おう!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
厄介な貴族『ライジング・ガンマ』に見つからないようにヤドカリ型移動要塞『ヤミナ』(ユミナの屋敷)で『北の洞窟』付近まで逃げてきた俺たち。
とりあえず、『北の洞窟』の探索も終わったことだし、今日はもう帰ろうかな。
そう思っていた矢先。屋敷の外から何かが降ってきたかのような音が聞こえた。
俺たちが外に出てみると、藍色の鎧を全身に纏った『デュラハン』が大剣を肩にかけた状態でこちらに歩いてきた。
ユミナ(黒猫形態)は魔王の幹部の一人ではあるが、俺たちと敵対しているわけではない。
しかし、こちらに向かってきているそいつが魔王の幹部であるのかも、敵であるのかも分からなかった。
だが、ひとつだけ言えることがあった。それは……。
「あいつ……顔……持ってないな」
自分の顔を持たずにこちらに歩いてきているということだけだった。
そいつは俺の目の前で止まると、左手で顔を探してくれ、みたいなジェスチャーをした。
俺はルルナたちと少し相談した後、そいつの顔探しに協力することにした。
「なあ、お前の顔って、どの辺に落としたんだ?」
俺がそいつに話しかけても返事は返ってこない。しかし、ジェスチャーでこの辺に落とした、みたいなことをしていたため、まあ、気長に探すか……と、そいつの顔探しを再開した。
「しっかし、デュラハンが顔を落とすなんて、眼鏡かけてるやつが眼鏡落とす以上にやばくないか?」
俺がそう言いながら、そいつと一緒に顔を探しているとそいつは、親指を立てて問題ないということを俺に伝えた。
デュラハンに顔はいらないのかな? いや、でも顔と体が別々の意思を持っているわけだから、やっぱり不便なんじゃないのかな?
現に今も俺と会話できないわけだし……。俺がそう思っていると、コウノトリみたいな鳥型モンスターが何かを足で掴んでどこかに飛んでいくのが見えた。
俺はそれをよく見ていなかったが、そいつは急にその鳥型モンスターを追いかけ始めた。
俺はもしやと思い、その鳥型モンスターが足に掴んで運んでいるものを追いかけながら見た。
その鳥型モンスターが運んでいたのは藍色の兜を被った顔らしきものだった。
俺はそれに気づくと、水魔法でそいつを撃ち落とした。
俺たちが鳥型モンスターが落下した場所に行くとそこには、寝息を立てながら眠っている顔があった。
その顔を体が持つと、顔を叩き起こした。
「な、なんだよ……せっかく気持ちよく寝てたのに……って、俺、もしかして、またお前が休んでる間に、何かに攫られてたのか?」
「…………」
体はしゃべれないが、しゃべらずとも体が怒っていることを理解した顔は、それから必死になって体に謝っていた。
*
「ありがとよ、人間。俺を探してくれたんだってな」
「え? ああ、まあ、そうだけど。それがどうかしたのか?」
「人間たちはさ、俺たち『デュラハン』を怖がるから……その、助けてくれるとは思ってなくてだな」
「えーっと、つまり、あんたは俺にお礼が言いたいってことか?」
「ま、まあ、そういうことだ。ありがとよ、兄ちゃん」
「こちらこそ、少しの間だったけど、楽しかったよ。ありがとう」
「人間に礼を言われたのは何年ぶりだろうな……。あー、やばい。なんか泣けてきた……」
「お、おい、泣くなよ。涙腺緩すぎるぞ」
「すまねえな、兄ちゃん。なんか年々、涙もろくなっちまってよ」
「そ、そうなのか? ま、まあ、次からは攫われないようにしろよ?」
「ああ、ありがとな。兄ちゃん……。ところで、兄ちゃんはこんなところで何をしに来たんだ?」
「え? あー、いや、少し『北の洞窟』を探索しに来たんだよ」
「あんなエメラルドしかないとこにか? うーん、まあ、いいか。じゃあな、兄ちゃん。また会おうぜ」
「おう! またな!!」
彼はそう言うと、地面を思い切り蹴って、どこかに飛んでいってしまった。
あいつが魔王の幹部の一人だったら、俺はいずれ、あいつと戦わないといけなくなるんだよな……。
けど、俺はそれでも魔王を倒すために頑張らないといけないから、その時がきたら躊躇わないようにしよう……。
彼はそんなことを考えながら、ルルナたちと合流し、屋敷に戻っていった……。