中途半端だな!
朝……。俺はゆっくりと起き上が……ろうとしたが、何者かが俺の腹の上に乗っているせいで、それが出来ずにいた。
早くしないと高校に行く時間になってしまうが、この状況をなんとかするためには、とりあえず体を傾ける必要がある。
こうすれば、重力で徐々にその者の体勢が崩れ、やがて落ちるからだ。
俺は早速、それを実践したが、どうやら、俺の計算は間違っていたらしい……。
なぜって? それは……そいつが俺に抱きついていたからだ。
あー、もう! じれったい! そう思った俺は、そいつを移動させようとしたが……。
そいつの握力が異常に強かったせいで、俺から離れる可能性がさらに低くなってしまった。
誰かー……助けてー。俺は心の中でそう呟くと。
「お兄様、おはようございます。すみません、昨日の晩、ルルナさんは私を抱き枕にして寝ていたのですが、朝に近づくにつれて、お兄様の方へと移動してしまったようでして……」
この声は……マキナか。ということは、俺の腹の上で寝ているのは……ルルナか。
気持ち良そうな寝顔しやがって……。きっといい夢見たんだろうなぁ……。
「いや、マキナのせいじゃないから、大丈夫だ。だけど、さすがにこの体勢のまま登校できないから、ルルナを俺から引き離してもらえないか?」
「それは……やめた方がいいと思います」
「ん? どうしてだ?」
「お兄様は今より前の学校に通っていた頃のルルナさんのことを知っていますか?」
「うーんと、知らないな。こいつ、何にも言わないから」
「そうですか。では、簡単に説明しますね」
「おう、頼む」
まだ布団から起き上がれない俺は、マキナの話を横になった状態で聞くことになった……。
「なるほどなぁ……。ルルナはそんなやつだったのか。でも、なんとなくそんな気はしてたよ」
「まあ、私もルルナさんと出会った時はそういう面では驚かされましたけどね」
「だろうな、あははははは」
誰が予想していただろうか? 異世界のお嬢様学校に通っていた頃のルルナが、学校の女王だったということを……。
俺が笑っていると、ルルナはいつのまにか起きていた。そして。
「お兄ちゃん、私の秘密を……知っちゃったんだね?」
ゆっくりとこちらに目線を合わせると、冷たさしか伝わってこない水色の瞳でこう言った。
「ねえ、お兄ちゃん。私はどっちだと思う?」
「どっちって、俺は今のルルナしか知らないから、比べようがないぞ?」
「じゃあ、今からお兄ちゃんは私の奴隷ね」
「今でも十分、こき使われていると思うんだが……」
「そんなの知らないよ。それで? お兄ちゃんは脱力系妹とサディスト妹のどっちがいいの?」
どっちがいいって、聞かれても……甘えてほしいっていうやつもいれば、とことん攻め抜いてほしいっていうやつもいるから、迷うんだよな……。
うーん、まあ、俺の正直な気持ちを伝える方が吉か。
「うーん、まあ、俺はどっちでもいいかな」
「ちゃんと選んでよ……。それって、何が食べたい? って訊いたら、何でもいいよー……って答えるのと同じくらい困るやつなんだよ?」
「何か誤解しているみたいだから言うけど、別に俺はどっちでもいいから、他人に迷惑はかけないように普通に生活くれって言ってるわけじゃないぞ?」
「じゃあ、どういうこと?」
「えーっとな、その……どっちのお前も好きになれそうだから、お前の好きな方の自分でいればいいんじゃないかって、ことだ……」
「お兄ちゃん……それって」
「あー! もう! 面倒くさいな! いいか? 俺はお前がどんな性格や姿になっても、お前を捨てたりしないし、お前の意思を尊重するって言ってんだよ!」
「……そっか。そうなんだ、あははは」
「な、何がおかしいんだ?」
「別に……なんでもないよ」
「そうか。なら、早く退いてくれないか? このままだと三人とも遅刻す……」
「嫌だ、もうちょっとお兄ちゃんとイチャイチャする」
ルルナは馬乗り状態から、俺をギュッと抱きしめた。
「そんな低めの声で言われても嬉しくないんだが……」
「……うるさい、お兄ちゃんは私の言うことを聞いてればいいの」
「あー、そうですか。じゃあ、そうしましょうかね。マキナ、悪いけど先に行っててくれ。遅刻はしないようにするから」
「で、ですが、お兄様!」
「大丈夫だよ、マキナ。昨日、ルルナは俺と寝てないから色々と補充できてないだけだ」
「補充……ですか。分かりました、では先に行っていますね」
「おう、そうしてくれ」
「では、行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい」
マキナが家から出ていった直後、ルルナはいつもの口調に戻って……。
「あ〜、お兄ちゃんの熱が私の中に伝わってくるよ〜」
嬉しそうにそう言った。
「あんまり、そういうこと言うなよ……」
「え〜? 何のこと〜?」
「いや、なんでもない。それで? 俺はいつまで、こうしてればいいんだ?」
「うーん、もうちょっとかなー」
「そのもうちょっとが、どれくらいか知りたいんだが……」
「えーっとね、あと……三百年!」
「はい、無理ー! よーし、とりあえず離れろー!」
「いーやーだー! お兄ちゃんともっとこうしていたいよー!」
「いいから離れろって!」
「じゃあ、今日から、また私と寝てくれるー?」
「その言い方はやめろ! 誤解されるから!」
「誤解〜? それって、なあに?」
「あー、もう! 分かったよ! 今日から俺がお前専用の抱き枕になってやるから、とりあえず離れてくれ!」
「本当にー? ありがとう、お兄ちゃん!」
ルルナは俺から離れると、すっと立ち上がった。やれやれ、やっと解放された。
俺はゆっくり立ち上がるとこう言った。
「まったく、お前の握力はどうなってるんだ?」
「それは秘密だよー」
「そうか……じゃあ、早く食って学校行くぞ」
「うん、分かったー」
やれやれ、ようやくおとなしくなったな。手がかかる妹だ。うーん、実の妹じゃないけど、結構大変なんだな、お兄ちゃんになるのって……。
「お兄ちゃん、どうかしたのー?」
「ん? あー、いやなんでもない。早く行くぞ」
「うん!」
それから俺とルルナは朝にしなければならないことをなるべく早く済ませると、家を出た。
マキナが待ってくれていたのは意外だったが、どうせ登校するなら、人数は多い方がこれから学校に行かなければならないことを少しの間、忘れられるからいいかと思い、俺たちは一緒に登校することになった。
「ねえ、お兄ちゃん、あの雲なんか、クワガタみたいだねー」
「え? あー、そうだな……って、ツノが一本ないぞ! 中途半端だな! おい!」
「たしかに中途半端ですが、たとえツノが一本しかなくても、あのクワガタはそんなことなどまったく気にしていないように見えますね」
「さすがだな、マキナ。短所を短所と捉えないその発想! それで? ルルナはどう思ったんだ?」
「えー、私ー? 私はねー」
こんな感じで俺とルルナとマキナは楽しく登校するのだった……。




