はーなーせー!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
俺たちはヤドカリ型移動要塞『ヤミナ』に乗って『北の洞窟』にやってきた。
今日はまだ異世界に居られるから、洞窟の探索にでも行くとしよう。
俺がそう思って、ユミナ(黒猫形態)の寝室から出ようとすると、ルルナが俺の手首を掴んだ。
「なんだ? ルルナ。俺はこれから洞窟の探索に行こうと思っていたんだが……」
俺がルルナの方を向きながら、そう言った直後、ルルナは目をうるうるさせながら、こう言った。
「お兄ちゃん……私を……置いてかないで……」
義理の妹とはいえ、そのつぶらな瞳を裏切ることなど兄として……いや、一人の男としてできるわけがなかった……。
「え、えーっと、お前も一緒に行きたいのか?」
銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』はコクリと頷いた。
「そうか、そうか。なら、俺と一緒に行くか?」
俺がそう言うと、ルルナは目を輝かせながら。
「うん! 行く! 行く!」
ちょっと勘違いされそうなことをセリフを言った。あー、うん。そういう意味で言ったんじゃないってことはわかってる……。
だけど、そういう意味で解釈すると……ねえ……。
俺が一人でそんなことを考えていると、他の4人も目を輝かせながら、俺の体にしがみついてきた。
「な、何なんだよ、お前ら! はーなーせー!」
しかし、彼女らは俺の動きを完全に封じ込めていたため、俺はまったく身動きがとれなかった。
「あー! 分かったよ! 分かったから、一旦離れてくれ!」
俺がそう言うと彼女らは俺から離れた。ルルナはまだ俺の手首を掴んでいたが……。
「よしよし、それじゃあ、ここに残る組と探索組を決めるぞ。はい、じゃーんけーん」
『ぽん!』
ルルナたちのじゃんけんは、奇跡的に一発で決まった。
その結果が……これだ。ワン、ツー、スリー。
「よっしゃー! あたしの一人勝ちだぜえええええ!!」
ピンク髪ロングと赤い瞳が特徴的な美少女『アヤノ・サイクロン』の一人勝ちであった。(アヤノ以外はパーを出していた……)
ということで、俺とアヤノは『北の洞窟』に向かうこととなった。
*
洞窟の壁には、なぜかエメラルドがたくさん生えていた。これ……持って帰れないのかな?
俺がそんなことを考えながら、歩いていると天井に気配を感じた。
俺が上を向くと、そこには巨大なカメレオンがいた。俺はとりあえず笑顔でそいつを見ていたがそいつはそれを無視して、ピンク色の舌を高速で発射してきた。
ピストル並みの速さで飛んできたそれは、なぜかアヤノの方に向かったため、俺はアヤノのきれいなピンク色の髪に当たる前に、タイミングよくギュッと掴んだ。
俺は天井に張り付いている巨大なカメレオンが舌を口の中に戻そうとしているのを笑顔で見ながら、その辺にあった石をそいつの口の中へ投げ入れた。
すると、そいつは苦痛と人間に負けた屈辱にまみれた声をあげながら、洞窟の奥へと逃げていった。
「ん? 今なんかいたのか? バカ兄貴」
どうやらアヤノには、今の出来事が認識できていなかったらしい。
俺にしか見えていなかったのか、それとも、この世界に住んでいるやつらには、認識できないのか……理由は分からなかったが、アヤノが無事でよかった。
俺はアヤノの頭を撫でながら、こう言った。
「いや、別に何もいなかったぞ。お前の髪についてたゴミを取ろうとしただけだ」
「なあんだ、それならそうと言ってくれよ。あと、気安くあたしの頭を撫でるな」
「え? あー、すまない。つい」
俺がパッとアヤノの頭から手を離すと、アヤノは少し残念そうな表情を浮かべた。
「ま、まあ、今度からはちゃんと言えよ。バカ兄貴」
「あ、ああ、そうするよ」
俺はアヤノが先に進み出したため、その後に続いた。この洞窟の最深部に何があるのかは分からないが、とりあえずアヤノにケガをさせないように俺が頑張らないといけないな。
兄貴を傷つけるやつは神だろうと魔王だろうと全力で潰す。だからよ、背中は任せてくれていいんだぜ?
どうやらこの二人はいいコンビになりそうです。