会いたいなー」
彼の兄が誰なのかは、まだわからないが、彼が何かを隠しているのは、間違いないようだ……。