よろこんで!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』(黒猫形態)の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開くこととなった俺たちは、5月になるまでそこで普通に働いていた。
しかし、ある日、俺は気づいてしまった……。本来の目的に……。
「なあ、ルルナ。俺ってさ、魔王を倒せる力を秘めた唯一の存在なんだよな?」
メイド服と猫耳とシッポを身につけた銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』にそう訊ねると、彼女はこう答えた。
「うん、そうだよー。それがどうかしたのー?」
「いや、仕事が終わってからでいいから、今は気にするな」
「あー、うん、分かったー」
異世界でメイドカフェをやることになるとは思わなかったが、今となっては、すっかり慣れてしまった。一人でカフェの料理を作るのにも……。
俺の住んでいる世界の学校が終わってから、来ているから高校を休んでまでやっているわけではないし、ちゃんとお金ももらっているから、大丈夫だ……。今のところは……だけどな……。
さてさて、そろそろ行くか。俺は自分の持ち場の掃除を済ませると、ルルナたちがいるであろう部屋の前に行き、ノックをした。
「おーい、みんなー。いるかー?」
「…………」
返事がない。この場合、本当にいないというパターンと実は部屋の中にいるというパターンがあるが、今回は、おそらく後者だろう。
まあ、ここで突っ立っていても、しょうがない。とにかく中に入るとしよう……。
「入るぞー」
ギィ……と扉を開けた俺は、ゆっくりと中に入った。さてさて、みんなはどこに隠れているのかな?
俺は探すのが正直、面倒くさかったため、部屋から出るそぶりをしながら、こう言った。
「誰もいないみたいだから、このままユミナをもふもふしに行っちゃおうかなー」
ガタッ……と物音がしたため、俺はこの作戦でルルナたちを釣ろうと思った。
「残念だなー。可愛い、可愛い、メイド服を着たみんなに癒してほしかったなー」
俺がそう言うと、5人分の足音が聞こえたため、俺は振り向いた。
そこには、仕事が終わったのにも関わらず、まだメイド服等を身に纏い、頬を赤らめているルルナ、マキナ、マリア、アヤノ、ミーナがいた。
「もしかして、俺の芝居に気づいてなかったのか?」
5人にそう訊ねると。
「だ、だってー」
「お、お兄様が」
「そ、そんなこと言うなんて」
「お、思ってなかったし……」
「し、正直、嬉しかったから……」
なるほど。こいつらは、俺に興味を持ってもらえると思ったから、あえて俺の芝居に付き合ってくれたということだな。
「うーんと、まあ、あれだ。お前らのその格好がすごく可愛いってのは、本心だから、その……素直に喜んでいいぞ」
『……!!』
目を逸らしながら、そう言った彼を見た5人はこう思った。……今すぐ抱きしめたい! と……。
「コホン。とまあ、前置きはこれくらいにして、そろそろ本題に入るけど、いいか?」
5人は、今までのやりとりが前置きだということは分かっていた。分かってはいたが、もう少し彼が照れているところを見たかったと思った……。
「返事がないってことは、いいってことだな。よし、それじゃあ、さっそく本題に入るぞ。俺がお前たちに言っておかなきゃいけないことってのはだな……」
俺が言い終わる前に、ルルナはこんなことを言った。
「あー、そっかー! お兄ちゃんが一人で料理を作るのには限界があるから、人員を確保しないといけないってことだよねー?」
「えっ、いや、別にそういうことじゃ……」
「なるほど! そういうことですか! さすがはお兄様です!」
※『魔○科高校の劣等生』の『さすおに』を意識してはいません……多分。
「そうだよね。お兄さんしか料理担当がいないもんね。ごめんね、お兄さん。今まで気づいてあげられなくて」
「まあ、バカ兄貴にだけ任せといても、あたしはまったく問題ないと思うけどな」
「アヤノさん、珍しいね。ケンジを褒めるなんて」
「あ……ああ、ま、まあ、あたしだって、たまには、褒めるさ」
「そう……」
な、なにこれ? ルルナに便乗するかのように他の4人が俺の話を聞かなくなったぞ。
ルルナめ! さては、俺が何を言うのか気づいて……って、ルルナは俺の心の声が聞こえてるんだったな……。
ホント、厄介だな。その能力……。
こうして、人員募集のチラシを製作、配布することとなった……。
*
数日後。候補が二人来た。どうやら、兄妹のようだ。なぜか俺が面接官に選ばれてしまったため、面接室らしき部屋に入った。
すると、そこには、もう既に二人が木製の椅子にチョコンと座っていた。
俺が二人の前に座るまで二人共、生きているのか分からないくらい、まったく動かずに座っていた。
俺は木製の椅子に座ると木製の机に両肘をついて、両手の指を絡ませるように手を合わせると、その上に鼻を置かないように顔を移動させた。(つまり、ゲ○ドウポーズである……)
「はい、それじゃあ、面接を始めます。えーっと、じゃあ、とりあえず、志望動機を言ってください」
次の瞬間、不思議なことが起こった。
『ここを志望した理由はただ一つ! それは……お店の料理がとってもおいしかったからです!! 具体的に言うなら……』
二人同時に同じことを言い始めたからだ……。なるほど、さては双子だな……。
あー、なんか、いつまでもマシンガントークを聞かされるような気がするな……。
よし、ここは早いとこ終わらせよう……。
「……あー、はい。あなた方の熱意はよく伝わりましたので、これから実技試験を受けてもらいます。ついてきてください」
『はい! よろこんで!』
さて、これから『ハヤト・フライト』と『イーグル・フライト』の実技試験が始まるわけだが……いったいどうなるのか、不安で仕方ない。
なぜかって? それは、実技試験を担当するのは【例の5人】だからだ……。
ちなみに【例の5人】とは、おっとり系の『ルルナ』と、しっかり者だが危なっかしい『マキナ』と、元気が取り柄の『マリア』と、口が悪いが仲間思いの『アヤノ』と、無口で常にジト目な『ミーナ』のことである……。