もっとー!
夏休み……ユミナの屋敷……ユミナの寝室……休憩中……。
「ねえ、ケンジくん」
ベッドの上に座っているユミナ(黒猫形態)はそう言いながら、ぷにぷにしている肉球で俺の脇腹に触れた。
「んー? なんだー?」
同じベッドに座っている彼は彼女の方を見ながら、そう言った。
「君との戦いでちょっと疲れちゃったから、マッサージしてくれない?」
「いや、猫にマッサージするなんて聞いたことないぞ」
「猫の体でも疲れは溜まるんだよー。ねえ、ねえ、ケンジくーん」
「はぁ……分かったよ。じゃあ、横になってくれ」
「はーい」
ユミナ(黒猫形態)はそう言いながら、彼の膝の上に乗ると、うつ伏せになった。
「おい、なんで俺の膝に乗るんだ?」
「えー、別にいいじゃん。減るものじゃないんだからー」
「いや、まあ、それはそうだが……」
「じゃあ、早速やってもらおうかなー」
「あー、はいはい、今やりますよー」
彼はそう言うと彼女の背中を指で押し始めた。
「……ふにゃ!?」
「な、なんだよ。いきなり」
「だ、だって、ケンジくんが変なところ触るから」
「いや、俺はまだ背中しか触ってないのだが……」
「い、いいから、もう少し優しくしてよー」
「あ、ああ、分かった」
彼はユミナの背中を指で優しく押すことにした。
「こんな感じでどうだ?」
「……う……うん……結構、いいかんじ……だよ」
「そうか、そうか。それは良かった」
「で、でも……ちょっとだけ指を動かすのをやめてくれないかな?」
「ん? なんでだ?」
「い……いや……その……ちょっと休憩させて」
「分かった。じゃあ、ちょっと休憩しようか」
彼はそう言うとユミナ(黒猫形態)の頭を撫で始めた。
「ケ……ケンジくん……なんで私の頭を撫でるの?」
「いや、別に深い意味はないけど……。なんか撫でたくなったというか……なんというか……」
「そ、そうなんだ……。まあ、程々にね」
「ああ」
彼はそう言うと今度はユミナ(黒猫形態)の耳を触った。
「ふにゃあああああああああああああああああ!!」
その直後、ユミナ(黒猫形態)は彼の膝から飛び降りて、部屋の隅に高速で移動した。
「おい、どうしたんだよ。ユミナ。俺、なんか変なことしたか?」
彼はかすかに震えているユミナ(黒猫形態)の近くに行きながら、そう言った。
「ね、ねえ……ケンジくん。私、体がおかしくなってるみたいなんだけど何か知らない?」
「うーん、何かって言われてもな……」
「た、例えば、マッサージする前に何かの魔法を使った……とか……」
「うーん、あー、そういえば、マッサージを始める前にお前の触覚を敏感にした気がするなー」
「それだよ、それー! なんでそんなことするのー!」
「いや、だって、お前に気持ちよくなってほしかったから……」
「大きなお世話だよ! 二度としないで!」
「わ、分かったよ。もうしないから、そんなに怒らないでくれよ」
「ふん! ケンジくんなんてもう知らない!」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うとそっぽを向いた。自分がやられたら、こんな反応するのか……。俺の時は楽しんでたクセに……。
まあ、でも、少しやりすぎたのは事実だからな……。
「まあまあ、そう言うなよー」
彼はそう言いながら彼女に近づくと、彼女の喉を触り始めた。
「そ、そんなことしても許さな……ふにゃー……もっと……もっと触ってー……もっと、もっとー!」
「よーしよしよしよし、ユミナは可愛いなー」
「も、もうー、からかわないでよー。ふにゃー」
「おーい、そろそろ特訓再開するぞー……って、お前ら、何してんだ?」
寝室に入ってきたのは、白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美少女……いや美幼女『カナミ・ビーストクロー』だった。
「何って、見ての通り、ユミナの喉を撫でてるだけだぞ?」
「はぁ……お前な。そうやってユミナを猫扱いしてるから、こいつはずっと変身を解かないんだぞ?」
「え? そうなのか?」
「ああ、そうだ。あと、その辺にしとかないと、そいつ、壊れるぞ?」
「そうなのか? じゃあ、やめよう」
彼が彼女の喉を撫でるのをやめると、彼女は満足そうな笑みを浮かべながら、コテンと倒れた。
「よし、じゃあ、そいつをベッドに運んだら、私と特訓の続きをやるぞ」
「ああ、分かった。じゃあ、少し待っててくれ」
「おう、慎重に運べよ。王子様」
「王子様……か。俺はそういうキャラじゃないんだけどな……」
彼はユミナ(黒猫形態)をベッドまで運ぶとカナミと共に屋敷の近くにある草原へと向かい始めた……。