今日も張り切っていくよー!
夏休み……異世界……ユミナの屋敷……ユミナの寝室……。
「ねえ、ケンジくん。私、昨日変なことしてなかった?」
ユミナ(黒猫形態)はベッドの上に座った状態でそう言った。
「いや、別に……そんなことは……ないぞ」
「んー? 本当かなー?」
「あ、ああ、本当だ」
「ふーん……まあ、別にいいけどねー」
「そ、そうか……」
昨日、俺の血を吸った後、酔っ払ってたなんて言えるわけないだろ……。
「それじゃあ、今日も張り切っていくよー!」
「お、おー!」
それから俺たちは外にでた。
ユミナの屋敷付近の草原……。
「さあて、今日は何をしようかなー」
「できればあんまりきつくないのがいいな……なんて……」
ユミナ(黒猫形態)は俺の頭をぷにぷにの肉球で叩くとこう言った。
「そんなこと言ってたら、いつまで経っても魔王を倒せないよー」
「いや、だからって、叩くことないだろ」
「今のは愛の鞭だからいいんだよー」
「愛の鞭って……お前な……」
「さあ、張り切っていこうー!」
「無視しやがった……」
その後、俺はユミナ(黒猫形態)が召喚するモンスターをひたすら倒すという謎の特訓をさせられた。
「それじゃあ、少し休憩にしよっかー」
「やっとかよ……」
俺はその場に座るとそのまま横になった。
青い空はどこまでも続いていて、白い雲はゆっくりと形を変えながら、俺の視界から消えていく。
そして、赤目の黒猫は俺の胸の上で横になっている。
「……おい、ユミナ。重いから、どいてくれ」
「えー、別にいいじゃん。減るものじゃないんだからー」
「いや、息苦しいからどいてくれ」
「うーん、そうだなー。さっき私のこと、重いって言ったからダメー」
「なんだよ、それ……」
「まあ、女の子に重いって言ったらダメってことだよー」
「あー、そういうことか……。えーっと、ユミナ」
「なあに?」
「その……重いとか言ってごめん……」
「うん、いいよー」
「え? 許してくれるのか?」
「うん」
「お前……軽いな……」
「それが私のいいところだからねー」
「そうか……」
「うん……」
こうしていると、魔王と近いうちに戦わなければならないということがどうでもよくなってくる。
ずっとこんな時間が続けばいい……。
そんなことを考えていると、それは突如として姿を現した。
「やあ、兄さん。こんなところで昼寝なんてしてていいの? 僕に勝つんでしょ?」
俺の顔を覗き込んでいたのは、魔王(実の弟)であった。
しかし、それは黒い何かでできているため、本物かどうかは分からなかった。
「ああ、そのつもりだよ。けど、休むことも大事なことなんだよ」
「へえ、そうなんだ。というか、やっぱりユミナちゃんは僕を裏切ってたんだね」
「うん、そうだけど。それがどうかした?」
「ひどいなー。僕は君とは友だちになれると思っていたのに」
「残念でしたー。そう思ってるのは君だけだよ」
「そっか。というか、カナミちゃんの気配がするんだけど、もしかしてカナミちゃんも僕を裏切ってるのかな?」
「うん、そうだよ。知らなかった?」
※二人とも元魔王の幹部……。
「初耳だよー。けど、まあ、薄々気づいてたけどね」
「だろうねー」
「で? お前はいったい何をしに来たんだ?」
「あー、えーっとねー。兄さんと僕が戦う日時を伝えに来たんだよ」
「そうか……。で? それはいつなんだ?」
「うーんとねー。夏休み最終日の午後一時だよー」
「そうか……って、あと一ヶ月と少ししかないじゃないか!」
「まあ、そういうことだから頑張ってねー」
魔王はそう言うと俺たちの前から、ふっと消えた。
「ちょ、待てよ! 話はまだ終わって……」
俺は起き上がろうとしたが、ユミナ(黒猫形態)が闇魔法で俺を拘束したため、動けなかった。
「まあまあ、まだ一ヶ月ちょっとあるんだから、気軽に行こうよー」
「そ、そうは言ってもだな……」
「まあ、君がどうしても早く強くなりたいのなら、私とカナミちゃんを倒すしかないねー」
「お、お前とカナミを倒す……だと?」
「うん」
「えーっと、ちなみに今の俺って、お前とカナミに勝てるのか?」
「そんなの無理だって、自分が一番よく分かってるでしょー?」
「あ、ああ……」
「じゃあ、明日から私とカナミちゃんを倒せるように頑張ろうねー」
「……あ……ああ……」
こうして、俺はさらなる地獄を味わうことになってしまったのである……。