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くうー!

 魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。

 この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。

 俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。

 俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。

 俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。

 俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。

 え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。

 だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。

 さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。


 屋敷が移動できるように改造するため、魔族の職人を20人集めなければならなくなったが、ギルドに行き、クエストとして申請したことにより、それは実現可能となった。

 ちなみに、一人あたり20万カオス支払うことになっている。

 さて、俺たちの依頼書が掲示板に貼られてから、今日で1週間になるのだが……お目当ての職人は一向に現れない。

 どうせ今日も来ないだろうと諦めようと思ったその時、狼型の獣人が俺たちの依頼書を見るなり、それを剥がして、俺たちの方へやって来た。


「一つ確認したいことがある。あんたらは、本当にこれだけの額を払えるのか?」


 俺は銀色の毛で覆われている狼型の獣人にこう言った。


「ああ、もちろんだ。そこに書かれてある額はきちんと払う。だから、俺たちのクエストを……」


「よし、分かった。明日の正午、仲間たちと共に屋敷を改造しに行くから、屋敷の中の物はできるだけ一箇所に集めておいてくれ」


「……! ああ、よろしく頼むぜ! 旦那!」


「ああ、よろしくな」


 こうして、ユミナの屋敷は獣人たちによって、改造されることとなった。


 *


 次の日……。


「こんにちは、私がこの屋敷の主である魔王の幹部の一人『ユミナ・ブラッドドレイン』です。よろしくお願いします!」


 屋敷にやってきた獣人たちをお出迎えしたのは、ユミナ(黒猫形態)だった。

 俺たちは、合計8日間も店を休ませてもらっていたため、彼らの挨拶はユミナにやってもらった。


「こちらこそよろしくお願いします。依頼書のサインに魔王の幹部の一人の名前が書かれてあるのを見た時は驚きましたが、仕事をさせていただく上ではなんの問題もありません。俺たちはただ誰かの役に立ちたいだけですから」


「あなた方、獣人はかつて人間から差別されていたと聞いていますが、今はもう大丈夫なのですか?」


「はい、今はこうして人間たちに紛れて普通に生活できるほどになりました。これも、魔王様のおかげでです」


「そうですか……まあ、最近その魔王様はちょっと度が過ぎていますから、もうじき誰かが説教しに行くかもしれませんね」


「まったくですな、はっはっはっはっはっは!」


 この時、店の料理を作りながら、その話を盗み聞きしていた俺は心の中で、こう思った。

 まあ、そんな魔王に説教できるほどの力を持っている存在がこんな近くにいるなんて絶対思わないだろうな……と。


 *


 その日から、屋敷の改造工事が始まった。工事の音が聞こえないように、ユミナは『消音サイレント』の魔法を使ってくれていたため、お客さんに迷惑をかけるようなことはなかった。

 しかも、彼らの腕は俺たちの予想を遥かに上回るものだった。

 ユミナが提案した改造計画を前日に確認した俺たちは本当にこれは3日で終わるなのかと正直、疑問に思った。

 しかし、彼らはそれを本当に3日で終わらせてしまった。人間なら、3週間はかかりそうな作業を……。

 働いてくれた獣人たちに報酬を払った俺たちは、感謝の気持ちとして、店の料理を振る舞った。

 たまには、こういう店で食事をするのも悪くないとみんなは言ってくれた。

 彼らは赤字になる直前で食べるのをやめてくれたが、これが酒場だったら、確実に赤字であっただろう……。

 獣人たちの胃袋はいったいどうなっているのだろうか……。

 彼らが屋敷を出る前、俺は銀色の毛に覆われた狼型の獣人に挨拶をしに行った。


「旦那! 本当にありがとう! まさか本当に3日で終わらせるなんて、あんたたちの腕は確かだよ! 本当にありがとう!」


 彼は、ふっ……と笑うと。


「なあに、これくらいの仕事がこなさなきゃ、俺たちはやっていけないんでね。俺たちはただ仕事をきっちりこなしただけですよ」


 俺にそう言った。それに対して俺はこう言った。


「くうー! かっこいいなー! 俺も旦那みたいになれるかな?」


 彼は俺の頭に手を置くと、こう言った。


「あんたには、この店に来たやつらを笑顔にできる力があるだろう? あんたは、そういう面では俺たちと同じさ。だから、胸張って生きろ」


「そっか……。俺は旦那たちと同じなのか……」


「ああ、そうだ。だから、あんたはこれからも自分にできることをきっちりこなしていけばいいのさ」


「そうか……そうだよな。ありがとう、旦那。俺、あんたに出会えてよかった! またどこかで会えるといいな!」


「ああ、そうだな。またどこかで……」


 その時、仲間に呼ばれた彼は、今、行くと言った。そして、俺の耳元でこう囁くと、全速力で店から出ていった。


「またな、次期魔王候補」


「……え?」


 何がなんだかわからなかったが、俺はとりあえず洗い物をしにキッチンへと向かった……。









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