よっしゃあ!
昨日、ルルナとマキナとマリアとアヤノと試合をしたせいで、俺の体は今、疲労状態だった。
だが、そんな体であろうと俺は今日も高校に登校しなければならない。
日中は現実世界で勉学に勤しみ。放課後は異世界で時間の許す限りモンスターを素手で倒しまくる。
体は日々、進化しているらしいが、そんなに実感はない。自分が強くなっているというより、モンスターが日々弱くなっていくような気がしてならないからだ。
俺はそんなことを考えながら、授業が始まる前のなんとも言えない時間に机に突っ伏していた。
すると、誰かに頭をトントンと人差し指で軽く叩かれた。
ルルナかな? いや、あいつなら、俺を全力で起こすはずだからないな。
マキナかな? いや、あいつはそもそも俺の睡眠を妨げるようなことはしてこないから、ないな。
マリアかな? いや、あいつは俺が寝ていたら、そのまま優しく見守るだろうから、ないな。
じゃあ、アヤノかな? いや、あいつは多分、さっさと起きろ! バカ兄貴! とか言いながら俺を叩き起こすはずだからないな。
うーんと、じゃあ、誰なんだ? 俺はそこまで考えてから、ゆっくりと顔を上げた。
「あっ、おはよう。ケンジ。寝不足なの?」
「ああ、そうなんだよ。昨日ちょっと張り切りすぎちゃって……。あぁ、腰が痛いなぁ……」
「へえ、そんなになるまでヤッたんだ」
「いやあ、なんかどうしてもって言うから仕方なくだよ、仕方なく」
「へえ、ケンジは昨日、女の子を取っ替え引っ替えしてたんだね」
「……ん? なんか話がかみ合ってないような。……ていうか、お前誰だ?」
俺の目の前に立っていたのは、黒い瞳と黒髪ツインテールと黒いゴスロリ服が特徴的な美少女……いや、美幼女であった。(なぜか常にジト目)
「あれ? 私のこと知らないの? はぁ……そっか。ケンジはまだ私のこと知らないんだね。まあ、今から教えるから問題ないかな。コホン……私の名前は『ミーナ・ノワール』。ケンジの妹候補の最後の一人……だよ」
「ほ、本当にお前が俺の最後の妹候補なのか?」
「信じられないの? じゃあ、ちょっと力を使うから、見てて」
ミーナは指をパチン!と鳴らすと、教室を黒い空間へと変化させた。
「どう? びっくりした?」
「え、えーっと、これはいったい……」
「私の闇魔法だよ?」
「闇魔法……あー、なるほど、じゃあ、お前がルルナが言ってた闇魔法が得意なやつなんだな?」
「うん、そうだよ」
「そっかあ。じゃあ、これで異世界に居られる時間が4時間から5時間に……」
「ううん、もう何時間でも居て大丈夫だよ」
「え? そうなのか?」
「うん、そうだよ。だから早く私と『兄妹契約』を結んで」
「うーん、それって、どうしても、しなくちゃいけないのか?」
「それが私の……私たちの役目だし、ケンジの義務でもあるよ」
「うーん、そうだなー。とりあえずルルナたちに相談し……」
「これはケンジが自分自身で決めなきゃいけないこと……だよ?」
「そうか……なら、考えるしかないか……とでも言うと思っていたのか?」
俺は『ミーナ』の襟首を掴むと、ぐっと顔を近づけさせて、こう言った。
「いいか? 俺は好きで特訓してるわけじゃないし、できるなら早く魔王を倒して、普通の高校生活を送りたいと思ってる。だから、俺は……」
その時、ミーナは俺の頬を叩いた。
「……バカなんだね、ケンジは……。自分の立場が分かってないみたいだから言うけど、ケンジに拒否権なんてないし、断ったらケンジの世界は10秒以内に消滅するんだよ? それでも、ケンジは断るの?」
俺は幼女に頬を叩かれたことよりも、俺の選択一つで世界が滅ぶかもしれないということを考えた。
「……お前は俺にそれを伝えるために来てくれたのか?」
「そう……だと思う」
「そうか……なんかごめんな。俺、ここ最近かなりバタバタしてたから、お前にやつあたりしちまった」
「ううん、誰だって、そういう時はあるよ。だから、気にしなくていいよ」
「そっか……ありがとな」
「別に感謝されるようなことはしてないよ?」
「お前はそうかもしれないが、俺はお前のおかげでまた一つ成長できたから、ちゃんと気持ちを伝えとこうと思ってな」
「そう……じゃあ、今から私と『兄妹契約』を結んでくれる?」
「ああ、いつでもいいぞ」
「うん、分かった。それじゃあ、するね……」
こうして、俺とミーナ・ノワールは『兄妹契約』を結んだ。(お互いの血を飲めば、完了)
「じゃあ、先に向こうで待ってるから、放課後、会いに来てね?」
「ああ、分かったよ。まあ、まだ1限目も始まってないから、結構待たせちまうがな」
「ううん、大丈夫。待っている時間は嫌いじゃないから」
「そうか……じゃあ、今日の放課後にな」
「うん……」
ミーナはそう言うと、俺の前から姿を消した。その直後、俺は元の教室に戻った……。
「今のは夢……じゃないよな?」
「なにがー?」
その時、ヒョコっと現れた銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ』がそう言った。
「いや、なんでもない」
「えー? 教えてよー」
「今日の放課後まで待ってろよ」
「もし待てないって言ったらー?」
「今日のお前の晩ごはんを抜きにする」
「あははは〜、それはかなり困るねー」
「だろ? だから、今は何も訊くな」
「うーん、じゃあ、今日の晩ごはんのおかずを、お兄ちゃ……じゃなくて、ハンバーグにしてくれたら、我慢してあげてもいいよー」
なんか今、俺をおかずにするとか言わなかったか? うーん、まあ、いいか。きっと空耳だろう……。
「よっしゃあ! じゃあ今日は俺の特製ハンバーグを作ってやるよー!」
「うん、分かったー。じゃあ、他の3人にも伝えてくるねー」
ルルナはそう言うと他の3人(マキナ、マリア、アヤノ)のところへ走っていった。(その3人は教室の後ろの方で作戦会議らしきものを行っている……)
今日は食費がかかりそうだな。まあ、ここ数日、異世界のモンスターを倒したら、2割くらい調理して食べてたから別にいいけどな……。
俺はそんなことを考えながら、頬杖をつき、窓の外の景色を見ていた……。