僕の一部になるからさ!
夏休み……ユミナの屋敷……ユミナの寝室……。
「……ちゃん」
ん? 誰かが俺を呼んでいる気がするな……。
まあ、かなりの確率であいつだろうが……。
彼はそんなことを考えながら、ゆっくりと目を開けた。
「……う……うーん……」
「お、お兄ちゃん! よかった! 生きてた!」
ユミナのベッドで横になっていることに気づいた俺は、泣きながら俺の胸に顔を埋めたルルナを呼んだ。
「……なあ、ルルナ」
「なあに? お兄ちゃん」
銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』は涙を拭いながら、そう言った。
「俺……なんか……体が軽いんだけど、何か知らないか?」
「ああ、それはね。お兄ちゃんは数時間前に、十個あるリミッターのうち九個目まで自力で解除したからだよ」
「そう……だったのか。道理で体が軽いわけだ」
「でもね、お兄ちゃん。そのせいでお兄ちゃんの体は……」
再び泣き始めたルルナは俺の胸に顔を埋めた。
小刻みに震える彼女の姿は見ていて少し悲しかった。
「ルルナ、正直に言ってくれ。俺の体はいったいどうなってるんだ?」
「そ、それは……」
その時、ユミナ(黒猫形態)が俺の腹の上に座った。
「それは私が説明するよー。だから、ルルナちゃんは少し休んでてー」
「で、でも……」
「ルルナちゃん、これは店長命令だよ。お願いだから、少し休んで。ね?」
「うん、分かった。じゃあ、またね。お兄ちゃん」
「お、おう……またな。ルルナ」
ルルナが寝室から出ていった後、ユミナ(黒猫形態)は俺の頬を叩いた。
「な、何すんだよ。痛……くない……」
「一つ目、君は痛覚が無くなった」
その直後、ユミナ(黒猫形態)は俺の左目を潰した。
しかし、数秒後には再生した。
「二つ目、君の体の治癒力が爆発的に高まった」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うと、俺の心臓を貫き、そのまま俺の体から引き抜いた。
しかし、それはまた生えてきた。そう言い表わすことしかできないほど、それは恐ろしいスピードで再生した……。
「三つ目、君は死ねない体になってしまった」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うと、俺にあらゆる属性の魔法をぶつけた。
しかし、俺の体はそれらを吸収してしまった。
「四つ目、君は相手の魔法を全て自分のエネルギーに変換できるようになった」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うと、泣き始めた。
「ケンジくん……ごめんね……。君がこんな体になってしまったのは……私のせいだ……。だから……私を好きにしていいよ……。私はどんなことをされても構わないから……」
ユミナ(黒猫形態)が泣いている姿を見たのは、おそらくその時が初めてだった。
俺の腹の上に座っている一匹の黒猫は小さな手で涙を拭っていたが、それはどんどん溢れ出ていた。
彼は、彼女を抱き寄せると頭を撫で始めた。
「ユミナ……俺は大丈夫だよ。こんな体になろうと俺は俺だ。だからさ、もう泣くのはやめてくれ。じゃないと、俺がお前を泣かせたみたいに思われるからさ」
ユミナ(黒猫形態)は彼に身を委ねながら、涙目でこう言った。
「ごめんね、ケンジくん。情けないよね。元魔王の幹部なのに……。けど、ありがとう。君のままでいてくれて」
「それはきっとお前を含めたみんなのおかげだ。だから、こちらこそありがとう」
「うん……うん……そうだね。きっと……そうだよね」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うと、しばらくの間、彼の腕の中で泣いていた。
その様子を扉の隙間から見ていた他のみんなもしばらくその場で泣いていた。
*
その頃……魔王城では……。(鏡魔法でその様子を見ていた)
「お兄ちゃんのリミッターが全部外れるのは時間の問題だね。テラス」
サキュバス族の『テラス・チャーム』。魔王の幹部の一人。
「はい、魔王様」
「ねえ、僕の幹部たちを僕の一部にしてもいいかな?」
「それは……冗談……ですか?」
「ううん、僕は本気だよ。だって、本気でお兄ちゃんと戦える機会なんて、これから先、絶対にないからね」
「ですが、そのうち二人は、裏切り者ですよ?」
「大丈夫だよ。僕の魔王属性を使えば、あの二人も戻ってくるから」
「本当によろしいのですか?」
「何が?」
「もし、魔王様がそのようなことをしてしまったら、魔王様のお兄様が暴走する可能性がありますが……」
「暴走……か。ふふふ……僕は別に構わないよ。むしろ、好都合だ」
「なるほど。分かりました。では、皆さまに、このことを……」
「ううん、その必要はないよ。だって……最初に君が僕の一部になるからさ!」
魔王はそう言うと、彼女を吸収してしまった。
「サキュバスって、意外と美味しくないんだね。まあ、別に味なんてどうでもいいけどね……。さてと、それじゃあ、他の幹部たちも食べに行こうかな」
魔王(主人公の実の弟)はそう言うと、城の中にいるであろう幹部たちを食べにゆっくりと歩き始めた……。