逆襲!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
まあ……6月だから、雨は降るよな……。
放課後になって、いきなり雨が降り出した。
天気予報では、夜から雨だったのに……。
まあ、あくまでも予報だから仕方ない。
雲の量がどれくらいかを判断しているのは人間だし、それを3時間ごとにしかやっていないから、外れても仕方ないよな……。
でもさ、いきなり降り出すなんて思わないじゃん。
というか、俺が下校しようとした瞬間に降り出すってどうよ? 理不尽にもほどがある……。
俺がそんなことを考えていると、俺の肩をツンツンと、つついてきた者がいた。
「あれ〜? もしかして、お兄ちゃん、傘忘れたの〜?」
それは銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』であった。
「まあ、あれだ。俺が下校しようとした瞬間に降り始めたんだよ。理不尽だろ?」
「うーん、まあ、そういうこともあるよ〜」
「お前は呑気だな。というか、他のみんなはもう帰ったのか?」
「うん、マキナちゃんたちは雨が降るかもしれないからって、先にダッシュで帰ったよ〜」
「そうか……。俺もそうすればよかったな……」
「そんなことないよー。だって、私と相合傘できるんだよ〜」
ルルナはそう言いながら、水色の傘をパッと開いた。
「相合傘? あー、俺はいいよ。走って帰るから」
「ダメだよ、お兄ちゃん。風邪ひくよ〜」
「俺はバカじゃないから、風邪はひかな……」
その時、ルルナは俺の目の前に瞬時に移動して、こう言った。
「そういう問題じゃないよ。お兄ちゃんに風邪をひいてもらっちゃ困るから言ってるんだよ?」
ルルナの真剣な眼差しから伝わってくる気迫に負けた俺は、ルルナの言うことを聞くことにした。
「あー、はいはい。わかったよ。お前の言う通りにするから、そんな目で俺を見るなよ」
俺がそう言うとルルナは俺に頭を突き出してきた。
「じゃあ、頭撫でて〜。そしたら、許してあげる〜」
「あー、はいはい、よしよし」
「わーい、お兄ちゃんに頭撫でられてるー。もっと愛を込めて〜」
「愛って……お前な……」
「いいから、早く〜」
「はいはい、わかったよ」
ルルナの機嫌は良くなったが、おねだりが多すぎたため、しばらくはルルナの頭を撫で続けていた。
「それじゃあ、帰ろっか〜」
「あ、ああ、そうだな」
腕が痺れるほど、ルルナの頭を撫で続けたのは、おそらく今回が初めてだ。
あー、これからまた異世界に行かなくちゃいけないのに、こんなので大丈夫かな……。
俺はそんなことを考えながら、ルルナの傘に入った。
「それじゃあ、帰ろ〜……って、なんで急に雨が止むの〜?」
「ほんとだな。今のは異常すぎる」
「もうー! 神さまの意地悪〜!」
ルルナの叫びは雨の神様には届かなかった。
しかし、恋愛の神さまのところには届いた。
「わーい、また降ってきたよ〜」
「マ……マジかよ」
これも、恋愛の神さまが二人をカップルだと勘違いしてくれたおかげである。
「それじゃあ、お兄ちゃん。行こっか〜」
「ああ、そうだな。今日は不思議な体験ができたな」
「私たちだけの秘密だからね〜?」
「ああ」
「えー? ホントにー?」
「ああ、本当だとも」
「わーい、やった〜! お兄ちゃん大好き〜!」
そんなやりとりをマキナたちは、じーっと木陰から見ていたため、今日のことは全員に知られてしまったのである。
*
「合言葉は?」
「松ぼっくりの逆襲!」
「……よし、入れ」
ここは、魔王城である。
「なあ、この合言葉。必要なくないか?」
「魔王様に代々仕えてきた10人の幹部の一人……デュラハン族の『ボード』様でも今の発言は聞き捨てなりませんね」
「まあまあ、かたいこと言うなよー。同じ幹部だろ?」
「私はあなたのような大雑把な人は嫌いです」
「同じ幹部で男同士だし、仲良くしようぜ。狼男族の『ザンガ』さんよ」
「馴れ馴れしくしないでください。私は先代とは違います」
「お前……父親のこと、まだ嫌いなのか?」
「あんな人を父親だと認めたことなど一度もありませんよ……」
「そうか……。まあ、困ったことがあったら、相談してくれよ?」
「……まあ、その時はよろしくお願いします」
「おうよ!」
二人は魔王様のところまで続く、ながーい廊下をそんなことを話しながら進んでいったそうだ……。




