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撫でるなー!

 魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。

 この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。

 俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。

 俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。

 俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。

 俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。

 え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。

 だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。

 さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。


 魔王の幹部の一人である『カナミ・ビーストクロー』はなぜかうちの店で働くこととなった。

 ユミナ(黒猫形態)にいても何も教えてくれなかったが、まあなんとかやっていこうと思う。


「今日はもうお店閉めるから、明日からよろしくな」


 俺がそう言うと、うちの店のメイド服をまとった白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美少女……いや美幼女『カナミ・ビーストクロー』は頬を赤く染めながら、俺にこう言った。


「う……うん。よ、よろしく」


「おう、よろしくな。というか、もふもふしてもいいか?」


「も……もふもふ?」


「えーっとだな、その……頭を撫でさせてくれないかな……と」


「ふ……ふざけるな! 人間なんかに触らせるわけ……」


 その時、店のテーブルを拭き終えた銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』がやってきて、カナミの頭を撫で始めた。


「うわー、ふわふわだー」


「こ……こら! 許可なく私に触るな!」


「あー、照れてるところも可愛いなー」


 ルルナは自分から離れようとするカナミを抱きしめると、徐々にきつく締めつけていった。


「お、おい、ルルナ。その辺にしないと、カナミが気絶……いや、天に召されるぞ」


「えー? あー、そうだねー。ごめんね、カナミちゃん」


 ルルナが抱きしめるのをやめると、カナミは俺の背後に回り、ルルナを威嚇した。


「あはははー、カナミちゃんは可愛いねー」


「その可愛い可愛いカナミを殴ったのは、どこの誰だったかな?」


「そ……それはお兄ちゃんを助けるためだったから、しょうがないでしょー!」


「まあ、そうだよな。でも、一応、謝っておいた方がいいんじゃないのか?」


「う……うん、そうだね」


 ルルナは俺の背後に回り、まだルルナを威嚇しているカナミに近づくと、こう言った。


「カナミちゃん、ごめんね。でも、もうお兄ちゃんを食べようとしないでね?」


「わ、わかったから、あっちに行け! もう私は人間の肉を食べようだなんて考えないから!」


「うん、わかった。それじゃあ、また明日ねー」


「……あ……うん。また明日」


 カナミがそう言うとルルナは先に俺の家に帰った。


「さてと、そろそろ俺も帰ろうかな……というか、そろそろ離れてくれないか?」


「え? あっ、うん」


 カナミは俺から離れると、俺の目の前に瞬時に移動して、こう言った。


「そ……その……ごめんなさい。あの時の私はとてもお腹が空いてて……」


「んー? ああ、俺を食おうとしたことか。それなら、もういいよ」


「そ……そんなあっさり許していいのか? 私は本気でお前を食べようとしたんだぞ?」


「でも、もうそんなことしたりしないんだろ?」


「ま……まあ、そうだが……。私を信用してもろくなことにならないぞ?」


「それなら、ユミナだって同じことだろう?」


「う……そ、そうだな。お前の言う通りだ」


「……じゃあ、この話はこれで終わりだな。それじゃあ、明日からよろしく頼むぞ。カナミ」


 俺はカナミに手を差し出した。カナミは一瞬、躊躇ためらったが、俺の手をそっと握った。


「あ……ああ、こちらこそよろしく」


「うんうん、仲良くしようなー」


 その直後、彼はカナミの頭を必要以上に撫で始めた。


「こ、こら! 勝手に頭を撫でるなー!」


「あー、カナミは可愛いなー。よーし、よしよし♪」


「や、やめろ! だ、誰か……誰か助けてえええええ!!」


 カナミの叫びは屋敷中に響いたが、昼寝中のユミナ(黒猫形態)にはまったく聞こえていなかったし、例の座敷わらしの兄妹も仲良く昼寝をしていたため、聞こえていなかった。

 結果。しばらくの間、カナミは彼に頭を撫でられることとなった……。


 *


 魔王城……魔王の間。

 なお、魔王の姿は黒いカーテンの向こう側にある玉座に座っているため、見えない。


「なんか最近、ユミナちゃんとカナミちゃんを見ないけど、何かあったのかなー?」


「魔王様。そんなことよりも今すべきことを……」


()()()()()()()()? ねえ、今、そんなことよりもって、言った? 魔王である、この僕に対して、そんな口を聞くやつがいたんだね」


「申し訳ありません。今のは決してそのような意味では……」


「もういいよ、早く持ち場に戻って」


「ですが、魔王様……」


「早く戻れ。さもないと君の首が飛ぶことになるよ?」


「……承知しました。それでは、失礼します」


 魔王の前でひざまずいていた黒縁メガネと黒髪ポニーテールと豊かな胸が特徴的な魔王の幹部の一人……サキュバス族の『テラス・チャーム』は魔王の間から出ていった。


「……ちょっと言いすぎたかな? でもまあ、お兄ちゃんがここに来るまでは、僕が本当の魔王じゃないってことがバレないようにしないといけないから、仕方ないよね……」


 それを誰かがこっそり物陰に隠れて聞いていたのを魔王は気づいていなかった……。



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