よーいドン!
魔王(主人公の実の弟)が主人公の家に帰ることになったため、魔王の配下だった者たちは次の魔王候補を探すことになった。
主人公にはその資格があったのが、辞退した。なぜなら、彼はそんな力があっても普通の高校生活を送りたかったからである。
魔王を倒すというより魔王を故郷に連れて帰るという形で主人公の目標は達成された。
これにより、ルルナたちの世界は新しい魔王が現れるまで平和となった。
主人公とその弟は、元の世界に帰ることになったが、ルルナたちとはもう家族同然の関係になっていたため、ルルナたちも彼らと共に主人公の家に帰ることとなった。
戸籍上、彼女たちの苗字は『田村』となり、正式な家族になった。
これにより、ルルナたちは主人公と結婚できなくなったわけだが、義理の妹から本当の妹になれたことが嬉しかったらしく、彼への愛が一層深まったそうだ。
え? 元魔王の幹部であるユミナとカナミがどうなったのかって?
ユミナは誰かが来た時は猫の姿でいるという条件で主人公の家に居候することになった。
カナミは近所のメイドカフェでマスコット的な存在となっている。
ちなみにそのメイドカフェでメイド長をやっている。一応、そこに住んでいるらしいが、ちょくちょくうちに遊びに来る。
まあ、白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美幼女だから、問題ないだろう。
ユミナが異世界に開いていた【メイドカフェ レインボー】は例の二人の座敷わらしがお店を継いでくれたおかげで今でも繁盛しているらしい。
最初はニコニコ笑っていることしかできなかった二人だが、今では立派に成長している。
時の流れというものは早いものである。
主人公の弟は彼より五歳年下だが、彼の希望により、主人公と同じ高校で学ぶことになった。
つまり、飛び級したということだ。
日本にそのような制度はないはずだが、元魔王だから、そのようなことができてもおかしくない。
そんなこんなで主人公は、普通の高校生に戻った。
「なんかあっという間だったな……」
「何がー?」
「何がって、今年の夏休みの話だよ」
「まあ、ずっと魔王を倒すために特訓してたもんねー」
「でも、今ではいい思い出になったよ。本当に」
「うん、そうだね。平和になってよかったね」
銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』はニコニコ笑いながら、そう言った。
「けど、もう俺は普通の高校生なんだよな」
「せっかく普通の高校生活を送れるようになったんだよ? これからは普通の高校生がやりそうなことをやっていけばいいんじゃないかな?」
「うーん、まあ、そうなんだけどさ……。あの世界での毎日が俺にいい意味で刺激を与えてくれていたというか、なんというか……」
「つまり、お兄ちゃんは退屈で仕方ないんだね?」
「まあ、そういうことだ。はぁ……」
「お兄ちゃん、大丈夫? 調子悪いの? 今日、学校休む?」
「いや、それは登校する前に言ってくれ。というか、俺はそろそろ大学受験に向けて、勉強を頑張らないといけないんだよ」
「へえ、そうなんだ。私たちは卒業したら、カナミちゃんのメイドカフェで働くことになってるからいいけど、お兄ちゃんは毎日忙しくなるんだね」
「人類を救った英雄も受験からは逃げられない……か。これなら、まだ魔王と戦ってた方がマシだな」
「まあまあ、お兄ちゃん。平和が一番なんだから、今を楽しもうよ」
「まあ、それもそうだな。えっと、今日の一時限目って、なんだっけ?」
「今日の一限目? えーっと、確か『数学』だよ」
「朝から『数学』かよ。はぁ……テンション下がるな」
「大丈夫だよ。先生に指名されたら、私がこっそり教えてあげるから」
「ああ、よろしく頼むぞ……」
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん? なんだー?」
「お兄ちゃんは、これから普通に高校生活を送れるわけだけど、将来の夢とかあるの?」
「んー、まだないなー」
「そっか。なら、一つ頼みがあるんだけど、いいかな?」
「ん? なんだ?」
「えーっとね、私のお母さんがね。魔王候補たちを潰し隊を結成するって言ってるんだけど、そこに入ってみない?」
「おい、ルルナ」
「ん? なあに?」
「それは時給いくらだ?」
「えーっと、たしか一万カオスだって言ってたよ」
日本円で一万円……。
「それをもっと早く言ってくれよ!」
「じゃあ、やるんだね?」
「ああ、やってやるよ! というか、俺にぴったりな仕事じゃねえか!」
「ふふふ……そうだね。それじゃあ、今週の土曜日の夕方にお母さんのところに行ってね」
「ああ! 死んでも行ってやるさ! よし! それじゃあ、学校まで走るぞ! ルルナ!」
「うん! 負けないよー!」
『よーいドン!』
彼らはまだ止まらない、止まれない。
これからも彼らが止まらない限り、道は続く。
彼らが止まらない限り、その先に未来は待っている。さぁ、行こう。まだ見ぬ未来へ向かって!!
「……ねえ、ナオト。あの子たちのこと、知ってるのー?」
「うーん、まあ、知らないと言ったら、嘘になるかな」
「ふーん、そうなんだ」
「……さぁ、行くぞ、ミノリ。みんなが待ってる」
「それもそうね。早く帰りましょう」
空から二人を見ていた彼らはそう言うと、自分たちの時間軸に戻っていった……。