ふにゃー!
ケンジを見つけるために屋敷中を探し回っていたアヤノとミーナは、一旦屋敷の入り口に戻った。
「おっかしいなー、全然見つからねえぞ」
「はぁ……はぁ……走る必要……あったの?」
「え? お前、バカ兄貴のことが心配だから早く探しに行こうって、言ってたじゃねえか」
「アヤノさん……私……全力ダッシュは……無理……だよ」
「だらしねえな、ミーナは。体力がないとこれから困ることがあるかもしれねえから、体は鍛えてた方がいいぞ?」
「わかった……から、と、とりあえず、ちょっと……休もう……よ」
「うーん、じゃあ、あたしの背中に乗っていいぞ」
「……え? ……なんで?」
「お前は体力はねえが、魔力に関しちゃ、あたしらの中で一番あるからな。いざという時に役に立ってもらうためさ」
ピンク髪ロングと赤い瞳が特徴的な美少女『アヤノ・サイクロン』は笑顔でそう言った。
「そ……そう。なら……お言葉に……甘えさせて……もらうわ」
「おう! 任せとけ!!」
黒髪ツインテールと黒い瞳と黒いゴスロリ服が特徴的な美少女……いや、美幼女『ミーナ・ノワール』は息を切らしながら、アヤノの背中にひょいと乗った。
すると、アヤノはスタンディングスタートの姿勢をとり、赤いカーペットが敷かれた床を思い切り蹴った。
ものすごい勢いで進み始めたため、ミーナはアヤノの背中に乗ったことを後悔しあが、もう遅かった。
*
その頃、ルルナたちは……。
「見つからないね〜」
「そうですね……」
「そう……だね」
「……お兄ちゃん、どこにいるのかな〜?」
「さぁ、どこにいるのでしょうね」
「お兄さん、どこにいるのかな……」
「あー、暇だな〜」
銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』が呑気なことを言いながら、屋敷の廊下を歩いていると。
「ルルナさん! ちゃんとお兄様を探してください!!」
赤髪ロングと緑色の瞳が特徴的な美少女『マキナ・フレイム』が急に立ち止まり、声を張り上げてそう言った。すると。
「そ、そうだよ! もし、お兄さんを見つけられなかったら、私たちは一生、お兄さんを探さないといけなくなるんだよ! それでもいいの!!」
金髪ロングと赤い瞳が特徴的な美少女……いや、美幼女『マリア・ルクス』がマキナに便乗して、そう言った。(マリアはマキナの横で立ち止まった)
すると、ルルナは立ち止まって二人の方を向いた。その後、両手を後ろで組みながら、二人の方へ三歩前進し、立ち止まると、笑顔でこう言った。
「お兄ちゃんなら、きっと大丈夫だよ〜。だって、私たちのお兄ちゃんだもん」
「そ、そんなの理由になりませんよ!」
「そ、そうだよ! 真面目に考えてよ!!」
「……じゃあ、二人はお兄ちゃんのこと、信じられないの?」
ルルナの水色の瞳がいつもより冷たく感じた二人は、ルルナから目が離せなかった。ルルナの真剣な顔と口調は、それほどのものだった……。
「い、いえ、別にそんなことは」
「う、うん、そうそう」
「……ふーん、そっか。なら、ぼちぼち行こうかー」
ルルナの顔がいつもの緩い感じに戻ったのを確認した二人は、顔を見合わせると、アイコンタクトをした。それは、ルルナの言うことは聞くようにしよう、というものだった……。
ルルナは、ニコニコ笑顔で鼻歌を歌いながら、再び廊下を歩き始めた。
二人は、ルルナに置いていかれないように、ルルナの後に続いた……。
*
____その頃、ケンジはというと……。
「……あ……寝てた……えっと……ここは確か……」
ケンジは、屋敷の二階の寝室で眠っていた。魔王に仕える10人の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』と共に。
「あー、思い出したぞ。ここは、ユミナの家だ。えーっと、俺は確か、ユミナの寝顔を見てたはずなんだが……いつのまにか寝ちまったみたいだな」
ケンジは自分の胸に顔を埋めながら、スヤスヤと気持ちそうに眠っているユミナの頭を撫でると。
「魔王の幹部……か。こうしてると、普通の女の子にしか見えないんだけどな……」
眠っているユミナにそう言った。当然、ユミナには聞こえていないが、なんとなくそんなことを呟いてしまった。
すると、ユミナが急に自分の左手の人差し指をしゃぶり始めた。
チュパ、チュパと、音を立てながら夢中で左手の人差し指をしゃぶる姿を見ていると、なんだか自分がいけないことをしているかのような気分になった。
「なんか……くすぐったいな……。というか、意識が……なんか……薄れて……きた……ぞ」
ケンジがベッドに倒れるように横になった直後、眠っていたはずなユミナが目を覚まして、その赤い瞳を不気味に光らせながら、ケンジの首筋に嚙みつこうとした……。(ユミナは吸血鬼と悪魔のハーフ)
しかし、ちょうど寝室に入ってきた、ルルナ、マキナ、マリア、アヤノ、ミーナがそれを見た瞬間、一瞬でユミナは縛り上げられてしまった。(どうして寝室に縄があったのだろうか……もしかして、そういう……いや、やめておこう)
「ねえ、今、お兄ちゃんに何をしようとしてたのかなー?」
「返答次第では、あなたを消しますよ?」
「お兄さんをいじめるなんて、ひどいよ!」
「バカ兄貴も悪いが、お前はもっと悪いってことは、もちろん分かってるよなぁ?」
「ケンジを襲おうだなんて、バカな幹部ね」
ユミナは、壁の隅に追いやられ、五人に罵られていた。しかし、今にも泣きそうなユミナはこんなことをして、難を逃れた。
「ふ、ふにゃー!」
黒猫に変身して、部屋から出ていくという手段を使って……。
みんながユミナ(黒猫形態)を追いかけ始めた時、ルルナだけはケンジのそばに行った。
「お兄ちゃん……私がお兄ちゃんにかけられた魔法を解いてあげるから、じっとしててね……」
ルルナはそう言うと、徐々にケンジの顔に自分の顔を近づけていった。そして……ケンジの顔をどこかにキスをした……。
部屋に響き渡ったその音が止む頃には、ケンジはゆっくりと目を開けていたそうだ……。




