嫌いだ！
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え？ 高校が午前中で終わるわけがないだって？ それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
「それじゃあ、カナミ。しっかりやるんだぞ」
「う……うん」
「じゃあ、仕事が終わったら迎えに来るから、ちゃんとユミナの言うことを聞くんだぞ？」
「こ、子ども扱いするな！ ほら、早く行け！」
「はははは、そうだな。そうだよな、お前の言う通りだ。じゃあ、あとは頼んだぞ。ユミナ」
「うん、わかった。今日も頑張ってね」
「おう、任せとけ。じゃあな、カナミ」
「あっ、うん。いってらっしゃい……」
ユミナ（黒猫形態）の寝室から彼が出ていくと、ユミナはカナミにこんなことを言った。
「カナミちゃんってさ、あの子のこと好きなの？」
魔王の幹部の一人である『カナミ・ビーストクロー』は少し顔を赤くしながらこう言った。
「べ、別に……そういうのじゃない……と思う」
「そっか、そっか。でも、もし、少しでもあの子のことが好きなら、ちゃんと伝えた方がいいよ。あの子、鈍感だから」
「へ、へえ、そう……なんだ」
白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美少女……いや美幼女『カナミ・ビーストクロー』はそれっきり黙り込んでしまった。
「……さてと、それじゃあ、接客の仕方を教えるから、私をお客さんだと思ってやってみて」
ユミナ（黒猫形態）はカナミの足元に移動するとそう言った。
「え？ あー、うん、わかった」
カナミは自分が正しいと思っているやり方でユミナに接することにした。
「お、お帰りなさいませ、お、お嬢様」
「うん、ただいま。カナミちゃんは今日も可愛いねー」
「そ、そんなことないです……。え、えーっと、こ、こちらへどうぞ」
へえ、ちゃんとできてるじゃないか。でも、問題はここからだね。
「さてと、それじゃあ、何を頼もうかなー。うーん、じゃあ、この店のオススメにしようかな。すみませーん」
「は、はい、ご注文は何になさいますか？」
「えーっと、この【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】を頼めるかな？」
「か、かしこまりました。少々、お待ちください」
「……お、お待たせしました。こちらが【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】になります」
「うわー！ すごい量だねー。一人で食べ切れないかもしれないけど、大丈夫かな？」
「ご安心ください。スタッフが後でおいしくいただきますので」
「なるほどね。それじゃあ、いただきまーす♪」
「お、お嬢様、顔にクリームが付いています。わ、私が取って差し上げます」
「ん？ あー、ありがとう。カナミちゃんは気が利くねー」
「い、いえ、私はなんてまだまだです。これくらいのことができないとやっていけません」
「ふーん、カナミちゃんも結構苦労してるんだねー。……ごちそうさま。とっても、おいしかったよ。また時間ができたら来るから、その時はよろしくね？」
「は、はい。またのご来店をお待ちしております」
____ユミナの感想。カナミちゃん……すごい！！
「カナミちゃん、今ので全然問題ないんだけど、今度は私のことをご主人様だと思ってやってみてよ」
「は？ 誰が好き好んであんなケダモノ共に頭を下げたがるんだよ」
「あれ？ カナミちゃんって、もしかして……男嫌いだったりする？」
「ああ、そうだよ。私は男が嫌いだ！」
「なるほど。昨日のカナミちゃんが担当したのが男の人だったから、あんなことになっちゃったんだね。じゃあさ、少しでも克服できるように、あの子に頼んでみる？」
その時、カナミは赤面した。
「な、なんであの人間に頼む必要があるんだよ！ 他にいくらでもいるだろ！」
「この店にいるのは、あと【ハヤト】くんくらいだけど、あの子はいつも【イーグル】ちゃんと一緒だから、ちょっと頼みにくいんだよー」
「そ、そこをなんとかしてくれよ！ お前は店長なんだろ！」
「まあ、そうだけど。そういうのに店長特権を使いたくないんだよねー」
「あー！ もうー！ わかったよ！ やればいいんだろ！ やれば！」
「ありがとう、カナミちゃん。助かるよー」
「ふん！ 言っておくが、別にお前のためじゃないからな！ そこは勘違いするなよ！」
「うん、わかった。じゃあ、少し休憩しよっかー」
「あ、ああ、そうだな。少し休もう」」
果たして、カナミは男性相手に接客できるようになるのだろうか……？
